29.さんにんめ
・前回のあらすじです。
『クロがブロッケンの手伝いを終える』
「こまるんだよねえ」
目を開けると、視界がぼやけた。ピントをあわせようとしても、うまくいかない。【魔術】の強い光を受けたために、サングラスごしでも魔法の義眼に影響が出たのだ。
つくった【魔術師】からは、そうした【魔光】によわい部分もふくめて、「改良したタイプにつけかえようか」ときかれたことがある。普段も、サングラスをかけていても、視界にチラチラと黒い点が映ったりする――『飛蚊症』に似た症状が出ることもあり、新型に換えたほうがいいのは、和泉も重々承知だった。
だが、そうした不便な点も込みで、和泉は自分の視界に満足していた。これくらいが「ふさわしい」。
ぼやけた白い世界で、「ぬっ」と映りこむ影が動く。首を振ったのだ。「困るんだよねえ」――と、彼はくりかえした。
(なにが)
と問おうとして、和泉は視界と共に、ぼんやりしていた意識をはっきりさせる。飛び起きる。
「クラリス!」
さっきまで対峙していた少女の名をさけぶ。自分を覗き込んでいる影は、彼女ではない。それはわかっていた。
影は、和泉に黄色いものをよこす。サングラスだ。蔓を取り、目にかける。シパシパする目のピントが、ゆっくりと合っていく。
レンズに度は、入っていない。物理的に調光されたことで、義眼の運動によゆうができ、本来の効果を取りもどしたのだ。
目のまえには、やせた男が立っていた。
「きみで『三人目』か」
白衣をきて、ぶっきらぼうにポケットに手をつっこんでいる。ヒゲは無い。
「高等部一年生のカリオストロにやられたんだって?」
ボサボサの黒髪の、三十ほどの男だった。
「学院の先生がことごとく……。あきれちゃうね」
たいくつそうにあくびをして、男は和泉のそばから離れた。
「ガレノス先生がいる」
白衣の男は、和泉の知っている人だった。
――白い寝台。しきりのカーテン。ブルーのおおいのすきまからのぞく、医療器具……。
「……ってことは、【病棟】?」
「うん」
男――ガレノス医師は、ぶっきらぼうに言った。
「【賢者】さまの遣いが、きみを運んできてくれたんだよ」
「チャコが?」
【賢者】と聞いて、和泉は質問をかさねる。
「じゃあ、茜も来てくれたんですね。いまはどこに?」
「使い魔だけだって。賢者さまは見なかったな。どっかで遊んでんじゃないの?」
ガレノスは、煙草があったらプカリと煙の輪を浮かしそうな顔をする。和泉はガッカリする。
「しばらく安静にね」
つっけんどんに、ガレノスが注意をする。
「話し相手がほしかったら、お隣にいるから。きみの『お仲間』だよ」
それを最後に、ガレノスは病室を出ていった。
――ぽすん。
枕に、白い頭を載せなおす。
ガレノスの言葉は、「隣りのベッドにも入院患者がいる」という意味だろう。『おなかま』と言うのなら、和泉同様、カリオストロにやられた魔術師だ。
(そうだとして……。『ふたり』だよな? 『三人』って言ってたような)
もうひとりは、誰になるのだろう。
憶測を立てようとして、不毛な詮索だと途中でやめる。
しゃっ。
カーテンが開いた。
「よお、和泉先生! あんたもぶっとばされたんだってな!」
――わっはっはっはっはっ!
清涼感あふれる、空色の覆い。
隣りのベッドを仕切るそれを開け放って、剛毅な笑い声をあびせたのは、角刈りに包帯まみれの、ガタイの良い男だった。




