地球は綺麗だった。
ここから見る地球の姿が好きだった。
蒼くて光って見えて。
でもある時、世界がくぐもった色に変わった。
それから100余年が経ち。
未だに地球はあの色を取り戻せて居ない。
――ソロフォーミング――
月の上に一人立っている。
できる事は少なかった。
様々な道具が船の中にあるけれど、抜本的な解決策は一つもない。
わたしはただの人型人形だ。
人々の生活をサポートするのが役目であり、それ以上の機能はない。
元々の設計者が考えていなかった事態なので仕方がない。
本来は火星移住計画の先発隊を支援する存在だったのだが、何故か今は月に居る。
先発隊の人達は皆息絶えてしまったので、月に埋葬しておいた。
その時に役に立ったのがこのクワである。
農耕の基本となるクワを振るう。
最新式のハイパークワはサクッと刺さると、月の地面だって耕せた。
埋葬が終わってからの話。
それからは特にすることもなく、地球を見上げていた。
其処に蒼く綺麗だった地球は無い。
ただ、悲しかった。
独りぼっちで月に居る。
どうせ全て崩れ去るのならば、わたしも一緒に崩れ去りたかった。
電磁波からでも充電できるわたしは月でも活動を続けられる。
自律思考のAIが自殺だけは容認してくれない。
何もできない。
そう思っていたのに、手に残されたクワが主張していた。
蒼く綺麗だった地球が無くなったのならば。
この月に、作ろう。
果てしない時間が掛かるだろう。
だけど生憎、果てしない時間を持ち合わせていた。
腕を上げるとクワを振るう。
わたしの強度設計が優秀で擦り切れる心配も無い。
ならできる。
長い長い物語を始めよう。
ただ、少しだけ願い事を浮かべるのならば。
人類がまた月に訪れる日がやってくる事を、思う。
想う。
わたしは小さな笑みを浮かべて。
クワを振るうのだった。
こちらは自作『枯れた世界で未来を紡ぐオートマタ』と同じ世界観で紡ぐ物語となります。
地球で人類の希望となっているオートマタ。
月で孤独に開拓をすすめているオートマタ。
二つの物語で世界観を広げていくつもりです。
不定期更新ですが、良かったら御付き合い下さいませ。




