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鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 第3幕 ホープ・ダイヤ
29/59

29.さんにんめ




    ・前回のあらすじです。

    『クロがブロッケンの手伝いをえる』









「こまるんだよねえ」


 ()を開けると、視界がぼやけた。ピントをあわせようとしても、うまくいかない。【魔術(まじゅつ)】の強い光を受けたために、サングラスごしでも魔法(まほう)の義眼に影響(えいきょう)が出たのだ。

 つくった【魔術師(まじゅつし)】からは、そうした【魔光(まこう)】によわい部分もふくめて、「改良(かいりょう)したタイプにつけかえようか」ときかれたことがある。普段も、サングラスをかけていても、視界にチラチラと黒い点が映ったりする――『飛蚊症(ひぶんしょう)』に似た症状(しょうじょう)が出ることもあり、新型にえたほうがいいのは、和泉(いずみ)重々承知(じゅうじゅうしょうち)だった。


 だが、そうした不便な点も込みで、和泉は自分の視界に満足(まんぞく)していた。これくらいが「ふさわしい」。

 ぼやけた白い世界で、「ぬっ」と映りこむ影が動く。首を振ったのだ。「困るんだよねえ」――と、彼はくりかえした。

(なにが)

 と問おうとして、和泉は視界と共に、ぼんやりしていた意識をはっきりさせる。飛び起きる。

「クラリス!」

 さっきまで対峙(たいじ)していた少女の()をさけぶ。自分を覗き込んでいる影は、彼女ではない。それはわかっていた。


 影は、和泉(いずみ)に黄色いものをよこす。サングラスだ。つるを取り、目にかける。シパシパする目のピントが、ゆっくりと合っていく。

 レンズに()は、入っていない。物理的に調光(ちょうこう)されたことで、義眼の運動によゆうができ、本来(ほんらい)の効果を取りもどしたのだ。

 ()のまえには、やせた(おとこ)が立っていた。

「きみで『三人目(さんにんめ)』か」

 白衣(はくい)をきて、ぶっきらぼうにポケットに手をつっこんでいる。ヒゲは無い。

「高等部一年生(いちねんせい)のカリオストロにやられたんだって?」

 ボサボサの黒髪(くろかみ)の、三十(さんじゅう)ほどの男だった。

「学院の先生がことごとく……。あきれちゃうね」


 たいくつそうにあくびをして、男は和泉のそばから離れた。

「ガレノス先生がいる」

 白衣(はくい)の男は、和泉(いずみ)の知っている人だった。

 ――白い寝台(しんだい)。しきりのカーテン。ブルーのおおいのすきまからのぞく、医療(いりょう)器具……。

「……ってことは、【病棟(びょうとう)】?」

「うん」

 男――ガレノス医師は、ぶっきらぼうに言った。

「【賢者(けんじゃ)】さまのつかいが、きみを運んできてくれたんだよ」

「チャコが?」

 【賢者】と聞いて、和泉は質問をかさねる。

「じゃあ、(あかね)も来てくれたんですね。いまはどこに?」

使(つか)()だけだって。賢者さまは見なかったな。どっかで遊んでんじゃないの?」


 ガレノスは、煙草たばこがあったらプカリと煙の()を浮かしそうな顔をする。和泉はガッカリする。

「しばらく安静(あんせい)にね」

 つっけんどんに、ガレノスが注意(ちゅうい)をする。

「話し相手がほしかったら、お隣にいるから。きみの『お仲間』だよ」


 それを最後に、ガレノスは病室(びょうしつ)を出ていった。

 ――ぽすん。

 まくらに、白い(あたま)を載せなおす。

 ガレノスの言葉は、「隣りのベッドにも入院(にゅういん)患者(かんじゃ)がいる」という意味(いみ)だろう。『おなかま』と言うのなら、和泉(いずみ)同様(どうよう)、カリオストロにやられた魔術師(まじゅつし)だ。

(そうだとして……。『ふたり』だよな? 『三人』って言ってたような)

 もうひとりは、誰になるのだろう。

 憶測(おくそく)を立てようとして、不毛な詮索(せんさく)だと途中でやめる。


 しゃっ。

 カーテンが開いた。

「よお、和泉(いずみ)先生! あんたもぶっとばされたんだってな!」

 ――わっはっはっはっはっ!

 清涼(せいりょう)感あふれる、空色のおおい。

 隣りのベッドを仕切るそれを開け放って、剛毅(ごうき)な笑い声をあびせたのは、角刈(かくが)りに包帯(ほうたい)まみれの、ガタイの良い(おとこ)だった。






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