第五話荷物整理から昼休憩
「ここを右だったよな」
「左よ。…なんか昨日もこんな会話した気がするわね」
「気のせいだろ。お、あったぞ」
やっぱりでけーな。大きさも大陸一か。
「ここがサイゼリヤ国立魔道学校か」
「アウゼリア国立魔道学校よ。それは大衆食堂の名前じゃないの」
「そうそれ。いやー、でけーなー」
「そうね。大陸一を豪語するだけはあるわ」
「んじゃ、まず寮に行くか」
「ええ」
いい加減俺も楽になりたいしな。
「村にいた頃は一人部屋じゃなかったからなー。一人部屋になって嬉しいわ」
「あら、あんなに可愛い妹と一緒の部屋じゃなくなって悲しいんじゃないの?」
「まぁ、確かにそれはあるけど、でもまぁやっぱ自分の自由にできるって言うのは相当魅力的だよなー」
「…そうね」
納得したんだったらなんでさっきから俺の足を踏んづけてんの?
「お、着いたぞってか寮が四つもあるのか」
「そうね。…見た所、右が女子寮で左が男子寮みたいね」
なるほど、生徒数も結構いるのか。…いい加減止めてもらっていいですか?スタンピング。
「で、どうする。自分で持っていくか?」
「そうするわ」
「りょーかい。じゃあ十二時ぐらいに正門の前に集まるか」
「そうね。何か腹ごしらえをしてから校内散策と行きましょうか」
「あいよ。じゃーな」
「ええ、また」
よっと、俺の部屋は…十番。三階の角部屋じゃん。いいね。
「ふぅ。疲れた」
でも三階は上り下りがきついな。
「うわ。広いな」
この広さで一人部屋かー。村にいた頃はこの半分くらいの大きさで妹との二人部屋だったからなー。いやー、懐かしいわ。
「ベッドもでかいわ」
俺が二人横になっても余裕で入る大きさだなー。
「よし。荷物整理も終わったし、そろそろ行くか」
あいつを待たせると何言われるか分かんねーからな。って正門前に見覚えのある赤髪が見えるんですけど…。やっぱり荷物整理まだだったわ。
「遅いわ。私を待たせるなんて、死にたいの?」
「…やめろよ。テレポートで背後に移動するの」
「荷物整理終わったんでしょ?」
「まぁ、終わりましたけど」
何?俺の事観察してたの?
「とりあえず昼食食べに行きましょうか」
「そうだな。何食べたい?」
「そうね………。ガッツリ食べたい気分ね」
「じゃあ肉とかそこら辺にするか」
「そうね。魚はあんたでもう十分だから、肉がいいわね」
「まだ俺のサハギン設定続いてたんだ」
「むしろ魚はもう結構だわ」
「さいですか」
俺としては魚が食いたい気分だったんだが、まぁいいか。
「どうする?どっかに入るか?」
「そうね。ゆっくり座って食べましょうか」
「んじゃ、あの食堂にでも入るか」
まだ時間も早いから人も少ないだろーな。
「いいわね」
「んじゃ決定な。しつれーしまーす」
「失礼します」
「いらっしゃーい!」
おお、店内も綺麗だしいいとこ選んだな。
「何にする?」
「そうね…。一角牛の煮込みにしようかしら」
「美味そうだな。俺は焼き跳びトンビにしようかな」
「…何そのダジャレみたいな魔物は」
知らねーよ。この魔物を実際に作った神様に文句言ってくれよ。
「すいませーん。あの一角牛の煮込みと焼き跳びトンビを一つずつ」
「かしこまりましたー!」
ふぅ、店の雰囲気もいいし、料理が美味しかったらまたこようかな。
「注文が来るまで、午後の日程を決めようと思うのだけど」
「ん?ああ、いいんじゃないか?」
「学校を散策した後、冒険者ギルドで冒険者登録した後、どうしようかしら」
うーん。その時の時間にもよるなー。
「早めに終わったら簡単に終わる依頼を受けて、遅い時間に終わったら明日に回すって形でいいんじゃないか?」
「うーん。でも路銀が本当にギリギリなのよねぇ」
ん?路銀って結構な額渡されてたはずだけどな。
「今どんぐらいなんだ?」
「こんだけ」
銀貨がいち、にぃ、銅貨が、いち、にぃ、さん。え?金貨十枚あったはずなんですけど?
「え?金貨は?」
「だからどうするかが問題よねぇ」
え?なんで目を合わせてくれないんですか?ねぇ?質問に答えてくれよ。
「だから今日はこのまま冒険者ギルドに行こうと思うの」
「いや、それは構わないんだけど。え?なんでこんな事になってんの?」
「そこでいい依頼があったら受けましょう」
「ねぇ。聞いてる?今俺の目の前に今世紀最大の謎があるんですけど。ねぇ」
「うるさいわよ。今重要な話をしているの。邪魔しないで」
十枚あった金貨がごっそりなくなってる事も重要だと思うんですけど?
「お待たせしましたー。一角牛の煮込みと」
「あ、私です」
「はい、熱いので気を付けて食べて下さいね」
「分かりました」
「それから、焼き跳びトンビですね」
「自分です」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
うわ、美味そうだな。ザ・肉って感じだけど、昨日あんまり食べられなかったから丁度いいな。
「…美味そうね」
「少し交換するか?」
「そうね」
「じゃ、食べるぞ」
「ちょっと、何肉の部分食べようとしてるのよ。周りのソースでも舐めてなさい」
「それは交換とは言わないだろ」
何で、こいつが焼肉にありついて俺はソースをぺろぺろしてんだよ。
「食べるぞ」
「あ、ちょっと」
うん美味い。肉が柔らかくて、噛めば噛むほどソースが中から肉汁と一緒に溢れ出てくる。控えめに言って美味しいな。
「うっま」
「食べるわよ」
「どーぞ」
っておい、手に持って齧りつくなんて美少女にあるまじき行為だな。
「うん、美味しい」
油が唇について艶めかしい感じになってるな。ったく美少女って生き物は何でもプラスに変えるな。
「そんならよかったよ」
「あ、これじゃあ間接キスになっちゃうわね」
「あー、まぁ俺は気にしないぞ」
「気にしなさい。むしろ気にし過ぎて死になさい」
「お前は俺にどうして欲しいんだ?」
「死になさい」
「そこが残っちゃうのかよ」
忘れてないですか?あなたが私を王都に誘ったんですよ?
「ここいいなー」
「そうね。たまにはここに外食しに来ましょうか」
「そーな」
それがいいわ。流石に毎日だと飽きそうだからな。
「うん、美味しかった」
「ちょっと待ってなさい」
「あー、デザートか何か頼むか?」
「レモンシャーベットにするわ」
「りょーかい。すいませーんレモンシャーベット二つ」
「かしこまりましたー!」
デザートも美味しかったらもう言う事ないわー。
「美味しかったわ」
「今度来る時は俺もそれ頼もうかなー」
「あなたにはオキアミがお似合いね」
「いつまでサハギンの設定は続くんですかね」
「死ぬまでね」
「おいおい」
しかし本当に饒舌になったな。村にいた頃は全然冗談を言わなかったし、自分から話しかけてくるなんてまずありえなかったから、今の姿を村の男衆が見たら血涙を流して俺を羨むだろーな。
「レモンシャーベットです!」
「ありがとうございます」
うわ、美味いわ。そもそも俺が柑橘系が好きだからかもしれんが、美味いな。
「うん、美味しい。やっぱり村から出てきてよかったわね」
この美味しさには思わずレイもにっこり。
「ロウは」
「ん?」
「村から出たこと、後悔してる?」
なんだ?急に。不安になったのか?
「後悔してる」
「……」
「訳ないだろ。楽しいよ」
「…何びっくりさせてんのよ。楽しいならすっと言いなさい」
「びっくりしたのか?」
「してないわよ」
え?自分で言ってたじゃないっすか。
「びっくりしたんじゃん」
「してないって言ってるでしょう?死にたいの?」
「え?さっき自分で墓穴掘ってたよね?」
「掘ってないわね。掘ってたとしたらその墓穴に入るのはあんたよ」
「幼馴染を殺そうとする癖を直した方がいいと思うんですけれども」
「癖じゃないわ。性質よ」
えー。本能的に殺そうとしちゃうのかよ。
「てか、聞きたかったんだけどさ」
「何よ」
「何で俺を選んだんだ?」
「……」
幼馴染ってだけなら、リエーラとかもいたのに。それに女同士の方が楽しい旅になるんじゃないか?
ここで、もしかして俺の事が好き?!とか言う勘違いはしない。一度それで痛い目を見てるからな。
「…あんたが」
「俺が?」
「私ぐらい強かったから、かしらね」
「なるほど」
…うーん、こいつらしいっちゃこいつらしいなー。自分より弱い奴とは旅したくないって事か。
「なるほどなるほど」
「…あんま調子に乗ってると殺すわよ」
「えー。そんな素振りは見せてなかったと思うんですけど」
確かに、こいつが俺を認めてるって事かーとは思ったけどそれでも一瞬ですよ?
「ほら、もう食べたしいくわよ」
あ、シャーベット食べるの忘れてた。
…もうシャーベット溶けちゃってるじゃねーか。