1話 五月蠅
薬師寺は、その日の深夜、正確には四月二十二日(水)の午前零半頃、
着メロ「ロッキーのテーマ」で浅い眠りから叩き起こされた。
携帯の向こうから聞き覚えの有る声が、何かに勝ち誇った様に意味不明な
言葉を機関銃のように薬師寺の鼓膜に叩きつけてくる。
薬師寺の半覚醒の脳味噌が反応した言葉があった。
「これで全部終りだ…!」
語尾が鼓膜に突き刺さりムカついた。
いつもの事だが声の主は、相手が訊いていようがいまいが、お構いなしに
勝手に喋り続ける。
自己中心的性格な奴、当店担当スーパーバイザー(SV)の榊だ。
別名「五月蠅」だ。
ただ煩いだけの意味だが、地区のオーナー仲間ではそう呼ばれている。
枕元の時計を薄く開けた片目で見た。
時計の針は、午前零時二十六分を指していた。
芋焼酎を飲みながら娘の出演しているドラマのDVDを観終ったのが
十一時だったから、まだ幾らも寝てない。
「くそっ!」薬師寺は舌打ちをした。
携帯を耳から遠ざけた。
返事をせずに暫く放置した。
今日は何時になく執拗だ。
まだ何か怒鳴り散らしている携帯の通話終了ボタンを押した。
(「五月蠅」いい加減にしてくれ!)
叫びたかったが、眠気がすっ飛ぶので我慢した。
薬師寺は毛布をかけ直し、欠伸を一つして再び寝た。
SV榊のこの時の不愉快な機関銃言葉こそが、薬師寺が聴いた榊の最後の
声になった。




