第八話 おじさんキラー(物理)
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作者の別作品、異世界救った帰還勇者だけど魔法少女の使い魔始めました。もよろしくお願いします。
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202X/07/27
「あ、あのっ、マッチングアプリで彼女は出来たんですか!?」
「いや…せっかく宮下に写真撮ってもらったのにダメだったよ。やっぱりオッサンが彼女作るとか無理なんじゃないかな」
「そんな事無いとおもいますけどー、うふふ」
なんか宮下の機嫌が良くなってる。
辛っ、旨っ、って言いながらカレーを食い始めた。
わざわざ写真撮ってもらったのに大した成果も出せなくて申し訳ないな、と思う。
まだ二年に満たない付き合いではあるが、宮下は本当に良く出来た部下だと思うよ。性格に表裏は無いし、快活で受け答えもハッキリしている。入社当時はウチのオッサン社員連中がこぞってチヤホヤしたもんだが、今のところ浮いた話の一つも無かった。
「俺の事はどうでもいいんだ。どうせ半ば諦めてるし」
そう言えば七海と会う前は毎日こなしていたマッチングアプリのチェックやいいねを、この金曜日以降はしていない事に気付いた。基本料金だけで一万円近い金額がかかっているし、いいねするのにも別売りのポイントを買わなければいけない。そこまで飽きっぽい性格では無いが、わずか三日でアプリを起動すらしなくなった自分に軽く驚いた。
「そんなに気を落とさないで下さいよ〜。先輩にもそのうち良い事ありますから」
ニマニマしながらカレーを完食した宮下が言う。
「あれば良いんだがな…まあ暫くは無いだろ。今はそれどころじゃ無いし」
しまった、口が滑ったか?
頭の上にハテナマークを浮かべて小首を傾げる宮下を急かすようにしてカレー屋を出た。仕方ないのでカレー代は俺が持つ。
「先輩ご馳走様でした!」
「ああ、たまには良いさ。あ、それから明後日の水曜だけど夜は何か予定あるか?」
聞いたとたんに頬を染めてモジモジしだす宮下。なんだか今日は挙動不審だな。
「先輩、それはデートのお誘いですか?」
「違う違う、たっつんに飲みに誘われててな。半蔵門で飲むから宮下も来るかな?って」
「なるほど、了解です。私も先輩と一緒で基本的に予定無しの人なんで」
「間違っちゃいないが、そうハッキリ言われるとショックだな。予定を入れてないだけであって、予定が無いわけじゃないと信じたい。」
鈴を鳴らすように笑う宮下と客先ビルのエントランスで別れ、指定されていた会議室に向かう。今日は下期の体制について顧客である大日本生命保険の担当者に説明する予定だ。まあ、下期体制と言っても現在大日生命に常駐しているのは宮下一人、特に問題無ければそのまま契約更新してしまうだけだろう。
「失礼します、丸の内システムの千賀です」
一礼して会議室に入ると、いつもの担当者では無く、大日生命システム部の柳課長が座っていた。黒光りする日サロで焼いた肌に、油ぎったバーコードハゲ、年齢はたしか俺より三つばかり上だったような気がする。
「申し訳無いんだけど、次の更新時に宮下君をチェンジできないかな?」
「は?」
思わず素が出た。
ベラベラと都合の良い理屈を述べる黒光りハゲが喋り続けていたが、俺はその半分も理解出来なかった。
「(理解は出来ませんが)交代については承知しました。本人とも一度話してみます」
「頼むよ千賀君」
黒光りハゲを会議室に残して宮下のL○NEにメッセージを送る、半蔵門駅前の喫茶店まで出てこれるか?と。
喫茶店に入り、コーヒーを二つ注文したところで宮下が店に入ってきた。急いで来たのか、少し息が切れているようだ。軽く手を上げて宮下を席まで呼ぶ。
「急ですまんな、仕事は大丈夫か?」
「はい、この時間は問い合わせもありませんし、昨夜のジョブの処理は珍しくエラー吐かなかったので今日は割と暇でした」
さっき一緒に昼飯を食った時と変わらず、特におかしな様子は無い。何か大きなミスでもやらかしたのなら嘘がつけないタイプの宮下なら表情や仕草に後ろめたさみたいな物がでるはずだ。いや、そもそも宮下ならミスった時点で俺に報告をあげてくるだろう。
ふむ、それなら単刀直入に行くしかないな。
「今、大日の柳課長から宮下を外したいと打診があった。何か心当たりでもあるか?」
「え…」
現場を外されると告げられた宮下は絶句している。無理もない。大日生命の顧客情報管理システムはウチの会社で開発を請け負って導入し、代々ウチの社員が運用している。ハッキリ言って余程デカい人的ミスでもやらかさない限り客の都合で人員を変えるのは難しいのだ。
柳課長はハッキリとした理由は告げなかった。いや、そもそもハッキリした理由なんか無いのかも知れない。
「顧客情報管理システム担当の堀田さんじゃなくて、柳課長から直接ですか?」
「そうだ。さっき会議室行ったら堀田さんは居なくて、柳課長からいきなり言われたよ。」
「多分…ですけど、柳課長から最近何度も飲みに誘われるんですよね、勿論毎回断ってますけど。それから、L○NEやプライベート携帯の番号も聞かれて教えるの断りました。それですかね?」
「それだな。あの黒光りハゲ…」
何の事は無い、要するに宮下にアプローチしてすげなく断られたから、嫌がらせに宮下を現場から外そうって訳だ。
「私、歳上好きですけど、勘違いした日サロ野郎はダメなんですよね。バーコードの癖に無理に焼いてるから頭皮まで真っ黒じゃないですか。勘弁して欲しいです。」
「お、おう…」
「それに、私にだけじゃなくて他の女子社員にも粉掛けてますよ?やたら腕時計とか革靴の自慢ばっかりしてるんですけど、女の子からしたらおじさんの時計とか靴がどこのブランドでも大して興味無いですからね?先輩も気を付けた方がいいですよ?」
「お、おう…」
「それとドブみたいな口臭が酷いです。日焼けサロンに行くお金あるなら歯を全部引っこ抜いて総入れ歯にしたらいいと思うんですよね。あ、でも内臓からくる口臭かも?もう内臓全部人工臓器にするしかないかしら?」
「お、おう…可哀想になってきたからそのくらいにしておいてあげなさい…」
かなりの不満を溜めていたみたいだ。
止めなかったら延々と黒光りハゲの悪口を言い続けそうだったが、余りにも可哀想になったので宮下の罵詈雑言を遮った。
「そう言う事なら動き様もあるな。宮下、この件は俺に任せて貰っていいか?」
期待に満ちたキラキラした目で宮下が俺を見ている。なんだかこそばゆいが、部下を守るのが上司の役目だ。
「黒光りハゲ、ウチの会社を舐めた事を後悔させてやるぜ」
本日も閲覧ありがとうございました。