7話 誕生日の祝い
三森刑事と五十嵐刑事は今日も所轄の柔道場が寝室だ。
「三森さん、次期社長と噂のあった小早川はかなりのプレッシャーが
有ったんじゃないですかね?」
「自殺の原因には、どうかな?」気のない返事をした。
先程から柔道場の壁を背に鑑識でロックを解除して貰った携帯電話を
見ていた。
「三森さん、プレッシャー無かったんですかね?」
「ああ、俺かい? 俺は無いよ。無い! 刑事がプレッシャー感じるか?
だろう!」
「え――――? 刑事の話じゃないですよ! 次期社長の……何も聞い
ちゃいないんだ?」
背中を向けテレビを見ていた五十嵐は振り向いて
「何? 見ているんですか?」
三森の手元を見た。
「小泉署長から借りた携帯電話」
「その携帯……小早川の携帯じゃないですか? 良いんですか、こんな
所で見て?」
「どんなところでも 拙いんじゃないか!」
拙いと云いながら平然と携帯をいじっている。
「でしょ……!」
五十嵐は、そう言いながらも携帯を覗き込んだ。
「ええと、自殺したのは四月十三日か?」
三森は確かめるように携帯の日付を繰った。
「最後の通話は十八時十分受信……秘書・生駒佳代子になっている
……就業時間外だな」
「そんな時間に社長から連絡が有るのかな?」五十嵐が呟いた。
三森はかまわず次の履歴を見た。
「あとは、二之宮部長へ二回発信午前十一時二十分と午後三時四十分
これは仕事の話だな」
他の日の履歴は後にしてメールの履歴へ移動した。
「メールは……十四時二十分に秘書からだ。
『社長がお呼びです。十六時に社長室までお願いします……』か?
CCで二之宮部長にも同時に発信されている。
自殺した日に社長から直接呼び出されたのか。
メールはあまり使っていなかったのか件数が少ないな」
四月十三日の履歴の次に四月九日の履歴が並んでいた。
「小早川から秘書へ発信 十六時三十分 『恭子、誕生日おめでとう!
今日少し遅くなるけど待っていて欲しい、一緒に誕生日お祝いしたい
から……』これは――――?」
「五十嵐! 此のメールどう思う」
五十嵐は一緒に覗き込んで見ていた携帯を三森から奪い取った。
そのメールを何度も読み返し
「これは―――― 三森さん、拙いでしょう!」
「さっきからマズイの連発だな」
「この、待っていて欲しい…… は、会社で待っている。じゃなくて、
自宅で待っていて欲しいでしょう」
五十嵐の解釈は当りかもしれない。三森もそう感じた。
「そう読めるか?」
三森は念押しした。
「もし会社で待っていて欲しい……の意味なら、食事の出来る洒落た店
を予約してあるから……と、メールに書き込むか? 誕生日の祝いに
洒落たレストランを予約していると、そのくらいは最低限書き込むでしょう。
ただ待っていて欲しいでは……どこか食事の出来る店を予約しましょうか?
と、返信メールが有ってもおかしくは無いでしょう」
五十嵐の言葉に熱気が感じられた。
「正論だな……となると……秘書の家で誕生日を祝った事になるが?」
「小早川は妻帯者ですよ。やっぱり拙いでしょう」
「五十嵐、まだ二人が深い関係なのか解らないだろう」
三森は五十嵐の思い込みを少し宥めようした。
それは三森自身が納得したくないだけだった。
三森はこの事をこれ以上は触れたくなかった。
こういう現実を見せられると自分の選んだ職業を恨めしく思う事がある。
小早川婦人の少し寂しげな顔を思い出す。
二人は同じ思いを巡らせていた。
暫し二人が押し黙り込み、気まずい空気が漂った。
三森が携帯を五十嵐の手からもぎ取ると、もう一度そのメールを読み返した。
「小早川の奥さん、もしかしたら、このメール読んでしまった? それで
警察に取りに行きたくなかった」
三森は一人で呟いたつもりだったが……。
「たぶん」
五十嵐は頷きながら小さな返事をした。
気持ちを取り直すように五十嵐が云う。
「自殺当日の携帯の時系列をもう一度整理すると、二之宮と小早川は十六時
から社長室に入って何か話があった。その後十八時十分に秘書が小早川に
発信となります」
「社長室の話が終わった後、直ぐにか? 少し時間を置いてからか、
秘書が電話をした。これが小早川の生前最後の電話になった」
三森も自身が確かめるように同じ事を繰り返し呟いた。




