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11話  深夜に怒鳴り続けた電話


 四月二十八日


 所轄の玉野刑事(巡査部長)と五十嵐刑事はメルクス吉祥寺東町店に

向かった。

 店の前に着くと道路を挟んだ反対側の工場らしき建物を取り囲むように、

仮囲いが巡らされていた。

 その仮囲いに解体工事のお知らせと題した看板が掲げられている。

「この工場、解体するのかな? 確かバロック電子という会社と思ったが……」

 所轄の玉野刑事が独りごちた。

 それを訊いていた五十嵐刑事が

「工場撤退ですかね?」

 五十嵐は興味無さそうに仮囲いを横目で見ながら応えた。

「の……ようですね」

 玉野は素っ気なく応え踵を返した。

 事前に連絡を入れ、時間の約束をしての面会である。

 店に入ると店長・薬師寺が直ぐに事務所から出てきた。

 話は事務所で…… と、二人の刑事を事務所に招き入れた。

 事務所は三人が折りたたみの椅子で座るといっぱいになった。

 五十嵐刑事が

「早速ですが…… SVの榊さんの件で来たんですが、

四月の二十二日、深夜午前零時半頃に榊さんから電話を受けて

いますね」

「ああ! 覚えていますよ。夜中にいきなり鳴り出した電話で叩き

起こされたんです」

「で……内容は?」

「だいぶ酒が入っていたみたいで、呂律が回っていない上に聴き取り

にくい濁声で電話を切るまで、怒鳴っていました。

その上電話しているのが、カラオケスナックのようなところでカラオケの

音楽が又、喧しくて殆ど聞き取れなかったです」

「殆ど聞き取れていない……?」

 五十嵐は納得していない顔だ。

 薬師寺は見逃さなかった。

「そうなんですよ! 第一最初に電話に出た時は誰なのか、まるで解ら

なかったんです……。自分は誰だと、名乗らないものですから…… 声の感じから

榊さんか? と、こちらから聞いたくらいですから……

聞いたんですが無視して二分ぐらい、勝手に怒鳴っていましたけどね。

ほんと良い迷惑ですよ」

「何もわからなかった? と……」

 五十嵐は、怪訝な眼を薬師寺に向けた。

「それが、ズーッと怒鳴っていて途切れ途切れに、なんとか聞き取れたのが、

『おい! 訊いているか!』と、『なんか文句あるわけ!』で、最後の方は

怒鳴り続けて疲れたのか、幾らか穏やかな口調で聞き取れたのが

『これで全部おわりだ!』と言って一方的に切ったんですよ」

 薬師寺は渋面をつくり、榊の台詞を誇張した。

「榊さんの言った『これで全部おわりだ!』というのは、薬師寺さん何か

心当たりがありますか」

「全然わかりません」

 薬師寺は素知らぬ顔で応えた。

「榊さん、大分荒れていたようですね? 以前にも同じようなことが、

ありましたか」

「いえ、初めてです」

「そうですか」

「そもそも、その電話は他の人に掛ける電話じゃなかったんですかね?」


 薬師寺は榊が、何故そんな電話を自分にかけて来たのか? 

五十嵐刑事に疑問を投げた。

「薬師寺さんは、間違い電話と思っている」

 五十嵐刑事は聞き返した。

「はい、大分酒が入って酩酊状態で間違ったと……思うんですが――」

「まあ――。可能性はありますね」

 五十嵐刑事は納得していない様子に見えた。

 もう一人の刑事が一生懸命にメモっていた。

 五十嵐刑事は、そのメモに目を走らせた。

「ところで二十三日午前零時から二時頃までは何処にいました」

「二十三日午前零時から二時頃までですか?―――家で寝ていました」

「どなたか証明できる方は?」

「妻と一緒でしたが」

「わかりました」



「話は、変りますが、道路の反対側の仮囲いはどういうことか

ご存じですか?」

「バロック電子という工場でしたが、移転するそうです。

お得意さんだったんですよ」

「確か解体工事のお知らせ看板が出ていましたが……?」

「そうです……壊しちゃうんですね。店は大打撃ですよ。

 お昼の弁当なんか工場の従業員の方に結構買って貰いましたからね」

「工場壊した後のことは何か聞いていますか?」

「いいえ、どうなるんでしょう? わかりません」



 バロック電子の工場跡地には大型スーパーが出店する。

 先日契約したばかりだ。

 薬師寺はその事を、おくびにも出さない。

 わざわざ教えてやることも無い。

 そう思った。


「そうですか」

 五十嵐刑事は、薬師寺の返答に納得したのか、話を更に振った。


「榊さん、どんな人でした?」

「いや、一生懸命店舗指導してくれましたよ。ただちょっと口うるさいと

云うか、何度も同じ事を言われるのでちょっと閉口しました。

まあ今思えば店の為と思ってのことだったんでしょうね。

私はサラリーマンでしたので店は本部の指導を受けてなんとかやって

いるのが、正直なところです」

 薬師寺は当たり障りの無い言葉を返した。

「仕事熱心だったと……?」

「そうですね。ちょっと熱し過ぎと……」

「榊さんが突然の不幸で店は、今どのようにしていますか」

「もう替わりの方が店舗指導に来てくれていますので、支障は有りません」

 二人の刑事は、通り一遍の話をして帰った。


 薬師寺の店は後二日で閉店だ。

 この後、二人の刑事は榊担当店の三店舗を廻り事情聴取し本部に帰った。




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