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3話  忌明けの宴


 六月一日・自由が丘 小早川邸 


 今日は、小早川瑛介の四十九日 忌明けの日だ。

 先程、法要と親戚縁者に酒宴の接待を終えたばかりであった。

 参会者が退き、榊慶子と生駒恭子が宴の片付けを手伝っていた。

 居間を片付け祭壇を設え瑛介の遺影を飾った。


 頼子を交えた三人は瑛介の遺影をそれぞれの思いを込めて看ていた。

 先日、慶子と恭子が推測し辿り着いた結末を頼子に話していた。

 頼子は、最愛の人が裏金を捻出した仲間の一人と言われることが腑に落ち

なかった。


 瑛介は自ら命を絶つことで失敗を償った。

 しかもその失敗は部下の失敗であった。

 確かに責任はあっただろうが、香坂役員にあれ程までの怒鳴り声で

叱責を受けなければならなかったのか? 

 時が経つにつれ疑惑の思いは膨らんだ。

 自らの指示で組織ぐるみの悪事を行わせた挙げ句、その悪事が

加盟店に漏れたことを部下の責任とした。

 失敗の内容が会社存続の何にも代えがたい唯一無二の事に関わって

いたならば、叱責どころではすまなかったのではないか?

 その為に榊さんは……。 そして瑛介がその犠牲になった。

 義父への尊敬の念が音を立てて崩れた。


 慶子は、睫毛に泪が溜まり青白い頬をした頼子の横顔を見ていた。

 結婚当初のふっくらした頬は肉が落ち年齢以上に年を感じさせた。

 ここのところ殆ど家に籠もる生活のようだ。

「頼子さん、大丈夫」

 慶子は重苦しい空気を押しのけるように声を弾ませた。

「ええ」ものうい声で応えた。

「慶子さん! ごめんなさい」頼子は膝を正し両手を前に深々と頭を下げた。

「頼子さん、どうしたの……急に、そんな事を、されると困ります」

 背中に廻ると肩を抱きしめていた。

「頼子さんだって辛い思いは同じでしょう。私は頼子さんの事をそんな風に

思っていませんから」顔に頬を寄せて云った。

「さあ、起きてちょうだい」頼子は涙を拭いながら身体を起こした。

「私、恭子さんからUSBが届いて、ズーと辛かったわ。榊さんには、本当に

申し訳ないって」

「申し訳ないのは私のほうよ。そもそも裏帳簿を紛失したのは、榊ですから」

慶子は言下に云った。

「二人とも悪いわけが無いわ。悪人は他にいる」

 恭子は瑛介の遺影から眼を離せずに苦い気持ちで云った。

 既にそれは誰なのか口に出さずとも三人は同じ人物を描いていた。

 

 恭子は、警察へ知らせるべきか迷っていた。

「慶子さん、警察へ知らせましょうか?」恭子は、試すように訊いた。

「警察に知らせる必要は無いわ」感情の無い乾いた声で答えた。

「やっぱり…… でしょうね」恭子はそれほど愕かない声で答えた。

 慶子は眼を据え上気した顔になっていた。

「恭子さん、二之宮さんは誘いに乗ってくるかしら?」

「たぶん、大丈夫だと思うわ」妥協的に応えた。

「二之宮さんにしても煮え湯を飲まされて黙ってはいられないでしょう。

その上、九州支店への左遷を言渡されて怒りは頂点に達したと思うわ」

恭子は云う。

「九州支店か? 遠すぎるわね」慶子は唸った。

「放逐っていうところかしら……」呟くように云った。

「二之宮さん、もう見切りを付けているんじゃないかしら?」

 慶子の声が沈んだ。

「このまんま、すごすごと見切りは付けられない。私が男だったら!」

 恭子は思わず吐いた自分の言葉に悪の臭いがしたのか、眉をひそめた。

 頼子が恭子の言葉をきいて唾を飲み込んだ。

 この人何を考えているのかしら? 

 背中が寒くなったような気がして一瞬身震いした。

 頼子は、嫌な予感がした。

 だが、それを言葉に出さず呑み込んだ。

「恭子さんの気持ち、私にはとても良く分るわ。たぶん同じ気持ちになっている

と思う」

 慶子が、恭子の瞳をまじまじと見て、深く肯いた。



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