16話 ポニーテールのママ
五月一日(捜査六日目)
三森刑事と玉野刑事は、立川駅と被害者(榊 博嗣)の自宅のほぼ中間
地点にある雑居ビルの二階にあるカラオケスナック「セニョリート」の
聞き込みに夜の七時頃入った。
店に客は二組だけでカラオケは有るがまだ盛り上がっていなかった。
玉野刑事は警察手帳を店のマスターに見せた。
「ちょっとお尋ねしたいですが……?」訊くと
「なんでしょうか?」怪訝な眼が向けられた。
「四月二十二日深夜 この人物が店に来ませんでしたか?」
榊の写真を見せた。
「ああ この人見たこと有るな? ええと火曜日だったかな?」
カウンターの奧の調理場に向かって声を掛けた
「おおーい」
ポニーテールを長く薄紅のリボンで留めたママさんらしき人が現れた。
「警察の人だよ」
マスターが耳元でささやいた。
「何か?」
怪訝な眼を玉野刑事に向けた。
「この人、最近来ませんでしたか?」
写真を見せると
「確か一週間くらい前に来ましたよ あれ…… この人テレビに出ていた……
殺された人で……すか?」
マスターが「お前! いい加減なこと……」と言いかけ
「ママさんで…… 良いのかな? そうですよ…… テレビで報道されました」
三森がマスターを制してママの話しの先を促した。
「やっぱり」
ポニーテールが肘でマスターの脇腹を突いていた。
「正確な日付はわかりますか?」
玉野は二人の小競り合いを無視して訊いた。
「この方が来た次の日が確か二十三日で、その日の夕方のテレビでやって
いましたから……だから二十二日の深夜……正確には午前一時くらい
だった…… かな?」
「で……この人、ここで何していました」
「瓶でビールを頼まれて、一人でぶつぶつ言いながら飲んでいました。
大分酔っていたみたいでビールをコップに注ぐ動作が緩慢でカウンターの
上に零していました」
「ああそうですか、そのほかには?」
「そうそう…… カラオケがうるさいと何度も怒鳴られました。うちは
カラオケスナックだからと、その度に説明したんですがね。暫くすると
カウンターの端っこに行って電話していましたよ。
その時も大きな声を出して怒鳴っていましたけどね」
「その電話の内容わかりませんでしたか?」
「カラオケがうるさいのと、大分離れていましたから、殆どわかりません
でした」
「そうですか……そのほか気づいた事有りますか?」
「ええ、それで帰り際、ビールをコップに注いでカウンターの椅子から
立ち上がると一気に飲み干したんですが、口からあふれたビールが
お客さんの肩に掛かってしまって、もう大変でした。酔っ払って人に
迷惑掛けて謝りもしないで出て行ったんですよ!」
「大荒れでしたね」
玉野は苦笑交じりの口調になった。
「全く! 良い迷惑ですよ」
「それで良く覚えていた」
「そうです」
ポニーテールのママがリボンを揺らして大きく頷いた。
三森刑事と玉野刑事は、該当のスナックを確認し事情聴取を終わらせた。
主任に連絡を入れ捜査本部に戻った。
榊が最後に寄ったスナックが割れた。
薬師寺の証言を裏付ける事になり、この件は収束に向かった。
この日、捜査会議での新事実はなく捜査は遅々として進んでいない状況である。
所轄の捜査員も本庁組も三々五々散った。
明日からゴールデンウイークだ。
捜査本部では交代で休みを取るぐらいが関の山で一週間の連休などあり得ない。




