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「超高層ホテル52階バスルーム・謎の完全犯罪」  作者: 嘉宮 慶
第五章  特殊犯捜査第七係の凄腕
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2話  尾行


 特殊犯捜査第七係の弓削倭ゆげ・やまと青海沙月せいかい・さつきの二人は、

クラブ『嬪』のママ・莉音りおんの尾行と張込みが続いていた。


 弓削倭ゆげ・やまと・階級は、巡査部長、眼は細く頬が削げている。

 細身でしなやかな体躯。身長は百七十ちょっと有る。

 敏捷な身のこなしは特捜第七係ならば必須だ。

 青海沙月せいかい・さつき・階級は、巡査だが七係での捜査に只ならぬ情熱を注ぐ。

 美人ではないが、ブサイクでもない。一般人に紛れるには好都合だ。


 莉音の日常は、『嬪』と自宅(広尾ガーデンヒルズZ棟最上階)の往復で究めて

単調である。

 出勤時の客との同伴は避けているようで殆ど無い。

 アフターは懇意にしている客と寿司店に寄るぐらいで、それ以上の付合いは

していない。

 土・日は、自宅マンションから殆ど出てこない。

 近くのスーパーへ日用品の買物に出るのが、外出と云えば云えた。

 尾行を初めて一週間ほど経った日曜日の午後二時少し廻った頃、莉音は動いた。

 店に出る和服の上にレースの薄羽織を羽織っている。

 髪はシニオンに鼈甲の和かんざしをさり気なく挿していた。

 白いうなじが、いやでも艶めかしく見える。



 表通りに出ると直ぐにタクシーを停めて乗り込んだ。

 弓削は、タクシーの後ろに二台の車を挟んで尾行だ。

「珍しいな! 何処に向かうんだ?」弓削が呟いた。

「店に行くんじゃ少し早いですね。それに今日は日曜ですよ?」

 青海が応えた。

 二人共、今日は何かが起こると緊張した。

 六本木通りに出たタクシーは、右折して溜池を過ぎ国会前を右折した。

 内堀通りに入ると、日比谷を左折し日比谷通りを暫く進むと大手町を右折し

江戸通りに入りタクシーは、スピードを緩め右折のウインカーを出し徐行した。

 右折し少し行くとタクシーは止まった。


 見上げるとそこは、マンダリン・オリエンタルホテルだった。

 莉音がタクシーから降りホテルに歩いて向っていた。

「目的地にお着きですね。青海頼む!」

 弓削が目配せすると青海は車から飛び降り莉音を追った。

 弓削は車をホテルの駐車場に入れた。


 莉音は、エントランスホールから直接エレベーターホールに向った。

 青海も人に紛れ莉音と一緒に乗り込んだ。

 莉音は、三十七階で降りマンダリンバーの中に消えた。

 青海は弓削に現在地を告げた。

 暫し待つと弓削がやってきた。

 二人は、軽く腕を組みバーの中に入ると、視線は莉音を探していた。

 莉音は、窓側のソファー席に座りフレッシュグレープフルーツを飲んでいた。

 二人はカウンター席に座り視界に莉音を入れた。

「一人でお茶しに来たのかしら?」青海がボソリと云った。

「―― んー な わけ、ねーだろう!」

 弓削が、天を仰いで辛辣な言葉を吐いた。

「なんか…… ふんわりと色気が漂っている感じがするわ」

 うっとり見ほれている様子だ。

「ふーん。―― で、次は何を言出すのかな?」

 弓削は最近、青海紗月の会話に付いていけてない。

 何処に話が飛ぶのか見当も付かない。

「誰かを待っているんだわ!」

  紗月の口から出た言葉は誰かに同意の意を持ちかけている。

 明らかに弓削に向かっていない。

「やっと本業に戻ったか。何故わかる?」怪訝な目で莉音を見た。

「瞳よ、瞳がキッラ! キッラ! よ!」

「燃えてきたか?」青海を見た。

「ほーら! お相手が来た!」

 青海が目立たないようスマホで二人の写真を連写していた。

「なに?」

 視線を戻すと浅黒い顔の男が莉音の横にぴったり座った。

 男は、莉音の肩を引き寄せると耳元で何か囁いた。

 莉音は首を竦め、くすぐったそうな仕草をして小さく頷いた。

 二人はゆっくり立ち上がるとバーを出て客室用エレベーターに向った。

「青海! ぴったりついて行け!」

 弓削は指示を飛ばした。

 青海は人混みに紛れ二人の後ろに付いた。

 一緒にエレベーターに乗り込んだ。


 二人は三十三階で降り東側のプレミヤデラックスの部屋に消えた。

「三十三階プレミヤデラックスの部屋に入ったわ」

 青海は携帯で囁いた。

「とりあえず三十八階に戻れ」弓削は指示した。

 ホテルのフロント階のロビーは三十八階だ。

 二層分の吹き抜け空間は、解放感と非日常を感じる。

 青海は、先程写した二人の写真データを村上主任宛メール添付で送信した。

「暫く待機だな……」

 弓削は、ロビーの東側からレインボーブリッジとスカイツリーを眺めていた。

 こんな高級ホテルに泊まらずに時間で帰るはずがない。弓削は察した。

「お泊まりだと…… 朝までね」青海が声を潜めた。

「だな……」呟いた。

 弓削の携帯がバイブレーションで着信を知らせていた。

 発信は村上主任だ。



「弓削です」

「村上です。二人の写真受け取ったよ。男はメルクスの財務担当役員の香坂だよ」

「財務担当役員と銀座のママですか?」

「その店が臭いんだ! で…… 二人はお泊まりかな?」

「まだわかりませんが、三時間ほどフロント階で様子を見たいと思います」

「二人が繋がっていることが判れば捜査としては次のことを考えられる。

お泊まりを確認する必要はない」

「わかりました。又連絡入れます」 


 二人はフロントが視野に入る位置で張込むことにした。

 張込みは慣れているが油断すると欺かれる。

 交代で食事を済ませフロントから目を離さなかった。

 青海は、莉音の瞳が自棄やけに潤んでいた事が、目に焼き付いていた。

 待ちに待った密会のように映った。

 二人の関係の深さを思わせた。

 青海の勘では男は容易に解放されない……。

 そう思いを巡らせた。

 弓削は腕時計を見た。

 六時半を廻っていた。

 二人が部屋に入ってからもうすぐ四時間近くになる。


 青海は、先程からソファーに深々と座りファッション雑誌を食い入る

ように読み耽っていた。

 弓削が紗月の座っている後ろに立っていた。

 何気なく話しかけた。

「やけに落着いているね?」

「たぶん、お泊まり……よ! だから」

「お泊まりか? こっちの身にもなってくれよ! たく――――!」

 弓削が踵を返し窓際に歩いて行くと、

「ヒュー」と高音の指笛が一つ短く鳴った。

 弓削が鋭く振り向いた。

「青海の奴! 何考えているんだ……! こんなところで指笛を鳴らすなよ! 

俺は犬じゃねえぞ!」

 弓削は歩きながら早口で独りごちた。

 青海に視線をやると顎でフロントを指した。

 見ると莉音と香坂がベルボーイを相手に精算していた。

 青海は、ソファーから立ち上がるとフロント方向にゆっくりと近づいていた。

 精算を終えると莉音は香坂の腕を胸に押しつけるようにしっかりと抱え込んだ。

 二人は、おなじ階にある、鮨屋「そら」に入った。


「運動したので、お腹が減りました…… そんな感じですかね?」

 青海が棘のある呟きをした。

 だれに怒っているのか? 

「そんなとこだな。一つ言っておく。俺は犬じゃない! わかったか!」

「でも名前で呼んだら拙くない?」

「それもそうだけど…… とにかく指笛は控えてくれ!」

「はい、はい」短く返事をした。

「お泊りではなかった……。よかった」

 青海が嬉しそうに独りごちた。

 それを聴いた弓削も小さく頷いた。

 二人が食事を済ませて店を出てきたのは小一時間後だった。


 その後、香坂は莉音を銀座の店まで車で送った。

「男はご帰還ですかね? 弓削さん今日はこの男追ってみませんか?」

「莉音はどうする?」

「店が刎ねたらお決まりの帰宅でしょう」

「だといいが…… ちょっと主任に報告しておくよ」

「よかった。駄目って言われるかと思いました」



 香坂の車は霞ヶ関から首都高速四号線に乗り高井戸で降り井の頭通りに入った。

 吉祥寺まで来るとドンキーの脇道に入り駐車場に車を入れた。

 香坂は、徒歩でハモニカ横丁に入っていった。

 青海は、香坂の後ろ三メートルと離れないところにぴったりと付いた。

 香坂はハモニカ横丁の路地を何度か曲がってかなり奧まで脚を伸ばし一軒の

居酒屋に入った。

 通い慣れた足取りに見える。

 濃紺地にもつ煮込み専門「慎」と白抜きの暖簾が見える。

 青海は、店の写真を撮ると弓削に写メした。

 女が一人でこの手の店に入ると客の興味を引き、目立ちすぎる。

 青海はもつ煮込みは弓削に任せることにした。

 弓削は、車を駐車場に入れ青海の後を追ったが見失っていた。

「慎」に辿り着くと青海に目配せして店に入った。

 弓削が店に入ると三組ほどの客がカウンターで飲んでいた。

 店はカウンターが厨房を囲み、コの字になっている。

 そのカウンターには十二、三人は座れる。

 若い店員が紺の法被に腰エプロンで「いらっしゃい」と威勢が良い。

 弓削は香坂を探した。

 店の右手奥で店主と顔を寄せあい、ひそひそと囁き合っている。

 だいぶ長い間話しているのが見える。

 どちらかというと香坂が頼み事をしているが、店主がなかなか首を縦に振らない

そんな様子に映る。

 何をしゃべっているのか判らない。

 スマホの動画を起動させて二人の様子を撮った。

 暫くそんなやりとりが続き、終わったかと思ったら、香坂は背広の内ポケット

から分厚い封筒を取り出し店主に渡した。

 店主は、無理矢理手に握らされた。

 弓削にはそのように見えた。

 香坂は酒も飲まずに店を後にした。

 弓削は頼んだ、もつ煮込みを横目で見ながら勘定を済ませ店を出た。



 青海の姿はなかった。

 駐車場に急いだが、既に青海の姿も香坂の車も姿が消えた。

 主任に連絡を取った。

 香坂一人で吉祥寺のハモニカ横丁の居酒屋に来たが酒も飲まずに帰ったことを

伝え香坂の自宅住所を訊いた。

 メールに動画を添付して主任に送信した。

 弓削がメールの送信を終えると同時に青海から携帯に連絡があった。

「タクシーで移動中です。井の頭通りを環八に向っています」

「香坂の自宅は北青山だ。高井戸から首都高速に乗るかもしれんな、自宅に

ご帰還かな……? 俺も後を追う」

「十分後、又連絡入れます」

「頼む!」

 弓削は、環八に入る交差点でウインカーを出し信号を待ち、ハモニカ横丁の

「慎」という店と香坂の関係を洗うと何か出るかも知れない。そう思った。

 不思議と信号待ちの短い時間は弓削の頭も整理してくれるようだ。

 香坂が、背広から出した分厚く膨らんだ封筒に現金が入っていたとすると、

かなりの金額の様に見えた。

 何の金だろう? 

 綺麗な金ではなさそうだ。

 その後、香坂の車は自宅に帰った。


 弓削は香坂の自宅付近で青海を拾い銀座に向った。

 そろそろクラブ『嬪』の刎ねる時間だ。

 莉音が、店から出てきて表通りでタクシーを拾い自宅に向かった。



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