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初めてのポーション作り

今回から場面切り替えの部分が分かるよう記号を入れてみました


 レシピ本をテーブルの上に開いて、手順を再度確認する。

 材料はケイミラ草、レザン、酒精(アルコール)、水。前の三つは薬草店から買ってきた。水は女将に言って桶にもらってきている。

 これから作るのはもっとも基本的なポーションだ。

 円筒形のガラス容器の中に水を三百メルリトロン注ぎ入れた。

 この容器はいわゆる蒸留器というもので、一番下に水や溶媒を入れる。その上に穴の開いた薄い蓋を落とし、薬草を入れて火にかける。

 薬草を入れる部分のてっぺんにはガラス管が外に向かって伸びている。そのガラス管から蒸気で抽出された薬効成分が液体になって出てくる、という仕組みだ。

 ケイミラ草を二十グロム計量して容器に入れ、ガラス管の口元にフラスコをセットする。三脚の上に蒸留器を載せてアルコールランプを下に据え付けた。部屋のロウソクの明かりを使ってアルコールランプに火をともす。

 水が沸騰をはじめ、水が蒸気になって立ち昇る。蓋に無数に開けられた穴を通って蒸気がケイミラ草を蒸し上げ、薬効成分を抽出する。

 ガラス管の中に水滴がつきはじめた。自然に冷やされたそれはガラス管を通って一滴、また一滴とビーカーの中に溜まっていく。

 と、文字で表現するのは簡単だがこの抽出時間は結構長い。待っているその間にもう一つの作業に取り掛かった。

 レザンを乳鉢に入れてごりごりとすりつぶす。葉っぱのケイミラ草と違い、レザンは実そのままでは薬効成分を抽出するのが難しいらしい。だから作るものによっては刻んだり、粉状にしたり、と様々な下処理が必要なのだ。

 今回のポーションの場合は粉状にしなければならない。それも細かければ細かいほど抽出がうまくいく。だから懇切丁寧にすりつぶした。

 粉状になったそれを酒精に入れてかき回しながら溶かし込んでいく。粉を入れた直後は濁っていたが、かき回していくにつれてどんどん無色透明になっていった。ある程度までかき回して粉を完全に溶かしたら、レザンの溶液の完成だ。

 その間にケイミラ草の蒸留は終わっていた。火を消して水の沸騰を止める。

 三百メルリトロンの水を沸騰させて得られたものは目測で半分ほど。かなり減っている。

 これで基本のポーションに必要な二種類の液剤が完成した。

 この二種類をそれぞれの比率で量り、順番通りに混ぜ合わせて最後にろ過すれば。

「完成!」

 出来上がった基本のポーション第一号を片手に、ミオは声を上げた。

 初めて作ったポーションはフラスコの中で薄青い、神秘的な光を放っている。比喩としてのそれではなく、本当にきらきらと輝いているのだ。

 しかし綺麗な色だなと見とれているのも束の間で、時間が経つにつれて光は弱くなり、やがてそれは濃く青い液体に変わったのだった。

 小瓶に詰めると出来上がったのはたった一本だけ。ケイミラ草の抽出液とレザンの溶液を合わせて四百メルリトロンくらいはあったはずだ。酒造の用語に天使の取り分という言葉があるが、それも真っ青の減り具合である。どこへ行ったのだろうか。

 とにもかくにも、初めてポーションを作ることができた。

 ただ、心配なこともある。

「これ、本当にポーションなのかな?」

 ミオの知っているポーションとはゲームに出てくる、HPを回復してくれる魔法の薬の事だ。レシピにも効能として怪我の回復を促すと記されていたから、多分そうだろう。

 それでも気になるので一応鑑定にかけてみる。


 ・ポーション

 最も基本的なポーション。軽度の切傷や火傷を回復を促す。

 品質:粗悪


「粗悪品!?」

 自分で作ったとはいえあまりの品質の悪さにミオは思わず叫んだ。


               * * *


「何で? 何で間違っていないのにこんなに品質が悪いんだろう?」

 夜が白々明ける頃、尽きた材料と粗悪品のポーションを前にミオは茫然と呟いた。



「おはよう! あら? 疲れた顔してどうしたんだい?」

 朝食を食べに階下へ降り、ミオを見た女将が心配そうにそう訊ねた。

 初めてポーションを作って早二日。その間食事の時間以外はずっと部屋にこもってレシピ本をこね回したり、前よりももっと慎重に、一から十までレシピに従ってポーションを作ったりしていた。ほとんど不眠不休に近いほど。

 だから自分でもひどい顔をしているんだろうな、というのは分かっている。

「おはようございます。ええ、ちょっと色々ありまして」

 ここに来てからすっかり定位置になったテーブルの椅子に腰を下ろし、食事を運んできてくれた女将に曖昧にミオは曖昧に笑いかけた。

「ここんところずっと部屋にこもりっぱなしだし、顔色はどんどん悪くなってるし、そろそろちゃんと休んだ方がいいよ。今日はご飯食べたらゆっくり寝て、気分転換に外を散歩してきたらどうだい?」

「はい……そうします。すみません、迷惑おかけしまして」

 材料が尽きたし、これ以上レシピを読み込んでも何の解決にもならないことはそろそろ自覚し始めていた。女将の言う通り、今日はいったん頭と気分を切り替えて休んだ方がいいだろう。

 いつも通りの食事を食べ、早々にミオは部屋へ戻った。ここ二日ほどは軽い睡眠しかとっていないベッドに潜り込み、目を閉じる。

 さて、これからどうしようか。

 お金はあとちょっとあるから材料を買いに行こうと思えばなんとかなるだろう。けれどこのまま買ってばかりいてはお金がどんどん無くなっていくのは目に見えている。だから、なるべく元手のかからない方法を考えなくてはならない。

 となると、外へ材料を探しに行くのが一番だ。

 幸いケイミラ草はここに来て一番最初に見つけたから探すのはそこまで困難ではないはずだ。レザンはどうだろう。ケイミラ草と同じように簡単に見つかるようなものだろうか。

 そもそもなぜレシピ通りに作って粗悪品なのだろう。材料も手順も間違ってはいないはずなのに。そう思ってレシピ本を熟読したのだが、解決策はどこにも見いだせなかった。

 そういえば薬草屋の店主は分からないことがあったら遠慮なく聞きにおいで、と言っていた。ミオが勉強中の身であることも知っている。

「休んだら聞きに行ってみようかな」

 自分一人で悩んでいるより、先人に知恵を乞うのが解決への一番の近道になりそうな気がする。

 そう思ったら少し気が楽になったような気がする。そのままミオは泥のような眠りの中に落ちていくのだった。


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