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夢送電車

作者: 黒兎 亞俐崇

見慣れた電車じゃない。


席の手摺に着いた灰皿にタバコを押し当ててる男の人。


スカーフを頭に巻いた女性。


紐で背中におぶわれた赤ちゃん。


天井から吊らされた扇風機がガクガクとつっかえながら車内に風を送っていた。


私は手に風呂敷包みを握り、車内を歩いていた。


タバコを吸ってない人の席で、赤ちゃんも子どもも嫌だった。


小さな身体で腰から曲がった老婆の隣が空いていた。


周りは大人でタバコの煙もそこは届いておらず、ほっとして席に腰かけた。


しばらく電車に揺られると窓の外に海が見えるようになった。


電車はガタガタとよく揺れて、レールの擦れるキーっという不快な音がしていた。


子どもが隣の車両から駆けてきた。


後ろから母親が歩いて追いかけてきた。


嫌だな、近くに座らないで欲しいなぁとぼんやり眺めていたら。


ピカッと辺り一面が光に包まれたと思ったら、その母親のいた車両が消えた。


電車の揺れも、レールの軋む音も一瞬で止み、子どもの声も聞こえないどころか、布ずれの音さえもしない無音の世界になってしまった。


ジリリリリと駅に着いたと合図の音に、横で背中を丸めていた老婆がすくっと立ち上がった。


今なに駅だろうかと確かめようとしたが、看板が見当たらず、どうやら終点のようで乗客が皆降りていく。


慌てて席を立つと電車から降りて辺りを見回す。


真っ白な鉱山の中にある駅のようで、辺りに目ぼしい建物はなかった。


皆同じ方向へ進んでいくので自分もその波に乗った。


しかし急に不安に思って引き換えそうかと後ろを向くと、同じように考えた人が列から出て駅の方へと駆け出していた。


私は立ち止まってその人を見ていた。


するとその人を追いかけていく人………のようなものがいた。


人に見えたが人ではないそれは、全身をペンキで塗られたように真っ白で手足が妙に長く素早かった。


あっという間に追い付くと、長い手でその人を払い退けたかと思ったら、その人は何メートルもの遠くにはね飛ばされると地面に叩き付けられビクビクと身体を震わせた。


その白い人のようなものは、ビクビク痙攣した人の足を掴むと、まるで子どもが木の枝を地面に叩きつけて遊ぶように、何度も振り上げては叩きつけて、その人が動かなくなるとズルズルと引きずりあるきだした。


それがこちらに気づくのではないかと怖くなり、また前を向いてあるきだした。


するとやはり途中で列から逃げ出そうとする人が現れて、今度は背後から白い人のようなものがスッスッスッと足音も立てずに恐ろしい早さで追いかけて行った。


ギャア!という悲鳴をあげながら人が宙に投げ出されていく。


周りの人はそんなことに見向きもせず、無表情で前を向いて歩いていた。


しかし、そんな人たちの中に恐怖に顔を歪ませている人がチラホラいることに気がついた。


同じだ!わたしと同じように感じてる人がいる!


無性にその人とこの気持ちを共有したくて、人波を抜いながその人を目指して歩いた。


すると白い人のようなものが同じように人波をスルスル抜いていくと、その人の背後から不自然に首だけをその人の前に伸ばすと顔を覗きこんだ。


ヒィィッという悲鳴をあげたその人がどうなったかは見ていない。


恐がったりしても気づかれるのだと前を向いて、無表情に見えるように歩いた。


しばらく歩いていると民家が一軒だけあった。


家の横には公衆電話があった。


そして列の先にはまた駅があり、電車が何両も停車していて、行列がその電車に呑み込まれるように入っていっていた。


何故だか本能的にあの電車に乗っては行けないと告げていた。


気になるのは民家。


扉には鍵が掛かっているのか分からない。


列は民家の前を進んでいる、サッと抜けたら見つからずに助かるんじゃないか。


駆け出した瞬間、自分の前にも駆け出した人に気づいた。


あっと思った時は遅く、戻るに戻れなかったのは後ろからアレが来ている気配がしたから。


前を走っているのは女の人だった。


あれ、あの人、わたし知ってる。


そう、友だちだと思った。


その子は民家の扉のノブを掴んでガチャガチャと回していた。


鍵が掛かっている!


ハッと民家の横の公衆電話を見た。


わたしも直感で思った正解は「公衆電話」だ!


彼女がそちらへ向かおうとした瞬間、凄い勢いで後ろから白いアレがわたしの横を追い抜いて彼女の背後に回った。


今がチャンスだと、生き残りたい!ごめんなさい!と心で謝りながら公衆電話まで全速力で駆けた。


受話器を持ち、どこにかければいいんだと思ったら受話器から声がした。


誰だったのかは思い出せない。


受話器から聞こえた声が自分を呼んでいた。


その声が聞こえた瞬間、パッと目を開けるとそこは見慣れた自分の部屋だった。


独り暮らしのアパートの一室。


あの女の人を友だちと思ったのに、自分の友だちの中に彼女はいなかった。


悪い夢だと思うのに、自分を追い抜いて行った時に見てしまった白い人のようなものの顔をはっきり覚えていた。


人のような顔の形はしていたけれど、上下が逆さまになった目、鼻は窪んでいて、口は縫い付けられたようにひっついていた。


あれは何だったのか。


起きてテレビを付けると今日が何の日か気づく。


八月六日。


ただの夢か、それともあの日あったことなのか。







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― 新着の感想 ―
[良い点] とても不思議な雰囲気が漂っている作品ですね。 主人公が空想の世界なのか現実なのかわからず、戸惑っている様子が良くわかり良かったです。 [一言] ラストの一文で抽象化された地獄であると感じま…
2020/08/14 16:39 退会済み
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