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「超高層ホテル52階バスルーム・謎の完全犯罪」  作者: 嘉宮 慶
序章 レインボーネイルの女
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4話  救急車


榊は戻ると「クライマックスの話って、何だっけ?」云って

鼻を摘まんだ。頭がジンジンしてきた。

「ナンカすごい匂いだな! 俺、匂いに弱いんだ!」

「直ぐ馴れるよ! お替わり頼んだ。あんたのも」軽くあしらわれた。

他人に配慮!……なんてこの女の頭にはない!

「そうだ? ……クライマックスの話しが折れちゃったジャン」

梅美は恨めしそうな眼で榊を見上げた。

「だから、あの話しは、またの……お楽しみに取っておこう! いいよね?」

「またと、お化けは出ない」もう、付き合っていられない。

お芝居して遊ぶ歳じゃないと思った。

「この世にお化けはいない。だから出てこられない」梅美はゆっくりした口調だ。

「勝手な理屈だ。それは偏った考えだ」聞こえるように呟いた。

「そんな難しい議論は、梅美しない」

梅美には、「また」の意味が理解出来なかったようだ。

いちいち説明するのも、めんどい!

榊はグラスの焼酎を一気に飲み干した。

「もう、帰る」いって、立ち上がった。

「ええ〜! もう? 何処に帰るの!」梅美は眉間に皺を立てた。

「家に決まってる!」

「だから……家、近いのか? って」大きなお世話だ。教えねえ。

「なんで聴く?」榊はムッとした。

「あんたの家で、飲み直すのも、良いかなって? 生理前だし」

この女!完全に誘ってる。やばい!

それにしても生理前と、自分から云うのもなんだかなーと、嫌悪感

「申し訳ないが、俺には、もう係わらないでくれ!」俺の言葉に棘が出た。

「梅美のこと冷たくしないで!」ちょい涙目だ。

でも芝居がかってる。そう思った。

この女、素人じゃねえな! 俺の脳裏を過ぎった。

「後ろから反社会的勢力のお兄さんが現れそうな気がするが、違うか?」

「あたしのこと、何か勘違いしてない? たとえば、怖いお兄さんとグルだとか?」

勘は良い方らしい。

「違うのか?」

「そんなんじゃないよ! 最初に云ったじゃん。学生だって、忘れちゃった」

「学生だって、怖いお兄さんと、グルって事は有るだろう!」

「未だ疑ってるんだ?」

「だから、俺の事は、ほっといてくれ! 何度言ったらわかる?」

「怒った顔が、又、好き!」

「困ったお嬢さんだな。家に帰って勉強しなよ!」

「そしたら、明日又、会える?」

「そんな約束できない!」

「なんで、そんなに梅美のこと冷たくするの!」眼が釣り上がった。

「たくっ――!!」舌打ちした。

「そもそも、俺とあんたは、赤の遠くの他人だ!」

「他人か? 梅美!マジで、ニヒルな喋り、嫌いじゃないよ!」

「勝手に云っていれば良い!」

榊は、伝票を持ってレジで精算した。

梅美がぴったり後ろについてくる。

「ついてくるなよ!」睨みを利かせて、いった。

いきなり走った。

細い路地を走って、何度か角を曲がった。

梅美の履いている靴のヒールの高さは十?以上ある。

あんなピンヒールじゃ、走れない!

梅美の甲高い嗤い声とピンヒールの音がだんだん遠ざかる。



青梅街道の車の流れの切れ目を全力で走り抜け教会通りに入った。

なんで嗤いながら追い掛けてくるのか訳がわからない。

榊は、ちょく、ちょく、後ろを見ながら教会通りを小走りに進んだ。

「よかった!」ピンヒールの音と甲高い嗤い声はもう聞こえない。

焼酎が胃の中で踊った。酔いが急激に廻った。

頭がくらくらした。立ち止まって、一息ついた。

その時、青梅街道方向から、尋常でないクラクションの連呼が響いた。

俺は、振り向き青梅街道を見た。



「梅美だ! 拙い! 気づかれた!!」独りごちた。

「ヒロシ〜!」嬉しそうに、名前を呼ばれた。

梅美が青梅街道を渡ってくる。しかも、榊に手を振りながら。

二間幅しかない教会通りの両側はビルだ。

俺の視界は幅の狭いスクリーン状態。

そこに映し出された。

左からクラクションを押し続けたタクシーが!!

「キャ――――!!」と、梅美の長い悲鳴。

梅美の身体が宙に舞った。

頭からタクシーのフロントに落下! 

フロントガラスに血飛沫が飛散した。

力の抜けた梅美の躰は停まらないタクシーに再度はね飛ばされた。

大きく弧を描いて再び宙に舞った。

同時に急ブレーキのけたたましい音

「キーッ! キッキ―――――!!」

最後に「ドーン、ズドーン、ドン」鈍く低い衝撃音、

直後「ガシャーン、ガシャガシャーン」ガラスの割れる音

次に一瞬、時間が止まったような静寂。



宙を切りさくような、梅美の悲鳴が、榊の耳の奥でこだま

榊は耳にこだましている梅美の声に引き寄せられた。

無意識に走り出し教会通りを抜け、青梅街道の車道に躍り出た。

梅美はタクシーにはね飛ばされて十メートル先の車道の真ん中で

躰をくの字に横たわっていた。



「ウメミ!!」榊は叫んだ。 

頭と腹部からおおびただしい流血。

タクシーは、歩道を突っ切りパン屋のショウウインドウのガラスに

鼻先から突っ込んでいた。

榊は梅美に恐る恐る近づくと梅美の耳の側で

「ウメミ――――!!」大声で名前を呼んだ。

閉じていた瞳が薄く開いた。3D睫毛は震えている。



「あんたが……………逃げるから、あ・た・し………………」

最後の気力で榊を責めた。

梅美はゴホッ、ゴホッと、妙な咳をすると大量の血を吐いた。

榊は、そのまま腰が砕け崩れ落ちた。頭が凍り付いた。


救急車に乗った。

病院の長いすに座り頭を垂れていた。

看護師がICUから出てきた。梅美の学生証を持っている。

「お兄さん?? ですか?」聴かれた。

「通りがかりの者です」応えた。

「親族の方に連絡出来ますか?」



「いいえ、駄目だったんですか?」聴いた。

看護師は深く頷いた。

「名刺お持ちですか?」

榊は上着のポケットから名刺入れを出し一枚渡した。

「後で、連絡させていただくかもしれません」

榊は、頷くと、「今日は、もう……」と聴いた。

「はい……」看護師は一つ礼をしてICUに消えた。

のろのろと立ち上がると、病院を後にした。





梅美と名乗るレインボーネイルの女は、

本名を藤堂 梅美とうどう・うめみといい、

榊に話した藤本 梅美ふじもと・うめみは偽名だった。

ゴルフコンペのパーテイ会場で

社長(藤堂 尊)の隣で榊に魅入っていた女だった。

榊は、知る由もなかった。



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