3話 科捜研
六月十二日
一夜明け捜査本部に捜査員がぼつぼつと出勤してくる時間になっていた。
昨夜遅かった三森と五十嵐は所轄の柔道場のせんべい布団で目が覚めた。
家に帰れるのは週に一回が良いところで後は所轄で泊まっていた。
六月中旬で梅雨は、まだ過ぎたわけではないが、雲の合間に見え隠れする
太陽は既に夏模様で刺すような日差しを浴びせかけていた。
「捜査本部の村上だが、渡辺さんいるかな? ああそう、じゃ折り返し連絡
貰えるかな」
三森が主任の脇で不精髭の顎を擦りながら
「昨日の報告では、後部トランクの毛布から毛髪を採取したそうですね」
「おお、そうなんだよ。今頃DNA型の鑑定中だと思うんだが、ちょっと気
になってね」
主任が応えた。
「時間掛かりそうですか?」
「もう、そろそろだと思うが……」
村上主任のデスクの電話が鳴った。
「おお、なべさん、村上だ、どう時間掛かりそうかね…… ああそう、
じゃあ、今日の夜遅くになるかな? よろしく」
「どうも、結果が出るのは今日の夜遅くになるそうだ」
「そうですか、結構時間掛かりますね」
三森は、事件の捜査が終焉に近づいている実感が有った。
だが満たされない心を抱えて索漠とした思いに捕らわれていた。
何かが足りない。
自身でも見当が付かないが、見えない黒い穴を感じていた。
三森も五十嵐も調書と報告書の事務処理が溜まっていた為、この日は
書類に忙殺された。
科捜研のDNA型鑑定が思ったよりも時間が掛かっていた。
村上主任はじりじりして科捜研からの連絡を待っている。
結局デスクの電話は、この日は鳴らなかった。




