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16話  人事異動

 

 四月二十一日メルクス本社 


 榊は出社すると、いつもの様にメールをチエックした。

 幾つかのメールに混じって、薬師寺からのメールを見つけた。

 昨日届けた書類の件だろうと、見当をつけ、開いて見ると、


「例の物は閉店後、約束の金の振込みを確認したら郵送で返却する。念書の話は

金の振込み確認後の話としてくれ」

 取り付く暇が無い無味乾燥メールだが、とにかく薬師寺が書類を受け取った事が

確認できた。

 無味乾燥メールにコメントを付けて部長に転送した。

 まだ解決ではないが、四月末に薬師寺の店は閉店する。

 その後に裏帳簿が返ってくる。

 一応の目処が立ったが、不祥事を引き起こした自分の落ち度を、小早川さんが、

自らの命を投げ出しあがなった。

 

 誰にどの様に謝罪をすれば許されるのか? 

 榊は、それすらも解らずにいる。

 喉に刺さった棘が、溶けて無くなった訳では無い。





 昼一番で二之宮部長とSV榊は、香坂役員秘書からの連絡で社長室に呼ばれた。

 社長は、デスクに座ったままで香坂役員が話しを切り出した。

 「メールの内容は確認したが念書の件を軽く扱われては困る」

 「再度調整してくれ!」

 力ずくで命令口調だ。

 「はい……解かりました」

 榊は応えた。

 「これで、先が見えてきた……」

 社長が香坂に向って呟いた。

 「はい」

 香坂は社長の脇に立っていた。

 「―― で、二人には本社から他の営業所への定期異動を、お願いすることに

なった」

 香坂が二人に向って事務的に言った。

 「社長も了解している」

 前置きをすると、つづけて

 「具体的には、五月末。この件の解決が条件だ。今後この件が解決できない

状況となった場合は、より厳しい人事処置を云い渡すことになるが、

そうならないよう細心の注意を払って欲しい」

 威圧的な口調で言放った。

「部長・榊君何か有るかな?」

 静かな口調で二人に向って、だめを押した。

 「…………」

 二人は反論の言葉が出ずに半ば了承の意を示した。

 「じゃあ……以上だ!」

 香坂が幕を切った。

 二人は社長室を出ようとしていた。

 「ああそうだ。榊君は三十分後に私の役員室に来てくれ」

 榊の背中にいった。

 「わかりました」

 榊は何かを訝る眼になったが、振り返り頭を下げた。



 三十分後、榊は役員のデスクの前に立っていた。

 「社長の娘さんが交通事故で亡くなられた事を君は知っているか?」

 質問は単刀直入だ。

 榊は、香坂の質問が藪から棒で戸惑った。

 「いいえ、知りませんが……。交通事故ですか?」

 交通事故と訊いて、胸がざわめいた。

 「四年前の十月だ。事故に遭ったのは荻窪だ」

 「四年前ですか?」榊はオウム返した。

 未だ結婚する前か? 

 ふっと、あの女の事が頭を過ぎったが、そんなはずは無い。

 確か名前は藤本梅美と名乗った。

 そのはずだ。

 「もう一度聴くが、君は社長の娘に一度も逢った事が無いのか?」

 「ええ、一度も逢っていませんが……」

 平坦に応えた。

 「そうか、君は当時荻窪に棲んでいなかったか?」

 聴かれて、

 まるで刑事から尋問されている様だった。

 先程の異動宣告の件も気持ちの上で燻っていた。

 その上、刑事気取りの尋問か? 

 「ええ、荻窪駅から十分ほどのところに……」応えた。

 胸糞が悪くなった。

 「本当に交通事故の件は知らないのか?」

 口調が威圧的だ。榊は思った。

 「ええ、知りません」

 語気を強めた。

 どうせ異動させられるのだ。

 逆らう事に抵抗はない。

 「そうか……?」

 香坂が榊の眼をガン見した。

 榊は眉間に皺を立て鋭く見返した。



 香坂は、奈良銀次の情報が全てで関係者には一切会っていない。

 これ以上突っ込むことが出来なかったのだろう。

 榊が部屋の扉を閉めるのと同時に、香坂は受話器を取った。

 人一倍プライドの高い香坂が、最後まで追い込みを掛けられずに、

引き下がった格好になった。

 香坂は、我慢がならなかったはずだ。

 調査を依頼している銀次に社長の娘の交通事故死について、再度聞き込みの

依頼をした。

 「そうだ! 誰か見ていなかったか? 出来れば事故の一部始終を見ていた人は

いなかったか? 当たってくれ。あの事故現場の前には、いろんな店が沢山あった

な。その辺を重点的に頼む!」



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