11話 香坂事情聴取
10話 香坂事情聴取
五月十二日
三森刑事と五十嵐刑事は香坂の自宅に向っていた。
自宅は北青山だ。近辺は瀟洒なマンションが建ち並んでいる。
その一角に塀瓦を乗せた栗色の土壁が周辺の雰囲気とは一線を画し異彩は
放っている。
入り口の数寄屋門が周囲を威圧している。
数寄屋風造り純和風の二階建ての建物が香坂の自宅だった。
道路側に面した一階に玄関・居間そして車庫が生け垣沿いに見える。
三森は表札を見て「ここだな」と呟くと
車庫に止めてある、黒のベンツEクラスを凝視し、五十嵐にナンバーを
控えるよう目で合図を送った。
玄関のチャイムを押した。
インターホン越しに来意を伝えると五十前後の和服姿の初老の女性が現れた。
居間に通された。
革張りのソファーが置かれデイベッドが窓側にある。
室内の壁は渋い焦茶のチーク練付で統一され重厚感が漂っている。
照明はスタンド型の照明を間接照明としていた。
ソファーに座るとお茶が出された。
少しすると
「ああ、すみません」と云いながら香坂が現れた。
浅黒く引き締まった顔立ち・贅肉のない筋肉質な体がポロシャツと
スラックスの上からでも見て取れる。
二人は名刺を出し、挨拶を済ませると
「海外出張から昨日お戻りと聴きました。お疲れの所、押しかけまして申し
訳ありません」
「いえ、かまいませんよ。それより榊君の件は秘書から概略訊きましたが、
二之宮君が逮捕されたというのは本当ですか?」
「被疑者として現在事情を訊いています」
「そうですか? で……私にどのような?」
「皆さんにお聞きしています。榊さんが殺害された四月二十三日午前零時
から三時頃まで何処にいらっしゃいましたか?」
「その日は、海外出張前日でしたので定時に帰り出張の準備をしました。
その後銀座のクラブ嬪の優瑠瑠という女の子の所に行きました。
朝まで一緒でした」
「クラブの優瑠瑠さんの自宅を教えていただけますか?」
香坂はメモ用紙に住所を書き、三森に渡した。
「航空便を覚えていますか?」
「確か四月二十三日JALの十一時半頃のチエンマイ行きでした」
「もう一つお聞きしたいことがあります。それは榊さんが殺害された
一週間程前に二之宮部長と銀座のクラブで一緒に飲まれたと訊いていますが」
「ああ、あの時は二之宮部長の部下・小早川君が不幸なことになって
しまったので、その仕事について話をしましたが」
「二之宮さんの様子で気がついたことはありませんでしたか?」
「二之宮部長はアレルギー性鼻炎が持病でその日も調子が悪そうでしたが」
「いつもは、ハンカチを出して鼻を拭っていたと訊いていますが、その日は
どうでしたか?」
「さあ、あの日はどうだったかな? ちょっと覚えていませんが。それが
事件に関係があるんですか?」
「いいえ、参考にお聞きしているだけです。ところで小早川さんの事件の
当日社長室で二之宮さん小早川さんの四人で会議をされたと訊いていますが」
「小早川君の事件当日ですか?」
「何でも夕方四時頃から会議をされたと……」
「ああー あの日の会議は、小早川君の加盟店に対する指導について糺しました。
業界内の競争が熾烈でして加盟店に対する指導はとても重要なものですから、
しっかりやって欲しいと注意しました」
「小早川さんはどのように返答されていましたか?」
「仕事のミスは言い訳の出来ない内容でしたので私の話をじっと聞いて
いましたが」
「じっと聞いておられた……と?」
「なにか、問題でも……?」
香坂は問題視されていることに腹の中ではかなり憤慨している様子だ。
不機嫌さが口角に滲み出た。
「いえ、問題はありません。ただその夜に自殺されているものですから、
どういった内容なのか確認させて頂きました。気になさらないでください」
三森はあくまでも下手に出た。
「もう一つ宜しいでしょうか? 榊さんが殺害される二日前に人事異動の
内示を二之宮部長と榊さんに云い渡されたと訊いていますが」
「異動は定例の事で特別二人だけにお願いする意図ではありませんが」
「内示を示されたお二人はどんな様子でしたか?」
「特に辞退する訳でも無かったので了解して頂いたと理解しましたが……
何か?」
三森は隙の無い返答に胡散臭さを感じた。
「定例の異動で特別な物では無かったと……」
「今、お話しした通りですが、まだ説明が必要でしょうか……?」
「いえ、もう結構です」
「忙しいところ、押しかけて失礼しました」




