2話 思惑
二之宮部長は、昨日小早川から聞いた事情を香坂役員に報告した。
「銀行は、UFX銀行の駅前支店でいいのかな……?」
軽侮の目を二之宮に投げた。
「そう報告を受けていますが……?」
二之宮は、いまさら何故銀行なのか? 理解しかねた。
契約はすでに済んだと説明したはずだが……。
香坂はデスクの引き出しから名簿のような冊子を出し、しきりに頁を
繰っている。
「おお……居た! 居た! 藤掛か……?」そう云うと、
右手で受話器を持っていた。
「ああ……支店長の藤掛君いるかな? ――――香坂です。やあ、やあ 暫らく
だね。いつから、そちらの店に―――― ああ、そう、ちょっと 相談が
有るんだけどね。――――そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、明日午後一番
時間ある? 良かった。じゃ、その時宜しく」
香坂は、電話を切ると
「部長 明日UFX銀行確認してくるよ」
「すみません 宜しくお願いします」
「もう、部長も君の部下もこの件では動かないでくれ」
香坂は諫める口調で云うと、立ち上がり窓の傍までゆっくり歩み寄り、
腕を組み眼下に見える街の喧騒を見下ろした。
「もう良いよ……!」
振り向きもせずに無味乾燥の一言を云い放った。
二之宮は深く頭を下げていた。
その姿が窓のガラスに反射して香坂の目の端に映し出されていた。
香坂は、暫らくそうして眼下の喧騒に視線は送っていたが、目つきが
次第に険しくなっていった。
組んでいた腕を下ろし、ズボンのポケットに両手を収めるとしきりに
部屋の中を行き来し始めた。と、ピタッと止まった。
そのまま社長室に向かった。
秘書の生駒恭子の前を大股で通り過ぎた。
ノックもせずに、いきなり社長室の扉を開けて入っていった。
生駒恭子は何事が起きたのか皆目見当が着かず固唾を呑んだ。
香坂役員がいきなり社長室に飛び込んでいったのを初めて見た。
恭子は、社長室の扉を凝視した。
香坂が、社長室に勢いよく入って、ほんの二・三分で社長室の扉が開いた。
恭子には目もくれず、来た時と同じく大股で秘書室を出て行った。
恭子はあっけに取られ、椅子から立ち上がることも出来ず目だけが香坂を
追っていた。




