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プロローグ 詰まらないよくある自分語り

新作初めてみました。

作者の別作品「異世界救った帰還勇者だけど魔法少女の使い魔はじめました。」も宜しくお願い致します。


https://ncode.syosetu.com/n2603hm/



氏名:千賀匡之(せんがただゆき)

年齢:三十代後半

職業:会社員

エリア:関東

年収:七百万円

趣味:写真撮影、映画、ゲーム、山歩き

自己PR:よろしくお願いします


コレは俺が国内ユーザー一千万人を超える巨大マッチングアプリ『まっぷる』に登録したプロフィールだ。


アップロードした写真一覧にはくたびれた中年男がぎこちない笑顔を浮かべた何とも言えない写真が数枚表示されていた。


今にして思えばやる気が感じられないプロフィールと写真だよな。マッチングしようって気概が全く感じられない。とは言え世間には物好きもいるもので、これまでに数件はマッチングし、一度だけではあるが顔合わせまで漕ぎ着けた実績もある。


そもそも何故にマッチングアプリに登録したのかと言えば彼女が欲しかったからの一言に尽きる。数ヶ月後に迫った四十の誕生日を目前にして俺は奇妙な焦燥感に駆られた。


このまま一人で生きて一人で死んで行くのだろうか。


ふと、そう思ったら急に怖くなってしまった。彼女なんて二十代の頃にいたっきりで、俺の三十代の十年間は仕事と趣味だけに費やしてあっという間に過ぎ去ってしまおうとしていた。気付けば浮いた話の一つもない中年男の出来上がりだ。


思い立ったが吉日と、会社で部下にスマホのカメラで写真撮影を頼んでマッチングアプリに登録したのがつい三日前の事。


「どうしてこうなった…」


今いるのは板橋区と練馬区の端境にある、比較的築年数の浅い賃貸マンションの一室、そう俺の部屋だ。一人暮らしには少し贅沢な余裕のある1LDKのリビングでソファに座る俺の耳には微かな若い女性の鼻歌と、シャワーの水が跳ねる音が聞こえていた。


手に持った缶ビールが俺の体温と真夏の室温で温められ、結露した水滴が床に垂れている。


不意にシャワーの音が止み、暫くするとバスルームの脱衣所と廊下を隔てるドアが開く。


「あー、気持ち良かった。三日ぶりだったから生き返ったみたい」


バスタオル一枚巻いただけで脱衣所から出てきた少女はナミ、本人が言うには二十歳(はたち)との事だが、風呂に入って化粧を落とした顔はどう見ても未成年、それも十六か十七にしか見えなかった。


「それは良かった。さっぱりしたところで悪いがそろそろ帰ってくれないか?もう二十一時になるし、まだ電車で帰れる時間だろう?」

「電車は動いてるけどねー、帰る所無いんだよね。好きなだけエッチして良いから暫く置いてくれない?」


チラリとバスタオルの裾をズラしてナミが言う。投げやりに言う台詞の割には顔は真っ赤である。


「ガキが無理すんな。帰る場所無いってなんだよ、家出か?」


残念ながら無理してるのは俺の方だ。

冷静を装って出来るだけぶっきらぼうに言葉を返すが、脳裏には先程ナミが見せた真っ白い太ももがチラついていた。ダメだダメだ。どう見てもコイツは未成年、言われるがままに手なんて出したら即逮捕で人生終了だぞ。我慢しろ俺、俺なら出来る!


「ガキって何よ、私は二十さ…」

「見え見えの嘘ついてんじゃねーよ」

「………」


食い気味に突っ込んだら黙りやがった。

まあ、マッチングアプリでパパ活してるって事は十八歳以上である事は間違いないだろう。最近のマッチングアプリ運営は登録者の年齢確認に煩いからな。


「十六…」

「は?」


今こいつ十六って言ったか?

おいおい勘弁しろよ。十八歳十九歳でも結婚には保護者の承諾要るし、部屋に連れ込んでるのがバレて親に訴えられたら100%負けが確定してるってのに、よりによって十六歳だと?もう保護者とか関係無く即逮捕コースじゃねえか。


「よし、今すぐ帰れ。」

「ちょ、待ってよ。今おじさんに放り出されたらマジで行くとこ無いんだって。もうネカフェで寝泊まりするのも限界だし、お金もヤバいし…」


参ったな、ガチの家出少女かよ。

何年か前にネットカフェ難民とか若年の貧困層みたいな記事をネットニュースで見た事はあったけど、いざこうして自分の目の前にそう言う境遇にある人が現れると、どうしていいかわからないもんだな。


「それに、また池袋行ってアイツがいたら…」


この辺で宿泊できるフラットシートタイプのネカフェは池袋まで出ないと無かった。どうやら家に帰ると言う選択肢は無いようだ。それにナミの言う様にまたアイツに鉢合わせしたらどうなる事か…


泣きそうな表情で俯いているナミを見て、俺は色んな事が面倒になってしまった。大抵の事はなる様になるだろうと考える俺の悪い癖が出てしまう。


「あー、クソ!仕方ねえな…」


自分の頭をガリガリと掻きむしってから寝室に向かい、まだ袖を通していない新品のTシャツとスエット生地のハーフパンツを持ってリビングに戻るとナミに手渡した。下着は…あるわけないから勘弁してもらおう。


「とりあえずコレ着とけ。あと洗濯機貸してやるから服とか洗っとけよ。ネカフェ暮らしだったんならまともに洗濯とか出来てないんだろ?」

「えっ、泊めてくれんの?」

「仕方ねえだろ、金もろくに持って無いガキ放り出して何かあっても後味悪いし。でもな、あんまり長居すんなよ。何で家出したのかなんざ知らねえけど、落ち着いたらちゃんと家帰れよ」

「ありがとうおじさん」

「着替えるなら寝室使え。俺はリビングのソファで寝るから、寝るならそのまま寝室のベッドで寝ろよ。」

「えー、まだ九時だし寝るわけないじゃん。あ、エッチする?」

「しねーよ。さっさと着替えてこい」


ナミが寝室に入ってドアを閉めたのを確認した俺は盛大にため息を吐いた。バクバクいってる心臓の音がナミに聞こえないかと余計な心配をしながら、完全に温くなってしまったビールを飲み干す。


「苦ぇ…」


こうして草臥れた中年と家出少女の同居は始まった。



短い置き手紙を残してナミが消えるまでの、短い短い期間の同居は、今思い返せば東京の殺人的な夏の暑さが見せた、幸せな白昼夢だったのかもしれない。


閲覧ありがとうございました。

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