4話 敷鑑
四月二十三日 立川の榊宅・午前十一時頃
電話の気魂しい呼び出し音が響いた。
昨夜から夫が帰宅していない。
思わず慶子は息を飲んだ。
結婚して今まで連絡無しで外泊した事は一度も無かった。
受話器を上げた。
三鷹警察からの電話だ。
榊博嗣さんの奥さんか、と、確認された。
「警察車両を向かわせるので、一緒に病院に同行して欲しい」との事
「何事が起きたのか?」尋ねると、
ご主人らしき人が井の頭公園西園で発見された。
既に死亡していた。
近くの杏林大学病院に搬送したとの事。
そこまで聞いた慶子は、その場所に崩れ落ちた。
遺体安置所で変わり果てた夫を確認した。
いろいろ質問をされ、答えたが、その殆どを覚えていない。
四月二十三日午後四時三十分、メルクス本社
代表電話に三鷹警察から電話が入った。
メルクス本社・総務課で受けた。
その電話が内線で二之宮のデスクの電話に繋がった。
だが二之宮は休暇を取っていた。
替わりに事務員が対応した。
「榊博嗣さんが井の頭公園で発見されたが死亡されていた」
事件性大との事。
「榊博嗣さんは、メルクスの社員か?」
そして
「直属の上司は誰か?」確認された。
「榊さんの妻・慶子さんに先ほど本人であることを確認してもらった」
などが警察から伝えられた。
最後に直属の上司の連絡先を訊かれ応えた。
この一報で社内に衝撃が走った。
エリアマネージャー・小早川が、自殺してからまだ幾らも日が
経っていない事も有り、加盟店店舗掌握営業部門に不審の目が向いた。
夕方コンビニエンスストアー「メルクス」のSVが殺害されたと、
マスコミが湧いていた。
TVの各局が、競って放映している。
一番早いBBB・TVが、殺害現場に近い場所で実況中継していた。
二之宮は、風邪と高熱で伏せっていた。
頭は、高熱のせいか惚けて、いた。
TVの実況中継で事件の概要を知った。
被害者の名前は伏せられていた。
現場からの実況中継終了直後、二之宮は捜査本部の橋本刑事からの
電話を受けた。
橋本刑事・階級は巡査部長。所轄の刑事なので地取り担当だ。
体育会系、顎の張った厳つい顔、目付き鋭い刑事らしい顔付きだ。
「捜査本部の橋本と言います。榊さんの上司の二之宮部長ですか?」
「はい、そうですが…… まさか、被害者は榊ですか?」
刑事が榊さんの上司かと、訊いたので被害者が榊と判った。
「はい、そうです。奥さんに確認していただきました」
「――まさか!? 榊君は、殺されたと言う事ですか?」
恐る恐る訊いた。
「まだ、はっきりしたことは判っていません」
刑事は明言しなかった。
榊は殺された。
二之宮は間違いないと思った。
悪寒が背中を迫り上がった。
「榊さんの昨日の行く先を訊かせてください」
刑事の声は落ち着いていた。
二之宮は榊の巡回予定店舗を上げ、時間は店舗との打合せが様々なので、
正確には各店舗に問い合わせして欲しいと伝え、巡回予定の店舗の連絡先を
伝えた。
刑事からの電話を切ると直後に会社から電話が入った。
事件に対する会社の方針・注意事項など通達が有るので出社する
ようにと要請だ。
深夜・本社の大会議室に役員・販売管理部各部長・二之宮管轄の
社員・広報本部の関係者などが緊急召集された。
財務担当役員・香坂の姿は見えない。
広報よりこれから対応しなければならない対警察・対マスコミ・対社員と
それぞれへの対応についての注意事項がペーパーで渡された。
広報担当はそのペーパーに沿ってそれぞれへの対応注意事項について
詳しく説明した。
個人が各方面からの取材等を受けた場合は必ず広報を通す事。
個人で各方面へのコメントの発信については厳禁。
とりわけ事件当事者・榊の直属の上司・二之宮には、マスコミからの取材が
激しいと思われるので広報担当が付くことになった。
二之宮は香坂役員が来ていないか?
その姿を追ったが見つからなかった。
大会議室での広報からの注意事項の説明が終わると、その場で解散となった。
二之宮はデスクに戻るとPCのスイッチを入れ、榊からのメールを削除した。又、リ
モートで榊のPCにアクセスしメール内容を確認した。
裏帳簿に係わるメールを全て削除した。
続けて次席を呼び指示を出した。
次席は、担当者のデスクを回り不要なメールの削除を指示した。
全員を回ると次席が部長席に戻った。
「全員に指示しました」小声の報告。
「もうひとつ、情報管理部のサーバー内のメールを削除するよう指示してくれ」
「サーバーも――――ですか?」
「念には念を入れておかないと……な!」
「解かりました。今日はもう遅いので明日一番で指示します」
「宜しく頼むよ」二之宮はそういい残して社を後にした。




