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7話  刑事の禅問答


 同日四月二十四日、三鷹駅近くの居酒屋 


 三森は、生ビールを一口飲み、突き出しのまぐろ南蛮に箸をつけながら、

いつものように声を押し殺して呟きだした。

「主任、殺害されたのは、現場ですかね」

 箸で摘まんでいた、まぐろ南蛮を口に頬張ると、村上主任の顔を

ゆっくりと見た。

「そこがね、まだ見えてこない」

 主任が三森の眼を覗き込むように応えた。

「殺害現場は、他所ですかね……?」

 三森は、いつものように一人で事件の推理を始めた。

 これが始まるとなかなか厄介な事になる。

 一人で禅問答を初めて切りが無い。


「犯人は、仏さんを運んできたのか……?」

 ビールを一口飲むと、続けて呟いた。

「ほたる橋の上から落とした。とすると、仏さんを担ぎ上げないとならない」

(犯人は男だ! しかも仏を持ち上げ玉川上水に投げ込める体力が有る)

 三森は思った。

 村上主任はいつものやつが始まったな…… と、思ったのか、耳だけ

 三森に向け熱いおしぼりで顔を拭った。

「三森、何をぶつぶつ独りで云っている……?」 

 主任が窘める口ぶりになっていた。

「主任は不思議と思いませんか」

「うーん、たとえば……?」

「たとえば、殺害場所は何処だと思います」

「そうだな…… 被害者は手と足にガムテープが巻かれていた。ほたる橋の

上でそのガムテープを被害者に巻くか? 

早く投げ込んでその場を去りたい……と 思うだろうな」

 村上主任はそう云うとコップの麦焼酎を一口一旦右の頬に含み、

味わう様にゆっくり嚥下した。

 タイミング良く来た焼き鳥を一本口に運んだ。


「―――― と言うことは、殺害現場は他の場所と……」

「たぶん」

 村上は気のない返事だ。

「うーん…… 手足を拘束した死体を運んできた……か?」

「たぶん」

「どこから」

 三森は腕組みをして天を仰いだ格好で呟いた。

「それをこれから捜査する」

 村上主任が三森の格好がおかしかったのか笑いながら頷いた。


「そうか…… なんかすっきりした気分だが? 先が見えない」

「そう…… その先は、誰にも見えない」

「所轄の橋本刑事のところで何か出ないか期待しているんだがね」

「そういえば被害者の使っていた車が行方不明でしたね」

「それを早いとこ発見できると、空白の時間が埋まってくる。所轄に

任せてあるから、ちょっと待とう」


 その後、二人の話は、壁に突き当たったかのように行き場を失い、事件とは

関係の無い話に逸れた。

 

二人は、アルコールが適当に廻ったところで居酒屋を後にした。




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