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第一話

 不可解な事件が起きた。捜査の資料とにらめっこして、頭をかかえる。

「井戸センパーイ。コーヒーいります?」

 行き詰まっていて進展がないから暇らしい。後輩の田島が気の抜けた声で聞いてくる。

「こまめに入れてくれるのはありがたいけど、さすがに七杯目はもういらないかな」

「やることなくて暇なんですもん」

 すっかり冷めたコーヒーをすすって、もう一度資料を見る。

 事件の現場は山奥の廃屋。吉田さん一家は父、母、息子の三人でピクニックに出かけていた。

 しかし、お弁当を広げて談笑している間に、いつのまにか息子の隆くんが姿を消してしまう。両親は慌てて隆くんを探し、現場である廃屋にたどり着いた。

 その家は、いつからあるのか地元の人も把握していないような古い日本家屋だ。その家の土蔵のすぐそばに、隆くんはいた。

 子供ならギリギリ通れるくらいの小窓から、隆くんは中を覗き込んでいた。

 両親がどうしたのかと聞くと、隆くんは「助けてあげて。早くしないと怪物に食べられちゃう」と言った。

 不審に思って中を覗くと、蔵の中には大量の人骨がうず高く積み上がり、その中に錯乱状態の成人男性がいたのだという。

 見つかった骨のうちのいくつかは、捜索願いが出ている行方不明者のものと一致しているが、破損しているものも多く、全部を特定するのは無理かもしれない。

 発見された男性の錯乱はかなりひどく、精神状態が不安定で、まともな会話が成り立つ状態ではないので、事情を聞くことはできない。彼がどんな目に遭ったのかは、まだわからない。警察病院で治療をしつつ、話せるようになったら事情を聞く予定だが、いつになるかはわからない。

「怪物ってなんなんでしょうね。骨の山は、その怪物ってやつの食べかす、ってことなんでしょうか?」

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。現時点ではどうとも言えないなあ」

「見つかった男性も、発見が遅れれば骨になってたかもしれませんね」

 もう何度も見たものだけど、もう一度資料に目を落とす。

「問題は二つ。人骨の山を作った犯人はどこの誰で、どこへ行ったのかということ。それから、被害者の男性はどうやって蔵の中へ入った、または連れ込まれたのかということ」

 蔵の出入り口は固く閉ざされていて、開けた形跡はない。それどころか、かつて出入り口だったらしい箇所は、漆喰で塗り固められている。小窓以外に出入りできるような場所もなく、大人の男性が蔵へ入るのは不可能だ。

 いわゆる、密室の現場である。ドラマや小説では腐る程見かけるが、自分が担当するとなると頭が痛い。

「発見者の子の言うことが確かなら、犯人は怪物、ってことなんでしょうね。なんかすごいパワーで男性を神隠し的に蔵の中へさらったとか?」

「うーん、本当にそうだったら警察の手には負えないなあ。お手上げだ」

 コーヒーを飲み干して、カップをテーブルに置く。

「田島、そろそろ約束の時間だ。出かけよう」

「はいっす。隆くん一家のところに行くんですよね」

 ひとまず、詳しい話は当事者に聞かないとわからない。わからないことは、教えてもらいに行こう。


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