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6話  昏い眼差し


 小早川は所属部署に戻らず、一階まで降り近くの公園のベンチで行き交う人々を

魂の失せた眼で見ていた。

 眼には映っていたが、何も見ていなかった。

 携帯電話に着信。

 タッチスクリーンに「恭子」が映し出されていた。

 小早川は躊躇った。

 今、恭子とは会いたくなかった。

 気持ちとは別に小早川の指は自ら意志が有るかの様に応答のサインをタッチして

いた。


「瑛介さん? 恭子です」

「やあ……」声は暗く沈んだ。

「今どこにいるの?」

「うん 近くの公園だよ」

「一人なの?」

「ああ、一人だ」

「どこの公園 この前お昼一緒に食べたところ?」

「そうだよ」

「今直ぐ行くから待っていて、いい?」

「ああ、解かった」

 瑛介はベンチに座り虚ろな目で人ごみを見ていた。

 恭子が小走りで公園に来た。


「瑛介さん、大丈夫?」呼びかけられた。

 恭子は、瑛介の眼を見た。

 精気の全く無い瞳が頼りなさげに揺れていた。

「ああ 大丈夫だよ」乾いた声が口先から出た。

 恭子は、瑛介の血の通った魂を取り戻したかったのだろう。

 瑛介を立ち上がらせた。

「瑛介さん、ちょっと歩きながら話そう」

「いいよ」二人は、手を繋いで暫らく何も言わず歩いた。

 瑛介は恭子の掌のぬくもりに、何かに救われた思いがした。

 少し元気が出てきたようだ。

 恭子は立ち止まると躊躇いがちに口を開いた。

「瑛介さん、私今日の社長室の話を全部知っているのよ!」

「え――――? どうして?」

 恭子はバックからICレコーダーを出して瑛介に見せた。

「観葉植物の植木鉢にセットして置いたの……」

「ということは、全部知ってしまった?」 

「でも、ちょっと理解できなかったところが有るの? 裏帳簿がどうのって瑛介さ

 ん、云っていたでしょ?」

「恭子―――― それは今の僕には答えられない。申し訳ない。でも、それが今回

のトラブルの原因であることは確かだが、今はこれ位しかいえない」

 説明出来ない事が申し訳なかった。

「いずれ教えてくれるわね?」

「ああ、いずれね」

「香坂役員から、かなりきついお叱りが――――」

「香坂さんのあの言葉が、僕には一番きついところだ」

「瑛介さん! へこたれないで! 約束して!」

 恭子の願うような眼が覗き込んだ。

「その約束は今の僕には難しい」

 応えたが虚しさが、恭子への呵責になった。

「恭子 今日はもう帰る」


 恭子の顔をまともに見られないまま、言葉が迸った。

 輝きを失った瑛介の昏い眼差しは、最後まで恭子の目線と合う事を拒み続けた。

 瑛介は折れて傷付いた内面を悟られたくは無かった。

 表情は押し殺した。

 悔恨と挫折感だけが腹の底に鬱積し、瑛介の心の闇が密かに這い上がって来てい

た事を瑛介自身も気付いていない。


 瑛介は恭子の握り返した掌を振り切って走り出していた。

 みるみる遠ざかる瑛介を恭子は瞬きもせずに視ていた。

 瞳から頬に溢れた泪粒にLEDの青い光が映っていた。



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