8話 衝撃が奔る
四月十四日 メルクス本社・社長室
藤堂社長に妻の小夜子から一報が入ったのは、午前十一時を廻っていた。
秘書・生駒恭子は社長から呼ばれ社長室に入ると
「小早川君が自宅の浴室で自殺したようだ。今、妻から連絡が有った。関係の
ある者だけに取り急ぎ一報してくれ!」
社長の声は、細かく震え、とても早口だった。
「ああ、それから、死因などは、まだ判らないとしてくれ。それから通夜・葬儀は
未定だ」
「え……!! 小早川さんが自殺……ですか?」
思わず聞き返した。
間違いで有って欲しかった。
「そうだ……」社長は断言した。
「まさか……?」
言葉に出した事で何かがぷっつりと切れた。
意識が遠のいた。
足から力が失せ、上体が揺れた。
社長はその様子を見て咄嗟に恭子に歩み寄り身体を支えた。
「何か知っているのかね?」
恭子の眼に尋ねた。
「いえ……」
声が掠れた。
被りを振るのが精一杯だ。
「じゃあ 頼むよ!」
「わりました」
弱々しく応えた。
社長室を出た。
足が縺れ一向に前に進めない。
何とかデスクに辿り着いた。
恭子は震える手でダイヤルし関係者に連絡した。
瑛介が自殺……? なぜ?
頭を過ぎったのが昨日の社長室での出来事だ。
公園で会った時の瑛介は、人が違ったように異様に落ち込んでいた。
もう少し何かしてあげられなかったのか?
あの時もう少し引き留めて、話を聴いてやっていればと……。
私の掌を振り切り逃れるように走って消えた。
そのシーンが、頭の中を激しく駆け巡った。
何故……?
不祥事の責任を自らの命を持って償ったのか……?
恭子には、その不祥事が何なのか?
それすらが、今は霧の中だ。
瑛介が今は云えないと……。説明を拒んだ裏帳簿とは?
恭子の思念は唐突に訪れた瑛介の死を頑なに嚥下することを拒んでいた。
嚥下した瞬間から喪失感に襲われ濁流に翻弄される。
容赦の無い喪失感が……。




