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第漆話 老剣士、報告に向かう

今回も冒頭に少しだけ性的な描写があります。

苦手な方はご注意ください。


お金の単位に関する説明を忘れていましたので、第伍話にて修正を加えました。


それでは第漆話をお楽しみください、

「ゴブリンの上位種が誕生しているのは確かよ」

「ふむ、やはりそうか」

「ホブゴブリンなんかじゃない、もっと上位の存在を感じてるの」


龍太郎はトライアに腕枕をし、トライアは龍太郎の胸元を指先でなぞりながら、互いに汗ばんだままそんな会話をしていた。ピロートークにしては随分と物々しいが。


「巣の場所は分かるかの?」

「アタシを誰だと思ってるの?」

「この大森林全域がトライアの知覚範囲、じゃったか?」


トライアはよく覚えてましたと龍太郎の頬にキスをする。

ドライアドは植物を通して遠く離れた場所の出来事まで見たり聞いたりすることができ、森の出来事全てを把握していると言われている。ただしそれは自身が住む森に限られるのだが。


「だからアナタがオーガのメスと一晩楽しんでたのも知ってるわよ?」

「・・・・」

「ねぇ、なんで目をそらすの?」

「・・・・いや、それはの、しばらくご無沙汰だったから」

「ふ〜ん?リューちゃんってオーガも守備範囲内なんだ?」

「さ、酒に酔ってたんじゃ!」

「でもお酒って本性を表に晒し出すだけのものだよ?つまりリューちゃんはオーガでm・・・」

「〜〜〜〜!ワシの負けじゃ!やめてくれい!!」


まぁ、トライアとしては別のメスや女と行為に及ぶことにはなにも思っていない。単純に会いに来てくれていなかったことに加えて、自分に何も言わず大森林から出ていったことに怒っていて、再び龍太郎が森に戻ってきたことを察知してここまで出向いてきたのだ。トライア含むドライアドという種族が住処としている場所からほとんど出ることがないにもかかわらずだ。


そんなトライアはまるで憂さ晴らしができたとでもいうように、楽しそうに微笑む。


「さて、ゴブリンの巣の場所よね」

「う、うむ」

「大森林の中の街道を外れて西に行くと川が流れてるんだけど、その川を上って行くと大きな洞窟にたどり着くわ」

「そこがゴブリンの巣か」

「洞窟の中には植物もないから、群れを率いてるボスがなんなのかも、群れの規模も正確には分からないけど。ただ、洞窟に入りきれずに外に溢れてる分が洞窟の前に集落を形成してる。そこに人間族や獣人族の女の子達が絶え間なく拐われて来てるみたいだから洞窟の中と含めて3桁は確実にいるわね」


これは獣人族の集落や人間族の村なんかが襲われていることを意味していた。やはり日の出と共に出発して早めにギルドに伝えた方がいいだろう。


「ありがとうトライア。おかげで早めに対処できるやもしれん」

「んふ、いいのよ。それじゃあお礼に・・・・」

「分かっておる」


龍太郎はトライアに覆い被さり、唇に、首筋に、胸に、腹にキスしていく。龍太郎の口はそのままトライア秘部へと到達し、舌で撫で始める。


「はぁっ・・・!」

「すでに準備万端ではないか」

「んっ・・・もう!」


龍太郎はそのまま秘部へと押し当ててゆっくりとトライアの中へと入っていく。


「んっ・・・くっ・・・」


そこからまた暫く、トライアの声が簡易的な家からこぼれ続けるのであった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「さて、ワシはもう行くとする」


僅かに顔を覗かせ始めた朝日が先程までまぐわい続けていた二人を照らす。


「えぇ、またね」

「これが終わったらまた会いに来るから、待っててくれ」

「その時は子供たちにも会ってあげてね。お父さんに会いたがってるの」

「うむ、分かった」


龍太郎は軽く屈伸運動して、黒龍に「巡らせ」と命令す・・・・ん?


今のやり取りに違和感を感じた龍太郎の動きがピタリと止まる。


「どうしたの?」

「今なんと言った?」

「またね?」

「その後じゃ」

「子供たちにも会ってあげてね。お父さんに会いたがってる?」

「あ〜、なんじゃ子供か。そうかそうか、んでお父さんに会いたがってると」


納得納得、と再び向き直り黒龍から魔儺を貰おうとし。


「はいぃぃぃぃぃいいぃぃぃぃぃぃいぃい!!!!???」


脱兎のごとく水平に跳び、そのまま木に激突する。


「な、なにやってるの?」

「こっ!ここここ!こっこっこっ!」

「コケコッコー?」

「いやちゃうねん」

「じゃあなによ」

「え?子供!?誰の?」

「アタシ」

「父親は?」

「アナタよ♡」

「ワシぃ!?」


トライアは、なに当たり前のことを聞いてるの?と言いたげな表情をする。


「アタシは最近はリューちゃん以外とは子供が出来るようなことしてないわよ?」

「え、あ、うん」


まぁ確かに初めてトライアと会って、初めてトライアと体を重ねた時に「もうアナタ以外とはできないかも」なんて言ってたが。というか。


「人間と妖精の間に子なんてできるのか!?」

「正確にはアナタの子種(こだね)を種子に分け与えてデキたのだけどね」

「あ、そういう・・・まぁ・・・分かったワイ。会いたがっとるなら行くとしよう」

「ありがと♡」


龍太郎は今度こそ黒龍に「巡らせ」と命令を下し、魔儺が体を駆け巡る感覚の気持ち悪さに耐えつつ、充分に巡ったのを確認すると一気に加速し、トライア()()の視界から瞬く間に消えてしまった。


「さてと、アタシも帰らないと。リューちゃんの子種を子共達にあげないとね」


トライアの周りに花や木の葉が舞い、それが散った時には既にトライアの姿は消えていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





「まずは報告にあたり、己の目で巣を確認せねばな」


大森林の中を疾走する龍太郎。その目的地はテウリアに繋がる街道でなく、トライアに教えてもらったゴブリンの巣となってる洞窟がある場所だ。


「・・・む」


何かの気配を感じ足を止める。辺りを探れば出てくるのはゴブリンだが、今回は少し何かが違う。

これまで通り20匹近い数のグループだが、普通のゴブリンとは見た目の異なる個体が約半数を締めていた。


体色の黒いゴブリンが2匹と弓矢で武装したゴブリンが3匹、粗悪ではない綺麗な剣や槍で武装したゴブリンが6匹、そして人程の身長のあるゴブリンが1匹、残りは普通のゴブリンである。


「大きいのはホブゴブリンか。あの11匹はなんじゃ?見た目は普通のゴブリンじゃが、他のはちと毛色がちがう」


ホブゴブリンは山籠り中にも何度か遭遇したことはあるし、その度に斬り伏せてきたので分かる。個の強さは普通のゴブリンよりも上回ってくるが、ジェイク達レベルであれば難なく倒せる程度ではある。だが先程も述べたように、この11匹のゴブリンは大きさこそ普通のゴブリンと変わらないが、体色や持っている武装が違う。そもそも普通のゴブリンに弓なんか使えるはずがないのだ。


「まぁいい。見つけたもんは狩らんとな」


石ころを数個拾い、懐にしまってからワイバーンの骨で作った複合弓をアイテムボックスから取り出して矢を番え引き絞る。

狙うは弓を持ったゴブリンだ。引き絞る右手にはすぐにニ矢目を放てるよう、もう一本矢を持っている。


ヒュッ


放たれた矢はわずかに風を切る音のみを立てて、弓を持ったゴブリンの頭を貫く。

射抜かれたゴブリンは悲鳴をあげることもなく即死。仲間が突然倒れたことにゴブリン達は気づく。しかし射抜かれた事に気づかず躓いて転んだとでも勘違いしているのだろうか、まるで倒れたゴブリンを嘲笑うかのような動きや鳴き声をあげる。

そこにすかさず二矢目を放ち、もう1匹の弓持ちのゴブリンを射抜く。


また1匹倒れた。お前も躓いたのか?マヌケなやつめ。嘲笑う、はやく立てよと煽るが2匹とも一向に起き上がる気配がない。何をやっている。じれったくなったのか、一際大きいゴブリン、ホブゴブリンが倒れた弓持ちのうち、一匹の元へと近付き、そこでようやく気付く。



何者かに襲撃されている。



背後ではさらに1匹、2匹と自分の部下が地に伏す音がする。慌てて振り返るとまた1匹、声をあげることもなく倒れる。


一瞬だけ見えた。


「ゲギャア!!!ギャァ!」


ホブゴブリンはある方向に指をさして鳴き声をあげる。指をさされた先にいたのは。


「ちっ、矢の軌道を見られてしもたか」


だが、遠距離攻撃をしかけてくる弓持ちは倒したし、厄介そうな綺麗な武器を持ったゴブリンも数を減らすことが出来た。


「ホブゴブリン、やはり貴様はリーダーか」


龍太郎はすぐさまゴブリン達の前に躍り出て、愛刀の黒龍を抜き放つ。


このグループのリーダーであろうホブゴブリンを狙わなかったのは、指揮官を失えばすぐにでも逃げてしまうことが予想されたからだ。


「ギギャギャァ!」

「「「「ギィ!」」」」


ホブゴブリンの鳴き声に応えるように一斉に鳴き声をあげたのは普通のゴブリン達だった。ゴブリンは龍太郎を囲むように散らばるが、龍太郎もそう簡単に囲まれるつもりはなく、ゴブリン達の動きに合わせて1匹ずつ仕留めていく。


「グギャァ!」


ホブゴブリンがまた一声鳴くと、今度は体色の黒いゴブリンが動き出す。その瞬間、龍太郎は驚くこととなる。


「マール・カギロ」

「二ドル・カギロ」


2体の黒いゴブリンは呪文を唱え、魔術を発動させて龍太郎へと放って来たのだ。


「なに!?」


驚きつつも飛んでくる火の球と火の針を避け、黒いゴブリンを観察する。

どういうことだ?ゴブリンが魔術を使った?カーラ程滑らかではなかったが、確かに呪文を唱えた。


「マール・カギロ」


更に火球を放ち、これをひらりと避ける龍太郎はやはり困惑の最中(さなか)にある。その表情を見たホブゴブリンはニタリと笑う。


「驚イタカ人間ヨ」

「いや喋るのかよお前!」

「驚イテルナ人間ヨ」

「お前が喋れることにな!」

「困惑シテイルナ人間ヨ」

「お前が喋ってることにな!」

「ガギャギャギャァ!!!」

「急に戻るなよ!」


普通のゴブリンが前と背後から挟み撃ちの形で一斉に襲いかかる。龍太郎は先程拾った石を前か来るゴブリンに投擲して牽制、動きを止めさせて、その隙に背後から迫るゴブリンの首を刎ね飛ばし、続いて額に石が命中して藻掻(もが)くゴブリン達に刃を突き立てる。


これを皮切りに、ホブゴブリンの指示と思われる鳴き声とゴブリン達による猛攻が再び始まる。

剣のゴブリンと普通のゴブリンが迫り、龍太郎は普通のゴブリンを処理してから剣のゴブリンとその刃を交える。その時、龍太郎は「ほう」と小さくだがつい唸ってしまった。剣のゴブリンは刃こぼれもしてないまともな剣を握ってるだけあって、粗末な剣を持っていた今までのゴブリンとは剣筋も打ち込みの強さもかなり違う。


「中々面白いゴブリンもいたもんじゃ!」


数太刀打ち合ってゴブリンの剣を大きく弾く。がら空きとなった胴体に横一文字に一閃。そこに間髪入れず別のゴブリンが飛びかかってくるが来たのは普通のゴブリン。難なく仕留めて次へと意識を向ける。これで普通のゴブリンは全滅した。残るは黒いゴブリンと綺麗な武器を持ったゴブリンがそれぞれ2匹、そしてホブゴブリン。


槍のゴブリンが鋭い突きを龍太郎へと繰り出す。避け、流し、また避ける。そして黒いゴブリンからの魔術を避けるとすぐさま槍による横薙ぎの攻撃が来て後方へと飛び退く。そこには剣のゴブリンが待ち構えていた。


「なんとまぁ見事な」


再び石を取り出して振り向きざまに剣のゴブリンへと投げる。これを剣で弾いてみせたゴブリンはニタァと笑みを零す。


しかし、太郎は横槍を入れてくる黒いゴブリンを仕留めるべく走り出していた。槍のゴブリンと、これに慌てた剣のゴブリンがそうはさせじと行く手を阻もうとするが、これを飛び越えてそのまま黒いゴブリンへと迫る。


「マール・カギロ」


寄せぬ為の魔術。しかし龍太郎には無意味だった。


龍太郎は黒龍に「食らえ」と命令しながらその刃を迫る火球へとぶつける。


瞬間、火球が斬られると同時に消え去ってしまった、否、そう見えただけで実際には魔術を構成する魔儺を黒龍が吸収してしまう。


「ギャ!?」

「ナ、ナンダト!?」


黒いゴブリンだけではない、ホブゴブリンまでもが驚きの声をあげる。


「今度は貴様が驚く番じゃったか」


次々と飛んでくる火球や火の針を黒龍で防ぎながら2匹の黒いゴブリンへと肉薄し、あっさりとまとめて斬り裂いてしまう。


そしてそのままホブゴブリンへと標的を変えて斬りかかるが、(すんで)のところで回避される。


「往生際が悪いぞ、大人しく斬られい」

「誰ガ斬ラレルカ。ギャギャァ!」

「ギィ!」

「ギャ!」


残りの剣と槍のゴブリンが龍太郎の前に立ちはだかる。その間にホブゴブリンは逃走すべく走り出した。


「ちっ、こ奴らは殿(しんがり)・・・いや、時間稼ぎの捨て駒か」


恐らくなにがなんでもホブゴブリンを追わせないつもりだろう。こういう決死の覚悟を持った敵ほど手強く厄介なものはいない。だがここであのホブゴブリンを逃せば龍太郎という人間が迫っていることを察知されるだろう。そうなるとこちらがギルドに報告し、準備を整える前に対処されてしまう。


「貴様らの相手は後じゃ」


龍太郎は2匹のゴブリンから距離を取りつつ黒龍を納め、弓をアイテムボックスから取り出して矢を射る。矢は2匹のゴブリンの間を抜け、一直線に空を切ってホブゴブリンの頭を貫通する。


まさか自分達を無視してリーダーを仕留めるとは思いもよらなかったゴブリン2匹の動揺は大きく、そのまま抵抗することもできずにその命を終えることとなった。


「ふい〜なんとか殲滅はできたな。にしてもコイツらなんなんだ?」


魔術を使う個体、弓を使う個体、剣、槍を普通のゴブリンよりも高い技術で扱う個体。先程の戦いで、この武器の扱いに()けたゴブリン達の連携は全然対応できたが、そこに入ってくる魔術による横槍はさすがに厄介だった。弓を持ったゴブリンを先に仕留めてなかったら入ってくる横槍はもっと激しかっただろうとことが考えられるだけに、念の為先に弓持ちを仕留めていた自分の判断を褒めたいところ。


おそらく自分じゃなかったら1人でまともに戦うことはまずむりだったし、パーティを組んだハンターでもかなり苦戦していただろう。このこともしっかり報告せねばと、魔核の回収は後回しにしてとりあえず死体はアイテムボックスに収納して先を急ぐ。


「・・・生物()収納できんと言ってたが、死体ならいいんじゃな」


戦いが終わった後でも驚くとは思わなかった龍太郎であった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




テウリアを囲む防壁の門は今日も入門手続きを待つ人の行列が出来ていた。この行列ができるのは一般通行するための門で、その横にある一回り小さな門は例外を除いて、特別通行証を持った人物とその連れにしか通ることは許されない。この特別通行証の所持が許されるのは王族や貴族、そして大商人くらいだ。


現在、その特別通行の門の番をしているのはマック、警備隊の門番を担当する班の班長である。

時間は昼を過ぎ、交代で取る休憩も終わったところで、今日も何事もなく1日を終えれそうだと体を伸ばしていた。


「おいおい、なんだあいつ」

「そっちは特別通行証がないと通れないぞ!」

「ちゃんと並べ!」


そんな時に行列が何やら騒がしくなる。何事かと状況を確認しに出てみると、先日リンウッドと共にここに来た、そして昨日、ハンターとして仕事に出掛けた老人だった。


「おいおいアンタ、今日はリンウッドさんと一緒ってわけでもねぇんだからこっちは通れねぇぞ?そっちの列に並んでくれ」


この前はこっちを通れたのだからと勘違いしてんじゃないか?そんな思いでの言葉だった。


だが、老人からの返答は違った。


「それは分かっておる。だが、火急の用がギルドにある」


そう言う老人の目は鋭く、それでいて真剣なものでありけっしてふざけているのでも、列を抜かしたくて適当を言っているでもないように感じられた。


「・・・ちょいと来てくれ」


マックは老人の背に手を添えて門の方へと歩きながら小声で話し始める。


「なんかあったのか?」

「あぁ、ゴブリンじゃ」

「・・・は?ゴブリン?」


マックの間の抜けた返しにも老人は真剣な眼差しのまま頷く。


「おいおい、真面目な顔してこっちを通せって言うもんだから何かと思ったらゴブリン?」

「シッ、まだ話は終わっとらん。とんでもない規模の群れじゃ。少なくともボスはジェネラルだ」

「は!?」


今度は驚愕に満ちた声が出てしまうマック。そんなマックを老人はシッ!とまたも制する。


「すまん。それは本当か?」


老人から受けた説明は驚愕に(あたい)するものだった。


多い数で行動するグループ、複数確認された上位種。たしかにゴブリンジェネラル辺りが出現していてもおかしくはない。


「そいつぁ呑気にかまえてられんな。今回は特別だ、こっちを通って構わん。すぐにギルドに知らせてくれ。俺も上層部に報告してくる」

「かたじけない」

「かまわん。それと、よく無事に戻ってきてくれた」


マックの労いに笑みで返した老人はギルドの方へ向かって走り出した。


昼を過ぎたギルドの中は先程までの賑わいも落ち着き、受付嬢の仕事も一段落ついていた。今は朝近場で依頼を受けて帰ってきたハンター達がちらほらと食事場で寛ぐか、まだ日も高いうちから酒で喉を潤すかしていた。


「にしてもあのじいさん帰ってこねぇな」

「たしか登録したのが一昨日だったか?」

「なんでも初日からジャックに絡まれたらしい」

「あのぼん坊っちゃんに?そら気の毒だな」

「いーや、今回気の毒だったのはその道楽坊っちゃんの方だったってよ」

「というと?」

「あのお坊っちゃんがじいさんに殴りかかったところをあっけなく返り討ちにあったらしいんだよ」

「へぇ〜、あのじいさんが」

「そのじいさんが昨日依頼を受けて帰ってねぇ」

「ゴブリン5匹だったよな?」


ゴブリン5匹の討伐は朝から出かければ遅くてもその日の夕方には帰ってこれるような仕事だ。だからルーキーハンターにも、小遣いが欲しいハンターにも向いている仕事なのだが、話題に出ている老人は翌日の昼を過ぎても帰ってきていない。


「はっ、坊っちゃんを返り討ちにしたってんだからどんな奴かと思ったが」

「結局はじいさん、ボン坊っちゃんをやったのはまぐれだったってこったな」


なんて話をしていると、噂のじいさんが扉を開けて入ってくる。老人はギルドに入るやいなや、なにやら急いだ様子で受付へと向かう。


「報告がある」


ただ一言だけそう伝えて来る老人に戸惑いを隠せない受付嬢は。


「えっと、依頼達成の報告でしょうか?」


と返すので精一杯だった。これに対して老人は、これを見てほしいと突然何もないところから結晶の山を出現させる。


「え?あ、あの、え?」

「これはすべてゴブリンの魔核じゃ」

「こ!こんなに討伐してきたんですか!?」

「それとこれも見てくれ」


今度は受付前の床にドチャチャァ!と汚い音を立てて20近いゴブリンの死体をぶちまける。


「ちょっと!困ります!」

「おいじいさん!なにやってんだ!」

「文句ならば後でいくらでも聞いてやる。まずはこれらを見よ」


老人が突然ゴブリンの死体をぶちまけたことでギルドの床は血や体液で汚れ、これに怒ろうとした周りのハンター達もそのゴブリンをまじまじとみる。


「こいつぁホブゴブリンじゃねぇか」

「この黒いの、まさかゴブリンメイジ?」

「その黒いの2匹は魔術を使っておったぞ」

「ならゴブリンメイジで間違いねぇな。2匹もいるなんて珍しいな」

「それだけじゃない」


老人はこの場にいる全員に聞こえるように説明を始めた。


今回受けた依頼はゴブリンを最低5匹討伐するというものだったこと、そしていざゴブリンと遭遇すると10匹以上の数でグループを作って行動するゴブリン達。1度だけでなく何度もこれに遭遇し、ホブゴブリンをリーダーとするグループにも遭遇。そのグループに至ってはこの魔術を使うゴブリンの他に、弓をもったゴブリン、武器の扱いが上手いゴブリンがいたというのだ。おそらくゴブリンアーチャー、ゴブリンソルジャーと思われる。

これらは進化によって生まれるゴブリンの亜種だ。いずれか1匹だけが出現することはそれなりにあることだが、それがいっぺんに複数確認されるとなるとそれは異常事態だ。群れにさらなる上位種がボスとして君臨している可能性が出てくる。


「おいおいアンタ、よく生きて戻ってこれたな」

「生きて戻ってこれなかった者もおる」


老人はハンタータグを取り出す。


「道中ハンターの死体を見つけた故、タグを回収させてもらった。他にも遺品となりそうなものをいくつか持ってきたが」


老人は受付嬢にタグを渡す。


「ア・・・アーニャさん・・・そんな!」

「アーニャだと!?」

「おいおいマジかよ」

「・・・死体はゴブリンに弄ばれ見るも無惨なものだったからその場で火葬させてもらった」

「・・・ありがとうございます」

「先も言ったがひとグループの数が多い上に、通常よりも統率力ある動きをする。普通のゴブリンだと思って舐めてかかると辿るのはその娘と同じ末路ぞ」


ギルド内に重い空気が漂うが、老人はそれを無視して報告を続ける。むしろここからが本題と言えた。


此度(こたび)の件じゃが、群れを率いてるのはゴブリンジェネラルの可能性がある」

「ジ!ジェネラルだと!?」

「おいおい、冗談だろ?」

「嘘はいけねぇぜ」

「根拠はあんのか?」


ゴブリンジェネラルの単語を聞いたハンター達は老人を口々に叩く。そこには、信じられないというよりは、信じたくない、嘘であってほしいという願望が含まれていた。


「巣も発見してきた。ソレルオ大森林の中の街道を外れて西に行った先にある川に沿って行くと洞窟がある。そこがゴブリンどもの巣じゃ」


さらに、洞窟の中に入りきれないのであろうゴブリンが外で集落を築いて過ごしており、外にいるゴブリンだけでもパッと見200はいたと続ける。



確定だ。



群れのボスはゴブリンジェネラルだ。この事実にさっきとは違う意味で重い空気が張り詰めてしまう。


受付嬢は老人の報告内容を急いでメモして、カウンターの後ろにいるスタッフへと渡す。


「報告ありがとうございました。このことは直ちにギルドマスターへと報告させていただきます」

「うむ、よろしく頼みます」


老人は、それじゃ、と踵を返してギルドを出ようとする。


「あ、あの!」


それを慌てて止める受付嬢に、老人はどうしたのかと振り返る。


「えっと、報酬はお受け取りにはならないのですか?あと、()()片付けて頂けませんか?」


受付嬢が指差す先には、先程老人がぶちまけたゴブリンの死体の山。


「あいた〜!忘れとったわ!すまぬ!すぐ片付ける!」


さっきまでの鋭い気迫はどこへやら、あせあせとゴブリンの死体をアイテムボックスと思しき魔導具に収納していくその姿は滑稽そのものであった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ギルドの2階にある、とある一室。その部屋の扉にはマスター室の表記があり、このギルドのトップであるギルドマスターがいる部屋だと分かる。そんな部屋の扉を先程受付嬢から報告のメモを受け取ったスタッフがノックする。

すると部屋の奥から「なんじゃ」と返事が返って来た。


「失礼しますギルドマスター」


部屋に入って真正面にある机に座る人物に、スタッフは報告がございますと前置きして受付嬢から受け取ったメモを読み上げる。


「報告は以上です」

「・・・ふむ、内容はわかった。その報告をして来たハンターはまだおるかの?」

「おそらく、ゴブリン討伐の報酬を受け取っている最中かと」

「すぐに呼んで参れ」

「はい」


スタッフが部屋を出てからそう時間をかけることもなく、廊下から騒がしい声が近付いてくる。


「ちょっ!待ってくれんか!ワシは汚してしもた床の掃除をじゃな!」

「それは後でいいって言ってるじゃないですか!とにかく来てください!」

「後回しにしたらこびりついて取れんくなるぞ!」

「じゃあそもそもなんであんなことしたんですか!」

「論より証拠じゃろがい」

「なら魔核を剥ぎ取ってくればよかったじゃないですか!」

「急を要すると思ったから剥ぎ取りは後回しにしたんじゃい!」

「とにかく!掃除するのはあとです!こっちを優先させてください!」

「いや、じゃからの?」

「じゃからもジャガイモもありません!ギルドマスターがお呼びなんです!入りますよ!」

「あっ、ちょっ!まっ」


バァンと騒々しく扉が開かれ、入ってきたのは先程報告してきたスタッフと、何やら見慣れない服装をした白髪白髭の老人だった。


「こちらがギルドマスターです」

「こちらが??もっとゴツい御人を想像しとったが」


老人はキョトンとした目でギルドマスターと呼ばれた人物を見る。


無理もない。

ギルドマスターと呼ばれた人物は、見るからに幼女の姿をしているのだがら。だがただの幼女ではない、金色の髪に金色の目、そして長く先端のとがった耳を持っている。エルフにしては都市内で見かけるエルフとは雰囲気が大分異なるが・・・というのが老人が抱いた感想である。


老人の言葉を聞いたロリ・・・ギルドマスターは、また自分の容姿を見て舐めた口をきいてくる愚か者か?と思い、少し仕置きしてやろうと椅子から立ち上がり机の前までやってくる。


「そうじゃ、妾がここを預かるギルドマスターじゃ」

「それは失礼いたしました、ワシは先日ここに登録させて頂いたリュータローと申す。以後お見知りおきを」


舐めた口をきいてくるかと思いきや随分と丁寧な挨拶をしてくる老人、リュータローに驚くギルドマスター。


「ほほう?そなたは妾を見て幼女と侮らぬのか?」

「雰囲気も佇まいもただの幼女とは思えませぬ。侮れという方が無理な話ですぞ」


またも驚くギルドマスター。この部屋に入ってくる前のスタッフとのマヌケなやり取りからは想像もできない鋭い観察眼。これならばあの報告も信用できるだろう。


「フッ、面白い()()じゃ、気に入った。妾はオリビア、よろしくなリュータロー」

「いま小僧つった?」

「言ったが?」

「ワシゃ120超えたじじいじゃぞ?」

「フン、120なぞ妾にとっては小僧じゃ」

「え、お何歳(いくつ)で?」

「600は生きとる」

「・・・・マ?」

「マじゃ!」


フフーンとふんぞり返り、無い胸を張る幼女。その姿にはなんとなく歳相応ではなく、見た目相応の雰囲気を感じずにはいられなかったリュータロー。


「して、ワシを呼び出した理由を聞かせてもらっても?」

「おーそうじゃったそうじゃった。忘れるところじゃった」


ステテテーと椅子に戻り座るオリビアは、深刻な雰囲気を作り直して話を切り出す。


「受付嬢にした報告をもう一度そなたの口から聞かせてほしい。より詳細にじゃ」


リュータローはコホンと咳払いをして、事のあらましを話し始めた。

依頼を受けてからゴブリンと遭遇した回数とそれぞれの数、そしてその時の状況。ホブゴブリン率いる群れの内訳、巣である洞窟の前にいるゴブリンのおおよその数と確認できた上位種の種類。それらからゴブリンジェネラルがボスとして君臨しているのではないかという推測。その根拠として、群れの統率力の異常な高さと巣に連れ込まれる女の数だ。リュータローが見ていた僅かな間だけでも5回、人間族や獣人族の女が攫われて来ているのを確認したこと。そして、女を攫って来ていたのは決まってホブゴブリンなどの上位種がリーダーを務める20匹近いグループだったことを細かく説明した。


「・・・・そうか、報告感謝する。じゃが、女が攫われて来ておるのに何故何もせず見ておった?何故助けなかった?」

「ワシ独りであの群れを殲滅できるなら助けておりますし、今している報告にも『既に片付けた』と付け加えられておるはず。あの群れはワシの手に余る。対処するには討伐隊の編成が必要と思い、偵察を優先しました。今手を出せばゴブリン共に察知され対処されるか、巣を移動されるのは明白。討伐はより困難を極めると判断した次第」


リュータローの話を聞いたオリビアは、口の中でクックと笑う。


「合格じゃ、そなたの判断は正しい。むしろよくやった!攫われた女を助けようもんなら逆に怒っておったわ」


カラカラとひとしきり笑ったオリビアはリュータローを連れてきたスタッフに指示を出す。


「すぐに実力あるパーティを召集せよ。ソレルオ大森林に向かわせゴブリンの調査をさせるのじゃ。攫われた女達には申し訳ないが今しばらく耐えてもらう」

「しかし、既にここまで詳細に報告がありますし」

「分かっておる。じゃがハンター1人からのみの報告では大規模討伐隊を編成するには説得力が足りぬ。ギルドが公式に調査し、確認したという事実が必要じゃ」

「分かりました。直ちにテウリア内に残っているパーティで実力のある人達に召集をかけます」

「頼んだぞ。それとリュータローにはゴブリン討伐とは別にこの報告の特別報酬を出すよう受付に伝えよ」

「はい」


スタッフは失礼しますと声をかけ部屋を出る。


「さて、アルストには兵を動かしてもらうとしようかの」


やらなければならないことは山ほどある。

まずは戦力を整えることだ。連携の取れた攻撃をしてくることから通常のゴブリンよりも危険度が上がるため、一人前と認められるランク7以上のハンターに討伐隊への参加要請をしなければならない。さらに、群れの規模は今吾も拡大していくことが予想される。最終的にハンターだけでは対処しきれない程にまで数が膨れ上がった場合を想定してテウリアの騎士にも動いてもらう。

次に討伐にあたっての物資だ。大規模な討伐隊を組むのであれば、それだけ食料も予備の武器も必要になってくる。テウリアにいる商人にも協力してもらうよう手配しなければならない。


「しばらくは忙しくなるのう。おい」

「はい」


オリビアはそばに控えている秘書に、調査に出向いてくれるハンターへの報酬と、今後編成される大規模討伐隊へのハンターの参加要請と参加報酬の段取りをするように指示する。そして、ゴブリン一匹辺りの討伐報酬も通常より割増しにするようにと付け加える。


「かしこまりました。スタッフの者と話し、決めさせて頂きます」

「頼んだ」

「マスターはどうされるので?」

「諸々の手配もあるからの。アルストのとこに行ってくる」


ゴブリンの群れに対処すべく、準備を始めるのだった。


「ところで床掃除のどうのとかいっておったの。何があったのじゃ?」

「ゴブリンの血や体液で汚してしもての」

何故(なにゆえ)すぐに掃除せん!!!!」

「あんたが呼び出したからじゃろが!」

「やかましい!はよいけ小僧!!」


物語の進行が強引なところもあるかもしれませんが、楽しんで頂けましたでしょうか?


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