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10話  有無を言わさぬ

 

 四月十五日 銀座クラブ「嬪」・二十一時、

 

 二之宮部長は、香坂に呼び出された。

 二之宮は毎年この時期に花粉症鼻炎を患う。

 今年も例外ではない。

 常にハンカチで鼻を拭っていた。

 優瑠瑠は挨拶に来ただけで後は、若いヘルプの女が二之宮の相手をした。

 ヘルプの女が甘ったるいバニラ系の香水をつけていた。

 その香水が、二之宮のアレルギー因子に反応した。

 二之宮の躰は、激しく拒否反応を示している。

 先程からひっきりなしにハンカチで鼻を拭う始末だ。


 イライラしているのは、時間になっても現われない香坂にも原因があったが、

アレルギー因子に反応した香水のキツイ匂いにもあった。

 香坂は一時間程遅れで社長と一緒に現われた。

 二之宮はびっくりした。

 社長が来るとは聞いていなかったので尚更である。


 VIPルームへ席が変わった。

 優瑠瑠がヘルプの女と変わった。

 酒が国産のウイスキーからブランデーとシャッパンに変えられた。


「いやー、悪いね……呼び出しておいて……」

 社長が見え透いた笑みを浮かべ軽口だ。

「いいえ」

 ぶっきらぼうに云った。

 一時間も遅れて、その薄笑いはなんだ! 云いたかった。

 二之宮も薄笑いで応じた。

「小早川君の葬儀の事でいろいろ有ってね……」

「はい……」

 社長が薄気味悪いほど饒舌だ。

 何かが吹っ切れたように歯切れが良かった。

「社内の様子はどうかね?」

「多少動揺してはいますが、今のところ業務に差し障りはありません」

「そうか」

 二之宮は、社長との会話で緊張した。

 鼻汁は止まっていた。

「現在、小早川君の仕事は誰が引き継いでいるのかな?」

「私が処理しています」

「ああ、そうなの。後釜を考えないと拙いね」

 ん…… !? 何故そんなに気を遣う? 

 二之宮には見えた。

 下心がスケスケだ! 

 平坦に応えた。

「――はい」すると香坂が言下に

「社長、そう急がなくとも、暫らくは二之宮君が兼任でいいでしょう」

 有無を云わせない押しの強さを感じた。

 社長も肯きながら

「そうだね、暫らく二之宮君、頼むよ」

 異様に口調が優しい……?

 社長も香坂も小早川が自殺した当日の社長室での事については一切話題に

 しなかった。

 二之宮には叱責の限度を遙かに超えた人格批判に踏み込んで、更に人格否定の

様に聞こえた。

 それが小早川を追い詰めた一因になっている。

 今日は、その事も多少は触れられると思っていたが、話に出なかった。

 社長が手洗いに立つと優瑠瑠も一緒に席を立った。


 香坂が顔を寄せて来た。声を潜めた。

「二之宮君、例の裏帳簿を奴から大至急回収してくれ、社長が大変心配している」

 苛ついた口調だ。

「は、はい」

 二之宮は自然に頭が下がった。

「二之宮君、頭をさげられても、らちが明かない。それより今の件、頼むよ! 

大至急だ!」

 棘のある口調で覆い被せてきた。

 気まずい沈黙が二人の間に漂った。

 二之宮はブラデーグラスを取ると一気に飲み干した。

 香坂の刺々しい台詞を払拭したかった。

「フーッ」と、故意わざと大きく息を吐いた。

「大至急、回収します」二之宮は半ば自棄になっていた。


 この時、社長が戻った。

 香坂が社長を見て大きく頷いた。

「二之宮部長、頼むよ!」

 掛けてきた言葉に侮蔑の臭いがした。

 肩をポンと一つ叩かれた。

 ダメ押しの肩叩きだった。

「部長! 今日はもういいよ!」

 香坂にしては、気持ちの悪いほど優しい言葉だ。


 ヘルプの女が差し出すコートをひったくるようにクラブ「嬪」を出た。

 二之宮の胸に屈辱感が鬱積した。


 社長は、二之宮が扉の向こうに消えると

「彼の家庭と、あっちは、どうなっている?」

 社長がいきなり話題を振った。

「少し洗いましょうか?」

「そうだな。知らないより知っていたほうが良いだろう」

「解かりました。明日早速手配しておきます」

「頼むよ!」



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