12. サークル
・前回のあらすじです。
『和泉が、師匠のブロッケンによびとめられる』
【学舎】のグラウンドにおりると、ブロッケン女史があるいてきた。赤毛の、若い【魔術研究者】だ。和泉がまだ中等部で劣等生だったころに、『師弟関係』をむすんだ間柄である。指導はスパルタだったけれど。
「ひっこし、ですか?」
師――ブロッケンのかかえている木箱を和泉はのぞいた。ブロッケンは首をふる。両耳のピアスが、鋭い陽光にちらついた。
「ううん。古い器材をもらえることになったのよ。で、いま自分の部屋にはこんでるとこなんだけど、かったるくって」
「で、オレに持ってけと?」
「うん」にっこり。ブロッケンはうなずいた。
黄色いレンズのむこうで、和泉はこっそり半眼になる。
「オレにもつごうがあるんで……。今日は、むりです」
「えー。つまんなーい」
「てつだってくれたらお茶くらい出すわよ」
ぶう垂れるブロッケンのうしろから、ひょい、と黒い髪をゆらして、ノワール。もとは黒猫の、妖艶な女性のさそいに、和泉は心がゆらぎかける。が、
「すみません。やっぱ、だめです」
「あらら、ごしゅーしょーさま。じゃあいいわよ。呼び止めてわるかったわね」
しっ、しっ。と、ブロッケンは手をふった。まともにかったるそうな『師』の背中に、和泉はすこし、気がひける。
ぴっと人差し指を立てて、彼は【居住区】のほうを示した。じぶんの部屋のある方角。
「オレはむりですけど、クロをかすのならOKです。呼びましょうか?」
「クロくんか。いーじゃない」
「あのあまえんぼうの『烏』くんよね」
ブロッケンは了承。ノワールはにがい顔だった。が、主人の決定にはくちをはさまない。
両手の親指と人差し指をあわせ、和泉は『円』をつくる。
【従者】を呼ぶ魔術だ。契約したあいてにのみ有効で、召致できる範囲は、術者の技量により異なる。和泉の場合は、半径一キロメートル以内。【魔術師】としては、まずまずの距離といえる。
ぽっかりと、指のあいだから見える芝生を到着点として、和泉は、【使い魔】を召喚した。
「――枷をひく、緋色の紡」
ぼうっ。
指でつくったわっかが、草地に転写される。簡易の【魔法陣】が、芝生の地面に焼きついた。
ブルーの光のかこいに、すうっと、人影があらわれる。黒髪黒目の少年、クロだ。
大きなサークルのまんなかで、クロは腹をうえにむけてぐうぐうねむっていた。どうやら昼寝していたらしい。まだ午前だが……。
「起こすのかわいそうじゃない?」
「いいんです。オレもちょうど、かわいそうな寝起きをさせられたところですから」
思い出して、和泉は額に青筋をうかべた。
ノワールがしゃがみこんで、少年のほっぺをつっつく。
「おーい、クロ。おきなさいよー」




