13話 被害者の足取りに有力な証言
13話 被害者の足取りに有力な証言
五十嵐刑事と地下鉄で捜査本部に戻ると主任と所轄の橋本刑事が顔を寄せ合うように
小声で話していた。
主任は頷きながら報告を訊いていた。
一段落したようなので
「主任、何かわかりました」声をかけると
「おお、五十嵐君もちょっと来てくれ」
主任の脇のテーブルに着くと、橋本刑事を再度呼んだ。
「橋本君、今の報告をもう一度頼むよ」
「はい、被害者の足取り捜査遅れて申し訳ない」
橋本刑事は、軽く頭を下げた。
「やっと手がかりになりそうな聞き込みが有りましたので、報告させて貰うと、被害
者の足取りはコインパーキングに社用車を止めた十九時二十五分までは確認済みです
が、その後被害者が立ち寄った店がわかりました。
店の名は『いせや』と言います。焼き鳥で有名な居酒屋です。
その店の店員の話ですと二十時頃被害者が一人で来店し奧の席で焼き鳥とビールを頼
んで一人で飲み始めたそうです。
一時間ほどすると長身でグレーの背広を着たサラリーマン風の男が来て一緒に
飲みながら話をしていたそうです。
暫くすると被害者がテーブルに突っ伏して寝てしまい連れの人は肩を叩いたりして起
こそうとしていましたが、起きないので困った様子だったと……結局、
肩に担いで十一時前後に帰ったそうです。
酒を飲んで寝てしまう客は時々いるのでそれほど気にしていなかったと店員は
言っています。
その後二人が何処に行ったのか? 付近の飲食店を中心に目撃情報を集めて
います」
「あとから来たサラリーマン風の男の顔を覚えていませんでしたか? と、
店員に聴くと
『それが、後ろ向きに座っていたので、はっきりと顔を見ていない』
と応えています。
逮捕されている二之宮の写真も見せましたが頭の感じが違うのと体つきが
違うと証言しています」
「現在その後の足取り情報を聞き込み中です」
「つづけて頼む、ご苦労さん」
主任は橋本刑事の肩をポンと叩いた。
橋本刑事は一礼して捜査本部を急ぎ足で出て行った。
三森は主任と立ったまま
「すっかり寝てしまった被害者の肩を担いで次の店に行きますか?」
三森が疑問を投げた。
「それは無理でしょう。公園のベンチで少し休ませる、とかしませんか?
普通?」
五十嵐刑事が所轄の捜査に不満でもありそうな反抗的な意見を吐いた。
主任が「まあ、まあ……」と宥めた。
「そのグレーの背広の男は真っ黒ですね」
五十嵐の言葉は三森に向いた。
「いよいよ本星が登場か?」
三森が呟いた。
「所轄の地道な捜査の結果だな」
主任は所轄の捜査を評価していた。
「ところで、香坂のアリバイは裏が取れたか?」
「裏は取れました。お相手の銀座の女はタワーマンション五十八階にお住まいでし
た。十一時半から朝の九時まで一緒だったと」
「裏が取れたか?」
主任は呟きながら納得できない様子だった。
捜査会議が型どおりに進んだ。
橋本刑事から被害者の足取り進展の状況説明があり、引き続き近辺の飲食店を中心に
聞き込み捜査中の報告、三森刑事から関係者のアリバイ確認の報告、
西刑事(捜査一課)から二件の報告、一件目は逮捕した二之宮の車から犯行に繋がる
物証は出なかった事。二件目はクラブ嬪のボーイ松尾惺吾の所在確認を久留米警察に
照会した。結果報告は該当の住所に居宅は無く又、町内に松尾惺吾成る人物は確認出
来ないと回答。村上主任は、
「被害者を中心とする関係者については、ほぼアリバイが確認され重要参考人もしく
は容疑者は浮かばなかった。残るは所轄の捜査で浮かんだ事件当日居酒屋から被害者
と一緒に帰った男を追う。もう一つ被疑者・二之宮のDNA型が検出されたハンカチ
の件は、クラブ嬪の関係者を再度洗って欲しい。以上」
捜査員は前の見えない重苦しさを抱えながら三々五々散った。
三森と五十嵐は定宿・所轄の柔道場へ足を向けた。
「三森さん、クラブ嬪の優瑠瑠さん綺麗でしたね」
「五十嵐は、ああいった女がタイプか?」
「わかります?」
「わからんね! 自分の上から下まで、よくよく見直した方が良いと思うよ。
一緒に財布の中身もよく見た方が良いぞ! ああいった女は金が掛かるぞー、
覚悟があるか?」
「そんなにぽんぽん云わなくても……」
五十嵐はむっとして頬を膨らませて言い返したが我が身を振り返り無理矢理
自身を納得させた様だ。
「その優瑠瑠は、香坂と六年も付合っていると云っていたな?」
「そうです。六年と、それよりもマンションが藤堂社長と香坂の共同所有と云うのが
……?どういう事なんでしょうか?」
「二人で購入した所に女が一人か?」
そう独り言ちた。
「女も二人で共有している……?」
三森は既に一人の世界に浸っていた。
「共有する為に買ったのか? 買ったから共有したのか?微妙なところだな」
「同じ穴の狢か……?」
五十嵐が揶揄した。
「言い得て妙!」
三森は呟きながら、いつにないニヤついた眼になっていた。
「三森さん! 何をニヤニヤしているんですか?」
五十嵐が三森の目の前で掌を広げひらひらさせた。
その手を払った三森の眼は鋭く尖っていた。




