18話 泥酔無双
榊は部長と別れた後 一人で飲み直した。
地元のスナックを二軒ほどハシゴした。
覚悟はしていたが、面と向かって申し渡された人事異動の内示。
更に香坂の尋問まがいの聴取は、榊が蓋をしたはずの「レイボーネイルの女」
の件だった。
女は確かに藤本梅美と名乗った。あの女が社長の娘のはずがない……。
二軒目のスナックで今回の不祥事の発端となった薬師寺に鬱憤を
ぶちまけたくなった。
榊の酒で濁った頭の中は、怖いもの無しの無双状態だ。
おぼつか無い指先で薬師寺の携帯ナンバーをプッシュした。
電話がつながった。
薬師寺が何か喋り始めた。
榊は薬師寺の喋りを遮る様に鬱憤をぶちまけていた。
「もしもし 薬師寺か? ……俺はあんたに言いたい事が有る。
良く聞けよ……大体どうして俺の鞄から……その……あれだ……
あの手帳を盗むわけ……? 訊いている!
そのお陰で大変な事が起こっている! おい! 訊いているか……?
あんたの要求は全部呑んだわけだからな……!
まだなんか文句あるか……! 後からもう一つとか言い出すなよ!
解かったか! これで全部終りだ!」
相手がそもそも、薬師寺だったのかさえも覚えていない。
いきなり脈絡の無い乱暴な言葉をぶつけた一方的な電話だった。
いくらか気持ちが晴れるのかと思ったが、微塵も晴れずに、胸の中に
シコリとして沈殿した。
興奮したことで酔いが更に回った。
そもそも酔っ払って怒鳴り散らした言葉など一晩寝れば忘れる。
人間の脳は都合良く出来ている。
自分に都合のいい無茶な言い訳をした。
榊は怒鳴り散らした喉にビールを一気に流し込んだ。
口から溢れたビールが上着とネクタイを濡らした。
店を追い出され塩を撒かれた。
気がつくと自宅への見慣れた風景が回転していた。




