12話 厳命
四月十七日十九時 神楽坂・「玖魯葉亭」
榊は二之宮部長から呼出を受けた。
約束の時間に「玖魯葉亭」に着いた。
着くと女将に案内された。座卓には、料理が並んでいた。
「お連れ様は少々遅れるそうです。先程連絡がありました」
「ああ、そうですか」
「何を、お飲みになりますか?」
「いやー、まだいいです。部長が来てからで」
「先に飲み物を出しておくようにと、連絡を受けていますので」
「ああ、そうなのですか? それではビールで」
今日は、何の話なのか?
榊は裏帳簿の件が今日の話になるだろうと思った。
小早川さんが自殺して、まだいくらも日がたっていない。
仕事の面では影響は無いが……?
二之宮部長は三十分程、遅れてきた。
眼つきがキツイ。
座るやいなや、理由も言わずに、いきなりビールを煽った。
一息つくと
「薬師寺は、その後何か云ってきたか?」
乱暴な詰問調だ。
「いえ、気味が悪いくらい静かですが」
「そう…… で、 スーパー出店の件はどこまで話したの?」
「スーパー出店の情報が入っているが、まだ出店決定までの確認が取れていない。全
社を上げて確認中と」
「ああ、そう……。宙ぶらりんにして有るのだ?」
「はい、拙いですか?」
「もう、時間的猶予は無い! きちんとした情報を与え、うちの裏帳簿を至急
回収しろ! と、社長からの厳命だ!」
社長からの引導を容赦の無い口調で言い放った。
「至急ですか?」
「何度云わせる!」
眼が尖った。
「はい!」
「人一人死んでいるのだ! しかも社長の姻戚に当たる人間だ!」
「…………」榊に返す言葉はなかった。
「あの店は、速やかに畳め!」二之宮は語彙を荒げた。
「畳むには、手順が?」
「手順も何も考えるな!」
まるで答えになっていない。
単に感情に流されている。
ここに来る前、社長か香坂にかなり絞られた感を榊は感じた。
「あの店は、会社にとって今や大きな脅威になっている。社長はとても心配
している」
「はい」
榊は、裏帳簿と伝票を取り戻す手段をいくつか考えていたが、取り返す
ことより、店をどの様に畳むか?
その事の方が頭の中を覆っていた。
時間をかければどの様にでもなる。
部長の云う「速やかに畳め」が榊の気持ちを急かせた。
会話は、これが全てであった。
二之宮部長は、手酌で飲み始めた。
「もう 帰って良いよ」
この声がやけに優しく聞こえた。
不気味だった。
榊は、背中で襖を閉めた。




