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4話 奴は消えた
六月二日
居酒屋「慎」の店主・奈良銀次は、昨日香坂からの連絡で、閉店したメルクス
「吉祥寺東町店」のオーナー・薬師寺の居所を調査していた。
以前、調査した住所のマンションは既に引き払っていた。
市役所の友人に手を回して住民票の確認をしてもらった。
異動届けは提出されていないと。
近所の人に最近薬師寺さん引っ越しましたか?
友人を装い訊いてみた。
「この辺は引越が多くて判らない」と。
何人かに聴いたが判らないと答えが帰ってくるだけでどうしようもない。
引っ越し屋が判れば移転先が分るはずだが……。
後、引っ越し先を知っていそうな薬師寺の実家、妻の実家、大家と訊いて
廻ったがいずれも分らないと。
電気、ガス、水道の精算は翌月になるので連絡先を教えて引っ越しをするが、
既に精算されていて、これも追跡できない。
普通は、何某かの臭いを残して引越をする。が、今回はどうもそうではない。
薬師寺は、警戒しながら確信犯的に姿を消した。
銀次の長年の調査経験がそう思わせた。
これ以上の調査は捜査権が無ければ無理と香坂に報告した。
「それは困る…… なんとかならないか」
香坂は困惑した。
銀次には、香坂が頭を抱えている様子が眼に浮かぶ。




