表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄と真鍮でできた指環 《3》 ~災厄の首飾り~  作者: とり
 第2幕 災厄(さいやく)の首飾り
27/59

27.もーおそい




   ・前回のあらすじです。

   『和泉いずみが、カリオストロからうらみを買う』






   〇



 地ひびきがした。

 メイド服の女性(じょせい)が、(あし)を取られて立ち止まる。

 トリスの(まち)の、『北門』へとつづく(はし)である。

 彼女(かのじょ)――チャコは、お(ほり)にかかった石橋(いしばし)から、住宅街(じゅうたくがい)にもうもうとあがる黒煙を、(とお)くにのぞんでいた。


 チャコは、【魔術師(まじゅつし)】と契約をかわした動物、【使(つか)()】である。正体(しょうたい)は小型の『柴犬(しばいぬ)』で、性質もその(しゅ)にふさわしく、忠義(ちゅうぎ)が高い。しかし、主人(しゅじん)につくす一方(いっぽう)で、それ以外のものに対して排他(はいた)的になる傾向がつよかった。

 それは本人(ほんにん)も自覚していることだが、人間の性格がガンとしてなおらないのと同様(どうよう)に、矯正(きょうせい)するのはむずかしい。


 チャコは主人のいいつけで、【学院(がくいん)】をめざしていた。彼女の契約者である【賢者(けんじゃ)】は「転移魔法(まほう)で送る」と言いはったが、それは断固として拒否(きょひ)した。

 【賢者】がおさないころからそばでつかえ、成長(せいちょう)見守(みまも)ってきたこの|忠犬は、まだ主人の才能(さいのう)が開花するよりまえ――失敗(しっぱい)をかさねていたころに、一度だけ、【転移の魔術】を徹底的に失敗したさまをみて、トラウマになってしまったのだ。

 術者自身の『事故(トラブル)』もよく聞くが、他者(たしゃ)にワープを行使したときの事故も、(ねん)にかぞえるほどはある。

 幼少(ようしょう)期の主人が()こしたのは、ねずみを使った練習(れんしゅう)による失敗だったが、あまり(おも)い出して気分のいいものではない。言える分だけをつたえるなら、「しばらくミンチを使う気になれなかった」といったところか。


 (あい)すべき主人に、転移をこばんだことを内省(ないせい)しつつ、チャコはふたたび駆けだそうとした。

「ん?」

 ひゅるるるるー。

 風をきる(おと)がして、空を()あげる。黒い()をひいて、太陽(たいよう)と入道雲を背景(はいけい)に、なにかが飛んできた。

 ――鳥? くろい――。

(からす?)

 思ったがはやいか、それはくるくる回転しておちてきた。

 なすすべもなく――それが『人間』と気づいたときにはもうおそく――チャコの、ホワイトブリムをのせた茶色い(あたま)と、黒衣(こくい)の人間の頭が、にぶい音をたててぶつかった。


「ぴっ!!」

 重力(じゅうりょく)加速度をともなった人間……。それも、成人男性ひとり分の質量(しつりょう)をまともに受けて、チャコはたおれる。

 灰色(はいいろ)石橋(いしばし)に、こぶをつくったメイド服の(おんな)と、ぐるぐる()をまわしたサングラスの(おとこ)が、なかよく(よこ)たわった。


「な、なに?」

 さきに意識を取りもどしたのはチャコだった。

「……これは、」

 くらくらする頭をかかえて、()きあがる。立ちあがるまでには気分は回復しておらず、ぺたんと(すわ)りこむかたちになった。

 明滅(めいめつ)する視界に、ちかちか、(ほし)が飛ぶ。


 かぶりをふって、チャコはピントを()わせた。茶色(ちゃいろ)両目(りょうめ)に、白髪(はくはつ)見知(みし)った男がうつる。ほんのり全身を焼いて、無防備(むぼうび)にくちをあけて、気絶している。

和泉(いずみ)さま?」

 ――どうして彼が?

 疑問していると、近くに人影が立った。(あお)いユニフォームをまとった、【自衛団(じえいだん)】のメンバー。

「ありゃー」

「やっぱ、だめだったか」


 いちばん最初(さいしょ)に声を(はっ)したのは、赤毛(あかげ)顎鬚(あごひげ)をたくわえた、中年(ちゅうねん)の男だった。

「ダルク先生の()(まい)っすね」

 若い団員がいっしょになって、顎鬚(あごひげ)の男と立ったまま、白髪の青年(せいねん)――和泉(いずみ)をのぞきこんでいる。

 顎鬚(あごひげ)男の目が、チャコを()いた。


「あんたは? ひょっとして、【賢者】さまといっしょにいたメイドさん?」

「はい」

 チャコは服をはたいて立ちあがった。(まち)をふらついていたときに自衛団とすれちがったが、あのときの面々(めんめん)に彼らもまざっていたのだろう。

 顎鬚の(おとこ)は、人のよさそうな(かお)をにがい笑みにした。

爆発犯(ばくはつはん)をつかまえるのに、ちからを貸してくれないかなあ。強いんでしょう? 【賢者】さまは。どうして院長(いんちょう)先生は、打診(だしん)してくれないの」

(そういえば……)

 チャコは顎鬚(あごひげ)男のことばに考えこんだ。が、すぐに理由(りゆう)(おも)いいたる。

 ホット・ドッグ屋の店主からきいた事情(じじょう)をかんがみれば、【賢者】に協力(きょうりょく)要請(ようせい)がこない――むしろ、積極(せっきょく)的にかくそうとしているのも、わかるはなしだった。

 ――学院長(がくいんちょう)は、へんなところでプライドが高い。


 チャコは男にこたえた。なるべく、内情(ないじょう)はさとられないように。

「協力はするつもりはありませんが、いま、主人は(くだん)犯人(はんにん)をとらえるつもりで動いています。私もその関係で(よう)を言いつかり、【学院】へつかいにいくところです」

「そうなの? 【学院】に?」

「はい」

 顎鬚(あごひげ)の男は、近くにいた団員に()びかけて、荷車(にぐるま)を持ってこさせた。ゴム製のタイヤがひとつついた、土建屋が使うような一輪車(いちりんしゃ)だ。それをチャコにさしだして、顎鬚(あごひげ)の男は笑った。

「じゃ、そこの先生もつれてってやってよ。あるんでしょ? 【病棟(びょうとう)】」

 男は一輪車(いちりんしゃ)のハンドルをメイドの女性(じょせい)()しつけた。

 複数の団員によって荷台につまれた、あまり(なか)のよくない白髪(はくはつ)の【魔術師(まじゅつし)】を()おろして、「とんだ失言だった」と、チャコは自分の発言(はつげん)を後悔した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ