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第二話 おじさんと女子高生出会う

もし少しでも面白い、続きが早く読みたいと思っていただけましたら、評価、ブックマーク、レビューをお願い致します。


作者の別作品、異世界救った帰還勇者だけど魔法少女の使い魔始めました。もよろしくお願いします。


https://ncode.syosetu.com/n2603hm/


202X/07/24


ゲーム機の電源を落として寝室に引き上げたナミを見送ってから、俺は冷蔵庫から新しい缶ビールを取り出してソファに腰を下ろした。


プルトップを引いて封を切ったビールを喉の奥に流し込む。雑にアルコールを摂取しながら思い出すのは数時間前にナミと初めて会った時の事だった。


その時俺とナミは池袋駅東口の信号前で待ち合わせしていた。ちょうどパルコと西武の入り口に挟まれたいけふくろう前の階段を登ったところだ。


ドキドキする心臓の鼓動を意識しつつ俺はナミを待った。初めてマッチングした相手との待ち合わせに俺は余程緊張していたんだろう、背後に近づいたナミに声をかけられるまで、全く気づかなかった。


「あのー、千賀さんですか?ナミです」


振り返ってみると、旅行用のカートを引いたギャルがいた。髪はオレンジに近い茶髪で派手な柄のキャミソール、下はデニムのホットパンツで太腿剥き出し。でも、所々汚れてるって言うか、キャミは皺くちゃで裾のところに醤油溢したみたいなシミがついてるし、ブーツにも泥が跳ねていた。たしか関東近辺で最後に雨が降ったのは一週間近く前だったはず。


「あ、はい。千賀です。今日は宜しくお願いします」


軽く頭を下げた俺に、ナミは右手の手の平を上に向け、何かを要求するように突き出して言った。


「一時間五千円、飲みに行くなら三時間は店いるよね?悪いんだけど先払いでちょうだい?一万五千円と交通費二千円ね」

「は?え?お金?」

「そりゃパパ活なんだからお金貰うでしょー?え、何、もしかして気づいてなかった?私メッセージで時間も確認したし、プロフに一時間五千円って書いてあったんだけど」


慌ててスマホを取り出してマッチングアプリを開くと、確かにナミのプロフィール欄には皿とナイフとフォークの絵文字と、その横に「1h0.5交通費0.2固定」の文字が…


暗号か!わからんわ!

とも思ったが、仕方なく謝っておく。

俺は金づくで女を買いたい訳じゃなくて、普通に付き合える彼女を探しているんだし。


「申し訳ない、そう言う事だとは知らなかった。普通にマッチングアプリを利用していた物かと…」

「ウケる。そんな訳ないじゃん。彼氏とか別に欲しくないし、ごめんねーおじさん」


あっけらかんと笑うナミに別れを告げ、俺は東口ロータリーの中洲にある喫煙所でタバコを二本灰にした。別れ際にナミが言った、今夜寝るとこどうしようかな…と言う言葉を思い返すと、少しだけナミの事が心配になった。


いくら食事だけとは言え、若い女が見ず知らずのおっさんと顔を合わせるのだ、トラブルなんて幾らでもあるだろう。


そんな事を考えながら喫煙所を出ると、まさに今、ナミにそんなトラブルが降り掛かっているところだった。


「ナミちゃん、何でこの間は帰っちゃったの?おじさんホテル行く気満々だったんだけどな。五万くらいならすぐ出せるからさ、今から行かない?」

「やめて、離してってば。私売りだけはやりたくないんだって!」

「パパ活なんかしてる癖に何言っちゃってんの?ほら、おいでよ」


ナミの腕を掴んで引っ張って行こうとするガマガエルのような顔をした男は、東口から区役所側の方へ引っ張って行こうとしている。向こうはパルコの別館の先にホテル街があった筈だ。


周りの通行人もトラブルを恐れて見て見ぬふりをしている。誰も助けてくれない状況にナミの表情が絶望感で歪んでいく。


「なあアンタ、ウチの娘に何やってんだ?」


気付けば俺はガマ男の首を直接右手で掴んでいた。


中学から高校にかけて柔道部だった俺は今でも当時の筋肉は落とさないようマメにトレーニングをしていた。不摂生が祟り筋肉の上に脂肪が乗ってレスラーみたいなガッチリ体型になってしまったのは悔やまれるが、こんなデブくらいあっという間に締め落とせるだろう。


ガマ男の頚動脈に親指を食い込ませながら、俺はもう一度同じ質問をした。


「俺の娘に何の用だ?回答によっちゃ、お前の首をへし折らなくちゃならなくなるから、気を付けて答えろよ」

「すみません…人違いでした…」


脂汗を垂らしながら逃げて行くガマ男を見送ってから、震えが止まらない様子のナミを部屋に連れ帰り、風呂を貸してコンビニの菓子パンを与えて、今は唯一の寝床まで貸してしまっている。


「早まったかなあ、俺…」


今にして思えば、知らなかったとは言え女子高生を部屋に連れ込んだのだ、もし今彼女の親が捜索願を警察に提出しており、携帯電話のGPS機能で居場所を割り出してこの部屋に乗り込んで来たら間違いなく俺は御用だ。速攻で手が後ろに回り、青少年保護育成条例違反で豚箱行きだろう。


そんな事を思っていたらスマホが震えた。

見ればL○NEに一件通知が来ている。多分国内利用者数ナンバーワンであろうメッセージアプリを開くと『今日インしなかったな、何かあったのか?』と、友人かつ同僚である秋山達也からメッセージが入っていた。


時刻は二十三時過ぎ、普段ならまだ起きて達也とゲームをしている時間だ。


俺はプレ○ステーション4の電源を入れると、デュアルショックコントローラー下部のピンジャックにヘッドセットのケーブルを繋ぎ、パーティ機能で達也にボイスチャットグループの参加依頼を送った。


一分も経たないうちにヘッドセットから俺の耳にガサガサと言う雑音が聞こえてきたかと思うと、達也がパーティチャットに参加した旨がテレビの画面左上に通知された。達也は俺のようにヘッドセットを使わず、オープンマイクでボイスチャットに参加する為、部屋の生活音が丸聞こえになる。


今もコンビニで買ってきたダイエットコーラでも袋から出していたのだろう。ガサガサと言う袋を漁る音に続いてプシッと言う炭酸が抜ける音が聞こえた。


「すまんな、今日は色々あってイン出来なかった」

「あー、構わないよ。特にやる事も無かったし、週末イベントは明日の朝からだしな。金曜夜くらいゆっくりしてくれよ」


達也は俺の大学時代からの友人で、同い年の同僚だ。ややぽっちゃりした体型に童顔の達也は育ちがいいのかあまり老けて見えない。今年四十だと言うのにパッと見は三十代前半で通る見た目をしている。


まあ俺に輪をかけたゲーマーでぽっちゃりしている自分の容姿にコンプレックスを持っているようで大学時代からずっと彼女はいないようだが。しかもデブを気にしている割に食べる事が趣味の美食家という面倒臭い奴だ。


「すまんが明日から暫くイン出来ないかもしれないわ。先に謝っとくよ、ごめんな」

「それは良いけど、どした?彼女でも出来たか?」

「いや、彼女って訳じゃ無いんだが…女絡みではあるな。鋭いなたっつん」

「せんくんはわかり易いんだよ。金曜夜にゲームもしないで出歩いて、チャット入って来たと思ったら深刻な声で暫くイン出来ないとか言うんだもんな。わかるわ、舐めんなよ」


俺は彼をたっつんと呼び、たっつんは俺をせんくんと呼ぶ。かれこれ二十年近い付き合いだが、大きな喧嘩は一度もした事が無い。下手すりゃ昔付き合っていた彼女よりも長い時間会っていたし、会話もしていた気がする。


ナミが小学生の頃にやっていたクロスシリーズも、勿論俺とたっつんもやっていた。週末は会社が終わるとたっつんの部屋に直接向かって日曜までぶっ続けでやったっけな。


「そう言う訳で明日も朝から予定があるから落ちるわ。すまん」

「そのうち話聞かせてくれよ。楽しみにしてるわ。んじゃお疲れー」

「はいよ、お疲れさーん」


たっつんがチャットグループから退室しました。そんなメッセージが流れてヘッドセットが無音に変わる。


「さて、俺も寝るか。明日は朝から日用品と布団買いに行かなきゃいけないしな…」


プレ○ステーション4をスタンバイモードにしてテレビの電源を落としてから、そのままソファにひっくり返った。気温も高いし腹にバスタオル一枚かけて寝るだけだ。


明かりを消して暫くすると、寝室のドアが開いた。暗くて表情は良く見えないが、シルエットが小刻みに揺れているのがわかる。震えているのだろうか。


「あの、おじさん…一緒に寝てもいいですか…」


本日も閲覧ありがとうございました。

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