表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/110

2話  「ガウディ」激しく吼える


 四月二十三日(土)早朝・都立井の頭恩賜公園


 都立井の頭恩賜公園の東端に三角広場が有る。

 その広場の北側には、ゆったりとした敷地に瀟洒な住宅が建ち並んでいる。

 その一角に鏑木家は有る。



 鏑木聡子かぶらぎ さとこは、午前五時前、

 愛犬・ゴールデンレトリバー「ガウディ」を連れて散歩に出た。

 カーディガンの上に薄手のハーフコート、白のジーンズに紺のスニーカーを

履いている。

 家の前の坂道を少し下り井の頭公園に入ると朝靄が薄く漂っていた。

 舞い降りた桜の花唇が、神田川の清流に弄ばれている。

 中州で水浴びするエナガ数羽とシジュウカラの混群を眺め、

神田川に架かる「夕やけ橋」を渡る。


 蔦が絡まる京王井の頭線のアーチ型陸橋を潜り暫らく行く。

 愛犬「ガウディ」は弾むような歩調を聡子に合わせている。

 体高はおおよそ五十センチと成犬に近い雄犬だ。

 ガウディがリードを強く引くと聡子の力では制御出来ない。


 井の頭池に架かる「七井橋」で、かる鴨親子の朝水浴を一頻り眺めていると、

別の群が、親鳥を必死で追う八翼ほどの子鴨が連なり通り過ぎる。

 早朝から微笑ましい光景を繰り広げている。


 ボート乗り場を脇に見て「狛江橋」を渡ると、だんご屋が坂の上に見える。

 そこで右に曲がり弁天様に寄る。

 お賽銭を上げ両手を合わせた。

 聡子の習慣である。


 本堂脇の浄水を柄杓で手に取り「ガウディ」に水を飲ませた。

 西園へのだらだらとした坂を登り「小鳥の森」に急ぐ。

 公園の中を通り抜けている井の頭公園通りを渡ると西園に入る。


 杉や欅の古木が鬱蒼と生い茂り葉々の隙間から朝日が差し込み朝靄を

突き抜けて下草まで届いていた。

 乳白の朝靄が陽炎のようにゆらゆらと揺れている。

 肌に纏わり着く様な湿気が漂い、聡子の額には薄らと汗が光っている。


 今まで、温和しく散歩していた「ガウディ」が玉川上水に架かる

「ほたる橋」の欄干の見える所まで来た時、突然激しく吼え出した。

「ガウディ」が、一瞬、聡子を振り返った。

 繋がれていたリードを振り払い「ほたる橋」まで全速で駆けた。

 橋の欄干の間から上体を玉川上水に乗り出した。

 今にも落ちそうな勢いで川面に向って今迄に聞いた事も無い程に

激しく吼えている。


 聡子は「ガウディ」の異様な吼え方を不審に思ったのだろう

「ほたる橋」の欄干から身を乗り出して橋下を恐る恐る覗くと、

橋の真下に白目を剥いた人間がこちらを向いて倒れていた。

 顔色が異様に青白く、濁った瞳の黒目が有らぬ方向を向いている。



 聡子は背中に沸き立つ様な悪寒が拡がり全身に震えが取り憑いたのか、

大きな声で叫ぼうとしたが、開けた口から声が出ない。

 聡子の膝がわなわなと震え出し折れた。

 そのままそこにへたり込んだ。

 シャベルとビニール袋を入れたバックから携帯電話を取り出し震える手で

警察に通報した。

 「玉川上水の… ほ、ほたる橋の下に人、人が…… 倒れています」

 やっとの思いで言い終えると聡子の手から携帯電話が抜け落ちた。


 倒れている人間は、玉川上水の川の流れに下半身を投げ出し、両足は

足首の少し上をガムテープでぐるぐる巻きにされていた。

 ズボンは川の流れにゆらゆらと揺れ濡れている。

 上半身は雑草の密生している川の土手に左半身を下に顔面は首から

捻れて斜め上を向いていた。

 目は白目を剥いて口を大きく開けたままである。

 手は後ろ手にガムテープでぐるぐる巻きにされている。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ