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「超高層ホテル52階バスルーム・謎の完全犯罪」  作者: 嘉宮 慶
第五章  特殊犯捜査第七係の凄腕
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3話  暗中模索 その壱


 五月二十四日 


 榊慶子は、生駒恭子へ電話し大凡の経緯を訊いた。

 是非にも会いたいと無理を云った。

闇雲やみくもに黙示したとはとても思えない」

 慶子は独り言ちた。

 

 恭子が玄関に入ると慶子は待ち構えたように差伸べた両手で恭子の手を

力一杯握った。

 慶子のか細い指の一本一本に力が漲り恭子は顔をしかめた。

「この度はご愁傷様です。お言葉に甘え押しかけました」

「やっぱり通夜の時にお会いしていたのね」

「通夜は最初に焼香させて頂きました」恭子の声は掠れていた。

 恭子は歓迎されている。

 その事が嬉しかった。

 同時に自分が、こんなにも積極的になれていることに驚いている。

 一人で抱えるには重すぎる事実を一緒に抱えて欲しい。

 そんな願望が、どこかに潜んでいたのは確かだ。

「通夜の時、私は何故博嗣が殺されなければならなかったのか皆目見当が付か

なかった。夫婦なのに何も分かち合えていなかった。そう思って自分が情け

なかったわ。博嗣の遺品に殺害される理由がないか何度も探したの。でも何も

無かった」

 胸に溜まっていた思いを一気に吐き出すような話しぶりに慶子の苦悩が滲んだ。

「ああ、ごめんなさい。今、珈琲入れるわね」

 そう云ってキッチンに立った。

「構わないでください」

 恭子は、ソファーに座り手土産を持ってくれば良かったと少し悔やんだ。

 慶子はマグカップをテーブルに置くと

「恭子さんからUSBを送っていただいて私、少し元気が出てきたみたい」

「良かったです。実はそのUSBもお送りして良いものか? だいぶ考えました。

自分で録音しておきながら何を迷っているのか、わからなくなってしまって」

「でも、とても感謝しているわ。私がいくらがんばっても知り得ないことを教え

て貰って」

「喜んで貰えると私も嬉しいです」

 恭子はマグカップを口に運ぼうとしたとき嘔吐感を覚えた。

「お手洗いを……」

 口に手を添えて蹲った。

「こちらよ」

 慶子は恭子を抱えて連れて行った。

「大丈夫!」声を掛け背中を擦った。

 暫くすると恭子がソファーに戻った。

「すみません、ご迷惑を……」顔色が優れない。

「大丈夫ですか?」

 

慶子は妊娠した事が無いので判らないが、子供を産んだ友人に聞いた話を

思い出した。

 妊娠初期に悪阻という症状が出ると……。

「恭子さん、もしかして妊娠してらっしゃる?」訊くと

「はい……」と悪びれる様子のない声が返ってきた。

「ごめんなさいね。そんな身体なのに、わざわざ来て貰って」

「いえ、いいんです。別に病気ではないですから」

「確か生駒さんは独身ですよね?」

 慶子の質問が詰問調だ。

「独身です」

 恭子は、妊娠を隠すつもりは毛頭無い。

 むしろお腹の子は小早川瑛介の子ですと誇らしげに云いたかったが、

 この事は、口が裂けても云うまいと決めていた。

 USBを榊慶子と小早川頼子の二人に送くる時、生駒恭子は自分に誓った。

「人それぞれだから……、生駒さんを責めているわけではないから、誤解し

ないでね」

「誤解していません。大丈夫です。今日はUSBのことでお邪魔したのに

私の身体の事で気を遣っていただいてすみません」恭子は恐縮した。

「―― 私も博嗣の子が欲しかった」慶子が呟くようにポロッと漏らした。

 恭子は聞き漏らさなかった。

 女は愛する人の子が欲しい。

 ごく当たり前の生理で何の不思議もない。

「詮無い事をお話しして……」

「お気持ちは察します」二人を沈黙が縛った。

 

慶子がそれを振り解くように

「実はUSBから夫の肉声を聴いたとき、生駒恭子という人間を疑いました。

忘れかけていた声を思い出させ夫が亡くなった当日まで私を強引に引き戻した。

静かに暮らしていれば少しずつ悲しみが癒やされて、やがては平穏な日々が送れ

るだろう、と安易な日々に流され始めていた私を振り向かせ、

『夫の無念をなんとかしなさい』と叱咤されたような……」

恭子は慶子の切ない胸の内を察した。

「私は知ってしまった事の重大さに最初は戸惑っていました。でも本当にこの事

を知りたいのは榊さんと小早川さんの奥様ではないかと気付きました。それに

正直自分だけではどうすることも出来ない情けなさを感じ、お二人にお送りし

ました」

 

 慶子はパソコンを引っ張り出してUSBをセットした。

「事の発端がどうもスーパーWの出店が決まったことに始まっているようね」

 慶子は恭子に同意を得るような口調だ。



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