9話 惜別の言葉
小早川瑛介自殺の翌日・四月十五日
生駒恭子のポストに白い封書が届いていた。
恭子は、エントランスホールの郵便ポストの蓋を細めに開け、ポストの中を
覗いた。
投げ込まれた数枚のチラシに混じって白い封書が見えた。
胸騒ぎがした。
恐る恐る手を差し入れ、指先でその白い封書を取り出した。
差出人は、小早川瑛介だ…… !?
恭子は、瑛介からの封書を慌ててバッグに仕舞った。
胸の鼓動が喉から溢れて来そうだ。
バッグを抱きしめ自宅に転がる様に帰った。
瑛介と一緒に過ごしたソファーに座り、胸に押し込めていた乾いた空気を
吐き出した。
バックから差出人・小早川瑛介の白い封書取り出すと、日付を見た。
自殺当日の消印が見える。
瑛介は、この封書を投函して、もしかしたら――――。
震える手で静かに封を切った。
まるで宝物を取り出すように丁寧に取り出したのは、キッチリと折り
たたんだ真白い便箋だ。
恭子は、便箋に認められている瑛介独特の角張った文字に眼を
這わせた。
生駒恭子様
恭子が、この手紙を読む時は、僕は少し遠い所へ旅立った後だろう。
もう―――― 逢えない。
恭子と一緒に過ごした時間が、一番楽しかった。
もし生まれ替われたら又、恭子に逢いたい。
必ず…… 逢える!
旅立ちの置き土産に、裏帳簿の真相をと思ったが、
ぼくには、そこまでの勇気が無い。
許してくれ。
旅先で恭子からの風の頼りを楽しみにしているよ
それでは、また……。
小早川 瑛介
恭子は何度も何度も瑛介の文字を追った。
便箋に自筆で書かれた死出の旅立ちに残した惜別の言葉が記されていた。
恭子は泣き崩れ、泣き暮れた。
瑛介の居なくなった寂しさが胸を塞いだ。
それを思うと又、涙が止め処もなく溢れる。
誕生日の薔薇の花も嬉しかった。
でも、形有る物で瑛介から贈られた物は無かった。
それがとても辛い。
せめて、大切に出来る形のある物が欲しかった。
誕生日を二人で祝った日から、一週間経っていた。
恭子は、つい昨日の様な錯覚を覚えた。




