10話 通話履歴が弾き出した人物は?
三森がメルクス本社から捜査本部に戻った。
橋本刑事が主任に顔を近づけ声を抑えて耳打ちした。
「そうか……そっちは、五十嵐君のところで洗って貰っているから、
引き継いで貰うよ」
「お願いします」短いやり取りがあった。
三森刑事は、その様子を見ていた。
主任の所に行き
「何か出ましたか……?」
小声で聴くと
「うん ちょっと五十嵐君呼んでくれるか?」
三森刑事は部屋の中を見回し、五十嵐刑事を見つけると足早に駆け寄り
耳元で囁いた。
捜査一課・五十嵐刑事・階級は巡査部長三森刑事の後輩に当る。
剣道は八段だ。体躯は百八十、筋肉の塊だ。長い棒を持つとウルサイ。
主任の脇にあるテーブルに五十嵐刑事を交え三人が加盟店リストを
広げて見ていた。
「ああ、この店ですね。確かに薬師寺とあります。オーナーですね。
開店して六年です」
五十嵐刑事がリストを見ながら「吉祥寺東町店」の情報を読み上げた。
「二十二日の深夜零時半に榊本人が発信した相手だ。携帯電話の
履歴から割れた」
主任が経緯を捕捉した。
「二十二日の深夜ですか……?」
五十嵐が再度確認した。
「そうだ。二十二日深夜だ。犯行があったのは確か二十三日の深夜だから、
ほぼ二十四時間前だ」
三森が再確認した。
「そうなるね……?」
主任は伸びかけの無精髭を擦りながら三森刑事を刮目した。
「先日の所轄の報告では二分三十秒が通話時間と」
三森が主任に聞こえる様に呟いた。
「そうだな」
「短いですね。何を話したんですかね」
三森が当然の疑問を口にした。
「五十嵐君のところで加盟店関係を洗って貰っているんだが、この店は、
まだか」
「早速明日聞き込み行ってきます」
五十嵐が、早口で応えた。
「頼むよ!」
「自ら発信した。しかも午前零時半か……大抵の人は寝ていますよ。
それをたたき起こして二分三十秒話した? 通話時間が短い?
仕事の話をその時間にするか?」
三森は顎をさすりながら、独り言ちた。
それを聴いた主任が三森の禅問答の様な連続した呟きを止めるように
「という事で……頼むよ!」
主任は立ち上がったが三森刑事は、まだ呟きの続きをやめなかった。
そのまま立ち上がり主任のデスクに再び近寄り椅子を引き寄せ主任の前に
顔を突き出し
「あの二人、左遷ですよね?」
「いきなりなんだよ?」
「主任! だから、その――部長と榊ですよ!」
「左遷……て……何でわかるの?」
報告書を書きながら片耳で三森の話を訊いていた。
「だって本社からの異動となると通常左遷じゃないですか?」
「役職が上がった場合はなんと呼ぶ?」謎かけのような会話に成りつつあった。
「横滑り……? ですか?」
「ポストによっては、栄転も有りだよ」
「部長は詰め腹をと……言っていましたよ」
「役員がそう言ったわけではない」
「部長は私見と言っていましたね」
「そう! 役員の話を訊いてからだな」
三森刑事は今の主任との会話で香坂役員に会わねばと思った。
翌日、三森刑事は、朝一番で香坂役員に電話を入れた。
「捜査一課の三森と言います。香坂役員はいますか?」
「あいにく東南アジアへ出張しております」役員秘書が応答した。
「海外へ出張ですか? で……いつ帰国しますか?」
「はい、五月十一日が帰国予定になっております」
「五月十一日ですか? それはいつから行かれた出張ですか?」
「四月二十三日からです。それが何か……?」
「いえ……良いんです」
「どういたしましょうか? 帰国したら三森様に連絡を差し上げる様に
いたしますか?」
「そうですね。連絡いただけると助かります」電話を切った後
「四月二十三日……か? やけに微妙だな?」
三森はこの日付を聴いて思った。
二十三日は榊の死亡推定時間に符合する。
主任の耳に入れておこうと思い探したが捜査本部にはいなかった。




