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第陸話 老剣士、依頼を受ける

今回はグロ描写と若干の性描写がありますので苦手な方はご注意ください。


それではどうぞ!

スープを口にして龍太郎は固まった。理由はその不味さだ。


煮込まれた野菜の旨味が染み出ているはずのスープにはそれがなく、具材である野菜そのものにも味がない。あるのは口に含んだ瞬間に野菜がドロリと溶け崩れてしまう食感とは言えない感触と、お湯に調味料を溶かし込んだだけの味。

野菜は形が崩れるまでグタグタに煮て、煮汁は捨てているのだろう。


「あら?リュータローさん、どうしたのかしら?」


スープを口にして固まってしまった龍太郎をオーレンだけでなくジェイク達も見ている。


「もしかして口に合わなかったかしら?」

「いや、食文化の違いを感じてた」


出汁文化に慣れ親しんでいる身からすれば驚きの不味さだ。不味いのはスープだけではない。肉は固くなるまでしっかりと焼かれており、脂は落ちきってしまってパッサパサで水分なしでは食べ辛い。

とは言え、食べれる事へのありがたみを人一倍、否、十倍以上知っている龍太郎に、これを残すという選択肢は1ミリどころかミクロン程にもない。


しかし、味がこれでは食に癒やしを求めるのは厳しそうじゃのう、というのが正直な感想だった。魔物との命のやり取りは血が(たぎ)り楽しいが、緊張状態が続いて流石に疲れる。山籠りしていた時はモッグがいるオーガ族の集落で手土産と引き換えに酒を貰っていたので、この一時が心休まる時間の一つとなっていた。かと言って酒にばかり癒しを求めても体に毒だ。


となると。


龍太郎はパンをかじりながら目線を移す。その先には主張はないが、それでも女らしい体のラインと大人の魅力を持つカーラと、まだまだあどけないが将来が期待できるフェイルがいた。

今度リンウッドに会った時におすすめの娼館がないか聞いてみることにした龍太郎であった。


「食文化の違い?リュータローさんの故郷ではどんな食事をしていたのかしら?」


オーレンの問いかけにより、龍太郎は思考から引き戻される。


「そうじゃな。このスープは野菜を煮込んだ汁は一度捨ててはおらんか?」

「えぇ、もちろん捨ててるわよ?それがどうしたのかしら?」

「ワシの故郷では煮汁は捨てず、そのまま料理する」


オーレンの疑問や興味に輝いていた目が、一瞬で驚愕の色へと変わり、龍太郎の肩をがっしりと掴んで激しく揺らす。


「えぇ!?煮汁をそのまま料理にする!?汚いじゃないのよ!あなた今までそんなもの食べてたの!?駄目よ!ちゃんとした料理を食べないと!!」

「ちょっ!まっ!落ち着くんじゃ!オーレ、まっ!おr、おー、オレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレオレ」






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「つまり?煮汁には食材の旨味が滲み出ているから、それを捨てるのは勿体ないと、そういうのね?」

「そちらにはそちらの文化があるから勿体ないなどと言うつもりはないがの」


という龍太郎の言葉が聞こえてるのか聞こえてないのか、口元に手を当てて黙考している。


やがて、口元から手が離れ・・・


「・・・ねぇリュータローさん?その料理方法、教えて頂けるかしら?」


「え?」


「この子達にはね、少しでも美味しいものを食べてもらいたいの。美味しい料理の幅が広がるならなんでも学んでおきたいのよ」


パチンと片目を閉じてみせるオーレンに龍太郎は、そこまで言うならとこれを了承する。


「では、明日にでもやってみるか?」

「アタシとしては今すぐにでも教えて貰いたいのだけれど・・・」

「ほっほっ、そう慌てるでない。今はこのメシを楽しませてはくれんか」

「・・・それもそうね、失礼したわ。明日、楽しみにしてるわよ♡」


メシを楽しませてくれ。この言葉に気を良くしたオーレンは、逸る気持ちを抑えて明日を待つことにした。

この世界では食事は娯楽ではなく、生きる手段に過ぎず、食べれさえすればいいという考えなため味は二の次であり、無頓着な者がほとんど。オーレンは数少ない味に無頓着ではない人間であり、味付けに使う調味料やその分量には拘りを見せている。


「だから、ここで出される食事は他と比べて美味しいんだよ」

「だなぁ!オレもここでメシ食って初めて味って大事だなって思ったんだからな!がっはっはっ!」

「あら、うれしいこと言ってくれるじゃな〜い♡」


なら尚更もっと美味しい料理を作れるようにならなければと密かに気合を入れるオーレンであった。


その後はジェイク達が今回の依頼でリンウッドと共にカヴァーナ王国へ行っていた時の話や、その帰りにサイクロプスに遭遇し龍太郎に助けられた話をオーレンに聞かせ、ヘルマンがサイクロプスにぶっ飛ばされてしまったと聞いたときには顔面蒼白となり、ヘルマン・・・ではなくジンが肩を掴まれオレオレ言うハメになっていた。

そんなこんなでみんなでワイワイと食事や酒を楽しみ、オーレンも他の利用客の相手をしつつジェイク達との話に花を咲かせながら夜は更け、それぞれ部屋へと入り、体を吹いて就寝するのであった。



その翌早朝、まだ日も昇らぬ時間から宿屋「金色の拳」の裏庭では、一定間隔で何かが風を切る音が続いていた。


なんの音なのかと、その方向を覗いてみると服を上半身だけ脱いだ姿でひたすら剣を振るう龍太郎の姿があった。

一振り一振りの集中力か凄まじく、声をかける隙すらもない。これが終わると今度は構え方を変えて先程までとは全く異なる動作でゆっくりと剣を振るい始める。まるで見えない何かを相手にしているかのような動きで極限まで洗練された動き。見ているこちらにまでその気迫が届くかのような、圧倒されるかのような、ただならぬ雰囲気、そして異様な美しささえも感じられるその光景にオーレンはただ見入るしかなかった。


ゆっくりと剣を振ったあと、次は素早く同じ動作で剣を振るう。これが数度繰り返されると今度はまた違う動作で同じことをする。これが一通り終わった所で、老人はオーレンへと声を掛ける。


「随分と熱心に見ておったな」

「あら、気づいてたの?」

「気配には敏感なのでな」


額から汗を滴らせつつニカッと笑顔を作る龍太郎に、オーレンは、やっぱナイスシルバーはいいわ〜と内心で呟きヨダレを垂らしていた。






ーーーーーーーーーーーー





「変な臭いがするこの泡も一緒に料理するのかしら?」

「いや、それは灰汁といってな。食材に含まれる渋みやえぐみ、臭みの元だから、掬い取って捨てないと味が損なわれてしまう」

「なるほどねぇ、今までに比べて手間が増えるわね。まぁ、それでより美味しくなるのなら手間でもないわね」


なんてことを言いながら出てきた灰汁を次から次へとヒョイヒョイとオタマのようなもので掬い取り、別の器へと移し替えるオーレンの手際は初めてとは思えない程だった。


「あとは味見しつつ調味料を加えて整えれば完成じゃな」

「え?もっと煮込まなくていいの?」

「ここからは好みにもなるかのう。ドロドロに煮崩れしたものが好きか、具材が形を保ったものが好きか」

「せっかくだし、これ以上の煮込みはやめて形を保たせてみようかしらね」


こうして朝食用のスープが完成し、いつでも配膳できるというタイミングでジェイクやクリフ達がいつもとは違う朝食の香りに誘われ起き出してきた。


「あらおはよう。丁度ご飯できたところよ。食べる?」

「部屋でも思ってたが、やっぱいつもと匂いが違うな!オレぁさっそくいただくぜぇ!」

「私もいただくわ」

「じゃあ席について待っててくれる?すぐに出すわ」


みんな寝起きの筈なのに食欲すごいな、と思いつつ龍太郎も席につく。そうして暫くしてウェイター達が朝食を乗せたお盆を持ってやってきて並べていく。


「わぁ、すごくいい匂いです!」

「これがリュータローさんが言っていた、煮汁を捨てずに作ったスープですか?」

「ええそうよ」

「!?すごく美味しい!!」

「なんだこれは・・・なんというか、口の中にまで香りが広がる!」

「これが野菜本来の味なのか!?甘みまであるぞ!?」

「リューさんの故郷じゃあいつもこんなものがでてんのか!?」

「パンに浸すともっと美味しいぞ!」


「「「「マジで!?・・・・・マジだ!!」」」」


「本当に美味しい・・・これではいつもの食事じゃ物足りなくなってしまう・・・」


食べ始めた途端に止まぬ感想の嵐。普段と違う朝食の香りと、いつもよりも賑やかな食堂の様子に他に宿泊していたハンター達も起き出してきて同じように朝食を食べ、同じようにその味に感動する。


「リューさん、本当にありがとう。あなたのおかげであの子達に美味しい料理を提供できたわ。あの調理方法は他にも応用できそうだし色々と研究してみようと思うわ。他にも教えてくれないかしら?」

「ふむ、美味いメシはそのまま活力になる。オーレンさんが望むなら知っている限り教えよう」

「ありがとう♡」


これを切っ掛けに、この調理方法は徐々にテウリアに広がっていき、噂がアルセナール王国中に広がり、是非とも食べてみたいと様々な貴族や大商人、ハンター、旅人が集まるようになっていく。さらにこれを皮切りにグルメブームが起きて、食を娯楽とする文化がはじまり、テウリアは防衛都市とは別にこれの発祥の地として味の都市とも呼ばれるようになるのだが、それはもう少し先の話となる。




ーーーーーーーーーー




朝食を済ませた龍太郎は、早速ハンターズギルドへと足を運んでいた。


「失礼、依頼を受けたいのですが」

「かしこまりました。ハンタータグをお願いします」


龍太郎は首から下げていたタグを取り受付嬢へと渡すと、受付嬢はタグを装置へと差し込む。


「あれ?昨日登録したばかりでランク8?・・・あっ、もしかして貴方が例の?」

「ん?」

「あ、いえ失礼しました。お名前とランクを確認しました。えっと、リュータローさんはまだギルドでの実績がないのでご紹介できる依頼が少ないのですがよろしいですか?」

「まぁ、そればかりは仕方ありませんからな。討伐系があればそれを受けさせていただきたいのですが」

「かしこまりました。現在ですとそうですね、ゴブリン、狼あたりですかねぇ」

「では両方お願いします」

「え、大丈夫ですか?」


ランク8でスタートしているとはいえ、受付嬢からすれば登録したてホヤホヤのルーキーだ。ルーキーと呼ぶにはオールド過ぎるが、いきなり討伐系の依頼を2つ受けるというのは流石に不安になる。


「それはちょっと・・・心配といいますか・・・」

「おっと、ギルドでの実績がないんじゃったな。これは失礼。ではゴブリンの依頼を受けさせてもらいます」

「すみません。ありがとうございます」


受付嬢はゴブリン討伐の依頼書を取り出して何やら記入し、龍太郎のハンタータグを再び装置に差し込んだ。


「はい、これでゴブリン討伐の依頼が受理されました。期限は3日、最低5匹の討伐が依頼達成条件となります」

「相分かった」

「何か質問はございませんか?」

「ふむ・・・最低5匹ということは、5匹以上でも?」

「そうですね、6匹目からは数に応じて報酬が加算されていきますし、ゴブリンはとにかく数が多いのでより多く狩って頂けたらこちらとしても嬉しいです」

「ではできる限り仕留めてくるとしよう」

「ありがとうございます」


受付嬢は依頼書とハンタータグを渡して笑顔で龍太郎を見送り、龍太郎はこれに会釈で答えながら受付を離れる。


朝の活発になりはじめた喧騒の中を歩き、昨日入ってきた門へと向かう。


「お?あんたは昨日の・・・」

「これはこれは、昨日は世話になりもうした」


出口側の門番にタグを見せて門を出ると、昨日対応してもらった門番と目が合った。どうやら今日は特別通行証が必要な門ではなく、こちらの一般通行の門での勤務らしい。


「他でもねぇリンウッドさんの連れなんだ。別に構わんが、昨日の今日でどうしたんだ?」

「お主の言う通りあの後はすぐにギルドに登録しましてな、さっそく依頼を受けたというわけですわ」


そう言いって首に下げたタグを見せる。


「そうかい、あんたがリンウッドさんを裏切るような輩じゃなくて安心しているよ・・・ん?」


門番が注目したのはランクの項目。10ではなく8となっている。


「あんた、昨日登録したんだよな?」

「ん?まぁ、そうじゃが?」

「登録していきなりランク8かい。ま、賞金首をしょっ()いて来たくらいだし納得か。なんの依頼かは知らんが気をつけてな」

「うむ、そちらもの」


龍太郎はソレルオ大森林に向けて歩を進める。数名のハンターと思しき武装集団や、行商人かはたまた旅人か、ちらほらと時たますれ違いながら大森林に伸びる街道へと入り込む。そこから更に暫く進んだ所で、周りに人がいない事を確認すると街道を外れて道なき道を突き進む。


「ふむ、拠点にしてたのは大体この方角かな?ほいじゃ、3日しかないから急がんとな。ちと走りますか」


龍太郎は愛刀である黒龍に「巡らせ」と命令する。


「ゔぅん・・・この魔儺(マナ)が体ん中を巡る感覚はやっぱキモくて慣れん・・・わい!」


黒龍から流れ込んで来る魔儺が全身隈なく巡ったのを感じると、地面を蹴り跳躍。ひと跳びで数メートル上にある枝へと乗り、そこから更にまた跳躍。枝から枝へと跳び移って行く。


龍太郎が目指しているのはゴブリンがいる場所ではなく、つい先日まで山籠りの拠点としてキャンプしていた所だ。そこにはこれまで狩った魔物や動物の骨や皮といった素材を置きっぱなしにしていた。売れそうな素材もあっただけに、テウリアへ持ち込みたかったが、量が量だけに運搬が大変なのは明白だったため諦めていた。しかし、昨日リンウッドにアイテムボックスという超便利アイテムをもらい、それができるようになったので回収しにいくことに。そしてそのついでに依頼をこなしてとこうという考えだ。


ゴブリンを最低5匹、討伐証明は魔核。行きと帰りの道中にゴブリンがいれば(おん)の字である。いなかったら探しにいくしかない。


枝から枝へと跳び移り、時には地面に降りて走り、辺りの景色はみるみるうちに遥か後方へと消えていく。その姿は正しく疾走と呼ぶに相応しい。


それでも辺りの臭いや音、見えるものへの注意は怠っておらず、僅かにでも違和感があれば足を止めてその違和感の正体を探り、ゴブリンではなかったと確認しては再び走り始める。


これを数度繰り返したところで。


「む、これはゴブリンか」


黒龍からの魔力供給を止めて、音や臭いのする方へゆっくりと忍び寄る。その先にいたのは14匹のゴブリン。


「この前といい、ひとグループあたりの数多くないか?」


この前というのは、リンウッドやジェイク達と共にテウリアへ向かっていた時に遭遇したゴブリンのことだ。この時も20匹という普通では考えられない数だったため違和感を覚えていた。もっとも20という数字であるため、群れ全体で行動していたのではないかとこの時はジェイク達とは話していたのだが。とはいえ、1回の遭遇で依頼達成条件をクリアしたどころか、お釣りまで来るのだから、まぁいいかと考えるのをやめて黒龍の鯉口を切り、何かを囲んでギャイギャイ鳴いてはしゃいでる背後から1匹目の首を居合抜きで刎ね飛ばす。


突然の襲撃者に驚き理解が追い付いていない隙に近くにいるゴブリンを斬り伏せ、更にもう一匹仕留める。3匹目を仕留めたところでゴブリン達の理解が追いついたようで、粗末な剣や槍を構えて臨戦態勢に入るが、準備はさせんとばかりにさらに2匹の首を刎ねる。残りのゴブリン達はジリジリと龍太郎から距離を取りつつ広がっていく。おそらく、分散することで龍太郎が見なければいけない範囲を広くすることで死角を作ろうとしているのだろう。


「なんとまぁ頭の回る。いつものとはちょいと違うようじゃな」


ゴブリンの狙いを察知した龍太郎は呟き、ならばと一番右側にいるゴブリンへと体を向ける。


刹那、かかったな!と言わんばかりの鳴き声と共に、真逆側にいたゴブリンが龍太郎へと襲いかかる。これが龍太郎の誘いだと気付いた時には既に遅く、このゴブリンは胴体を真っ二つにされてしまっていた。だが直後にこの攻撃の瞬間を狙っていたのか更に別のゴブリンが二方向から同時に仕掛けてくる、残りのゴブリン達もまた時間差で襲いかかる。

これをいなしつつ龍太郎は考える。ゴブリンにしてはやけに連携が取れている。この統率はまるで訓練された兵士のそれに近いものを感じる。


それでも。


「まだまだ甘いがな」

「グギィ!」

「ゲキャッ!!」


黒龍の柄頭でゴブリンの眉間を殴り、さらに別方向から来たゴブリンを蹴り、首の骨をへし折る。このゴブリンを掴み、槍で突こうとして来るゴブリンへと投げ付け、投げたゴブリンごと黒龍を突き立て2匹まとめて串刺しにする。


「ギ・・・ギ・・・ギ・・・!」


(またた)く間に仲間を殺され、半数以下にまで減ったことに動揺するゴブリン達。龍太郎はそれを眺めている訳もなく、一匹、更に一匹と斬っていく。この光景に意を決したような顔をした残り二匹のゴブリンは次の瞬間、(きびす)を返して一目散に逃げ始めた。


「おう待てや金づる!!」


倒したゴブリンが持っていた槍を拾い上げ、逃げるゴブリンへと投擲する。槍は見事頭を貫徹し、その命を刈り取る。更に剣を拾い投げてもう一匹も仕留めることに成功する。


「やれやれ、連携して多分ちょいと手強かったわい」


刃に付着した血を振り払い、辺りの警戒をしながらゴブリンが囲んでいた何かへと目を移す。


そこにあった、否、横たわっていたのは()()()()()()であろうもの。顔はボコボコに腫れ上がり、または凹み、腹は裂かれて中身が引き摺り出されており、手足は切り落とされているか、関節じゃないところからあらぬ方向に曲がってしまっている。抜かれた長い髪と深々とした噛み跡が残る胸の膨らみが、この肉塊と化してしまったものが女性であったことをかろうじて物語っている。

この死体には赤黒い血に紛れて白が混じり、若干ピンクになった液体が身体の至る所にかけられており、股からも同じような液体が垂れていることから、この女性がどんな悲惨な目にあったのか想像に難くない。


繁殖目的ではない、ただの遊びで弄ばれ、その果てに殺されたのだ。


「随分と酷いことをする。辛かったろう」


龍太郎は黒龍を鞘に納めて、手を合わせる。


「すまんな、ワシの世界の弔い方じゃが、これで許せ」


それが終わると、遺品にでもなりそうなものがあればと、見回してみる。辺りに散乱していたのは破り捨てられた服だけでなく、ボロボロの皮鎧や折れた剣。であるならばと死体の首元を見てみるとやはりあった。赤黒く染まっているがハンタータグだ。


血を拭い取り、名前 アーニャ、ランク 9という表記を確認する。


念の為に折れた剣とボロボロの革鎧も回収し、斬り伏せたゴブリンから魔核の剥ぎ取りにかかる。流石にこんな状態の死体まで持って帰るわけにはいかないだろう。後で火葬してやることにする。


そうして魔核を回収していると。


「せっかく都市に着いたんじゃからナイフの一本でも買っとくんじゃった!」


ワイバーンの爪を研いで作ったナイフを使って魔核を回収していた龍太郎は、あいた〜!と頭を抱えていた。


無事、魔核を回収し終え、アーニャの火葬まで済ませた頃には日も傾き始めていた。


「暗くなる前にはキャンプに着くかの?」


龍太郎は再び黒龍から魔儺を貰って体に巡らせ走り出す。


その後もゴブリン達と遭遇しては全て倒して、倒しては魔核を取り出し、魔核を取ってはまた走る。この道中に遭遇するゴブリンはいずれも10匹以上の数でグループを作り行動していた。

これに違和感を覚えつつもゴブリン達を倒しながら、拠点にしていたキャンプへとたどり着く。その頃には夕日が僅かに地平線の向こうを照らす程度になっていた。


夕飯には以前採取していた山菜を食べる事に。干していた魚は残念ながら鳥か何かに持っていかれてしまった様子。残していた骨やら皮やらの素材は早速アイテムボックスへと収納。火起こしや食事を終えて一段落ついてから道中のことを考える。


ゴブリンは通常は3匹〜5匹単位でグループを作り食料調達や見回り、女の誘拐等を行う。山籠りしている時に遭遇していたゴブリンも5匹以上の数でグループを作っていたのは見たことなかった。

試しに記憶としてある女神に貰った知識からゴブリンについて引き出してみると、やはり通常は3匹〜5匹でグループを作り行動するとある。だがこの知識にはまだ続きがあった。


「・・・進化による知能を持った個体出現の可能性・・・?」


そう、魔物は進化することがある。魔物のみが保有する特殊な器官である魔核に蓄積された魔儺が魔物になんらかの影響を与え進化するのではないかと言われている。この進化によって通常よりも高い知能を持ったゴブリンが現れ、ボスとなり群れを率いている可能性が出てきたのだ。知識によれば、高い知能をもった個体に率いられる群れは通常よりも規模は大きくなり、さらに統率力も高くなる。見回りや食糧確保といった行動でも5匹以上の数でグループを作るようになるという。特にゴブリンジェネラルといった上位種に率いられる群れは10匹以上の数でグループを構成するという。


「ジェネラルに率いられる群れは優に500は超える・・・ねぇ」


普通であれば多くても30匹程度で群れを成すゴブリンが、ゴブリンジェネラルというたった一匹の存在で500を超える群れを形成するというのは流石に恐ろしい話だ。アーニャは恐らく、いつもより数は多くても所詮はゴブリンと舐めてかかり、通常よりも高い統率力を前に敗れてしまったのだろう。


「これは、明朝すぐにでもテウリアに戻らねばならんかもな」


アーニャのハンタータグを見つめて呟く。


「お前さんのような犠牲者をこれ以上出さん為にもな」


カサリと僅かに草が何かに触れて揺れる音。これを聞き逃さなかった龍太郎は脇に置いていた即座に黒龍を取り、鯉口を切る。


「何者じゃ・・・」


低く発せられたその声には殺気を滲んでいる。


「アタシ!アタシだから、殺気抑えて」


茂みから花の香りと共に顔を出したのは花冠のようなものを頭に着けた、緑色の髪をしたグラマラスで色気のある大人な女性だった。


「トライアか、久しいの」


彼女の名はトライア。見た目は人間に近いが服装や身体の一部に植物っぽさのある魔物、というよりは妖精の一種。


樹妖精ドライアドである。


「久しいの、じゃないわよもう。暫くアタシのとこ来てくれないし、大森林から気配がなくなっちゃうんだもん。寂しかったわよ」

「ほっほ、それはすまんかった」


反省してるの?と言いたげに腕を組み頬を膨らせて見せるトライア。腕が組まれていることで、胸元のたわわな実がギュッと寄せられている。


「ねぇ、お詫びはないの?」

「む?」

「む?じゃないわよ。女に寂しい思いをさせたお詫びはないのかしら?」


トライアは龍太郎に胸を押し付けるように体を密着させて抱き着く。トライアは右手を龍太郎の体に添わせて降ろしていき、やがて下半身へとたどり着く。


「お詫びってのは、そういうことでいいんじゃな?」

「うふふ、それ以外に何があるというのかしら?」


龍太郎の問に艶のある声で答えるトライアの右手は龍太郎の立ち上がった下半身を袴越しにさすり続ける。龍太郎はトライアを抱き寄せて唇を重ねる。唇同士が触れ合う程度のキスから徐々に激しくなっていき、舌を口の中へと侵入させる。その瞬間トライアから声が漏れるも、それを無視して舌と舌とを絡め合う。

そして一度唇が離れてお互いの顔を見つめ合う、龍太郎は慈愛顔で、トライアはとろんとした表情で。

再び唇が重なる。今度は始めから激しく舌を絡め合う。龍太郎の手はいつの間にかトライアの胸に触れていた。大きく柔らかく、それでいて弾力のある魔性の触り心地。しかし力任せに揉みしだくのではなく、優しく撫でるように、優しくマッサージするように触る。そうしてトライアからもれる声が激しくなり痙攣する。


「なんじゃ、もうイッたのか」

「・・・バカ」

「・・・・」

「え?・・・きゃっ!」


頬を赤くし、潤んだ瞳で上目遣いされながらの一言で、龍太郎の理性は吹き飛び、お姫様抱っこして1年前に簡易的に作っていた家へと入っていった。


それから暫く、周辺にはトライアの(あで)やかな声が響き続けていた。

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