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15話  ふところ刀

   

翌日(三月十九日) 財務担当役員室 

 二之宮が裏帳簿紛失の報告にきた。

 香坂は、口頭で説明を受けた。

 二之宮からの報告を、驚きの表情一つ見せず冷静に事の顛末を訊いた。

 香坂は罵倒したい気持ちを押さえ込んだ。



 財務担当役員  香坂 慎一(五十二歳)

 広い額とぐっと結ばれた唇には頑なな意志が秘められている。

 身長185Cmと長身だ。

 一見混血風の浅黒く彫りが深い風貌。

 ジムに通い、贅肉のない肉体を維持している。


 趣味は葉山に係留しているクルーザーでのトローリングだ。

 週末は時間があれば必ず外洋へ繰り出す。

 金の掛かる趣味の為、いくら裏金があっても足りない。



 香坂は、顔色一つ変えずに淡々と報告する二之宮の管理能力を疑った。

 非は自分に無い、と言いたげな報告だ。

 あの裏帳簿は当社の恥部だ。

 紛失など許さない。

「時系列を詳細に知りたい」

 香坂は威圧的な態度で指示を出した。


 今回のトラブルは、一見優しそうに見えるが、一つ間違えると重大な

トラブルに発展する。

 そのように百戦錬磨の「トラブル・シューター」である香坂の嗅覚が

訴えていた。


 香坂は社業のトラブル。

 中でもダーテイなトラブルについての収拾役を社長から仰せ付かっていた。

 社長の「ふところ刀」なのだ。

 いかがわしい株主から法外な値段で株の買い取を迫られる等の半ば脅迫のような

要求を処理し、業界紙記者のでっち上げ記事を力で押さえ込み、加盟店の客との

トラブルを示談処理等々。数えればきりが無い。

 中には犯罪と見まがう処理をせざるを得なかった案件も片手に余る。

 更に、社長個人のプライベートなトラブル処理も重要な仕事だ。


 香坂はそのような修羅場を幾つも潜り抜けて来た。

 腹は、これ以上無いと云う位に据わっている。


 先日も社長から一人娘・梅美さんの交通事故死について調査依頼を

受けていた。

 香坂は二之宮部長が役員室から出て行くと直ぐに電話を取った。

「――― そうだ、その店のオーナー、名前は薬師寺という。交友関係と周辺を

洗ってくれ…… 一週間で頼むよ……。 ああ! それから、先日頼んだ

交通事故死の件は、何か判ったかな? ―――― そう? 忙しい所悪いが頼む

よ!」

 トラブル処理に使っている人間に連絡を入れた。




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