15話 六年間の仕事の幕を閉じる
四月三十日、吉祥寺東町店
「メルクス」吉祥寺東町店は今日が店舗営業最終日となった。
営業最終日ともなれば店舗内の商品は半額セールと相場が決まって
いるが、この店は定価で営業中である。
ただ店舗入口自動ドア脇に
「本日は営業最終日の為、営業終了時間は午後六時とさせて頂きます」の
表示があるだけで通常と何ら変らない営業である。
フランチャイジー薬師寺は、事務所で私物の整理に忙しい。
午後六時から最後の棚卸が、業者によって行われる予定である。
本部との約束は在庫の商品は本部が買い取る約束である。
今回はもう誤魔化しても無意味である。
証拠に本部社員の姿は無い。
誤魔化しを指示する人間は必要が無いからだ。
カウントした在庫は数店舗のフランチャイジーに無理矢理振り替える
のだろうから、本部は痛くも痒くも無い。
尤も、開店時自己資金で商品を揃えた経緯から考えれば、その自己資金が
戻ってくるだけで誰も損得は無い。
開店してから既に六年の歳月が流れていた。
この間、棚卸毎に多額の搾取が行われていたと思うと悔しさが残る。
SV榊は殺害され、未だに犯人逮捕の朗報はない。
又、その上司の小早川は自ら命を絶った。
この原因も不明である。
全ては、本部が組織ぐるみでやってきたQカードをはじめとする高額商品の
店間振り替えと伝票操作に依るフランチャイジーからの搾取が全ての元凶だ。
薬師寺は、その全ての元凶を証明する動かぬ証拠を握っている。
六時近くなると入り口の脇に五〜六人の棚卸業者が集まっていた。
六時ぴったりに店舗入口のドアが閉められた。
店舗営業最終日だというのに本部の人間は誰一人来ない。
本部の加盟店に対する姿勢が透けて見える。
棚卸業者がカウントした商品が、運搬業者によって折畳みコンテナに納められ
店の脇に止めたトラックに運び込まれていった。
最期のコンテナが運び出された。
棚卸業者のカウントした在庫一覧表には店の在庫がびっしり書き込まれ
在庫総金額の明記がされていた。
薬師寺は、その書類にサインをして、六年間の仕事の幕を閉じた。
商売の経験など皆無の薬師寺はフランチャイジーとして、本部の指導に
寄りかかり又,有る時は突き放され、ひと月ひと月の売上に一喜一憂した
忌まわしい日々を醒めた思い出で思い起こしていた。
薬師寺はその六年間を脳裏から掻き消したい思いに駆られた。




