2.届かない
〇前回のあらすじです
『ひったくりの男が何者かに爆撃される』
声がする。
茜の声。
――和泉ー。ひまだから遊びにきてあげたよー。
暗い空間。
部屋にあるはずのものがなにもない。無限につづく暗闇。
そのなかに、赤い法衣をまとった彼女のすがたが浮かんでいた。
十一、二歳くらいの、おさない顔立ち。すこしだけ成長しているが、とても今年で十七歳をむかえたとは思えない小柄な身体。
(茜。来てくれたのか)
和泉はだらしなく笑った。十八歳の青年である。一対の黒い義眼をはめ、目の防護用に黄色いサングラスをかけている。髪はみじかく白く、その色は生来のものではなかった。
彼女の像の浮かぶ暗闇に、彼もまたいた。薄着すがたで。
黒い半袖のシャツにアイボリーのハーフパンツ。そしてはだし。それは寝るときの格好で――サングラスは除くが――彼女のまえ……否。人前に出られるような服装ではなかった。
少女の肩までのびた金髪がゆれる。最後に見えたグリーンの両目は、悲し気に――。あるいはむッとしたように翳っていた。
和泉は手をのばす。
届かない。
彼女は遠ざかっていく。
足にちからを入れる。
動かない。
沼にでもはまったかのように。
足元の自分の影(暗闇に『影』があるというのも不思議な話だが)からぬけだそうと、和泉は必死にあがいた。
あがいて。あがいて。あがいて――。
「……。夢か」
――和泉は目を覚ました。