第十八話お願い事から能力強化
「今、なんて言った?」
「兄貴が自分の事を好きなるようにお願いしたんすよ!」
なんて事をしでかしてくれたんだ。と言うかどうしてそんなお願いをしたんだ。いや、別にお前の事を嫌ってた訳ではないんだがな?こう心の準備もクソもない感じじゃん?今の状況って?
まぁ、まだ今なら撤回できる。さぁさっさと撤回するんだ。ハリー!!アァップ!!
『…まぁ。いいだろう。願いを叶えてy』
「ちょっと待ったー!!」
「なんすか?いきなり」
「その願い、ちょっと待っただ」
『どうしてだ?お前はそのいささか小さい小娘に、お願い権を譲っただろう?』
それを議論する前にまず、お前の言動がおかし過ぎるだろ。主に言の方が。
まず、いささか小さい小娘ってなんだ?小さい二回言ってんじゃねーか。「頭が頭痛でいてぇ」と同じシステムになってんだよ。
後なんだ?お願い権って。いや、聞いた後しばらくしたら、「ああ。お願いをする権利の事か」って分かったんだが、俺の人生の中で一度も聞いた事ねーぞその権利。
「いや、まぁそうなんだけどな。流石に今の願いは看過できないって言うか」
『でも何もお願いが浮かばなかったから、そのいささか小さ過ぎる小娘に譲ったのだろう?もう譲渡し終わった後にその話を蒸し返すのはどうなんだ?』
いささか小さ過ぎる小娘って、どんだけ小さいんだよ。何、俺の舎弟って、でかめの精霊だったの?
それは置いといて、まぁ確かに譲ったのは俺だし、それを今更蒸し返すのは男としてどうなんだ?って言う思いも勿論ある。がしかし、その願いに俺が関係してくんなら話は別だろ。
「いや、そうね?確かに、その件を今更蒸し返すのは男としてどうなの?って意見もあるよ」
「そうっすよ。諦めて俺の事を好きになるっすよ」
お前はそれでいいのか?
と言うかお前散々俺の事、「兄貴兄貴兄貴兄貴」言ってるけど、ぜんっぜん俺に、兄貴に対する対応をした事ないよね?…まぁ兄貴に対する対応がどんな物なのか知らないんだけど。
『では、その願いでいいんだな?』
「いいっす!!」
「ちょっと待て、全然よくないぞ?!!」
『ではいくぞ!!』
俺の意見は?ねぇ?俺の意見は無視ですか?頑なに俺の方を見ようとしないんだけど。こいつ等。
『これで完了だ』
「やったー!!これで兄貴が遂に俺の事を!!」
「…あれ?別になんも変わってねーぞ」
『「え?」』
うん。こいつを見ても今まで通り、「小さい騒々しい奴」としか思わんが?
『バカな!我の魔法は確実に成功したはず!!』
「…兄貴!!今俺の事どう思ってるっすか?!!」
「ん?別に?絡みが少々うっとおしい小動物みたいな感じだが」
「うっとおしい…!絡みがうっとおしい…!!」
おい。お前がどう思ってるか聞いてきたんだろ?なんでそう落ち込んでるんだよ。
「うっとおしい……。兄貴が俺の事をうっとおしい……」
「おい、こんな森の真ん中で双子山座りをするんじゃねーよ。尻汚れんぞ?」
『どうなってるのだ?!!我の魔法が、ただの一般人に通用しないとは!!…貴様、前々から監視していたが、やはり魔王軍の手下か!!』
「お前はなんでだよ」
結論が飛躍し過ぎだろうが。
…でもなんでこいつの魔法が俺に効かなかったんだろ?いや、まぁ効かなくて良かったんだけど。
……ん?あれ?俺って【不変】ってスキルを持ってたよな?
…絶対これじゃん。と言うかなんで今の今まで忘れてたんだよ。さっき思い出してたらあんなに慌てる事もなかったんじゃ。
『じゃあ何故我の魔法が効かん?!!そんな事は一度たりともなかったぞ!!!』
「多分俺のスキルが原因だ」
『貴様のスキルが原因?!!どう言う事だ?!!』
と言うかこいつ怒り過ぎだろ。何をそんなに怒ってるんだよ。
「俺は【不変】って言うスキルを持ってるんだよ」
『【不変】。…なるほど。それで我の魔法を受けても状態が変わらなかったと言う事なのか』
「そー言う事だ」
「卑怯っすよ!!!そのスキル!!…と言うかさっきから言おうと思ってたんすけど。そのスキルって、そう言う使い方できたんすね?」
「そう言う使い方ってどう言う事だ?」
俺としては別に普通に使ってるだけなんだが。
「神獣様は病気にかかってたじゃないっすか?」
『ああ。と言っても、もう治ったがな』
「それがおかしいって言ってるんすよ!!」
うお。急に熱くなんなよ。びっくりするから。
「いいっすか!!さっきまで神獣様は病気にかかってたんすよ」
「ああ」
「その上から【不変】を使ったら、病気の状態から不変になっちゃうんじゃないっすか?」
…あー。なるほど。言いたいことはだいたい分かった。
「あー。これは口頭での説明が面倒だな。おい、精霊王」
「…何かしら?」
「蝋燭か何かを持ってないか?」
「持ってないわよそんな物」
「松明だったらあるっすけど」
「んじゃそれでいいや」
なんでこいつ松明なんか持ってんだ?日帰りの探索だって言っただろ?
「んじゃ松明に火を点けてくれ」
「無理っす。自分土魔法以外使えないんで」
「…ほら」
おお。お前も無詠唱で魔法が使えたのか。
「んじゃ、お前の疑問を解くぞ」
「お願いするっす」
「…で、何をするつもりなのかしら?」
「今から俺がこれに【不変】を使う」
【不変】。
「すると、この松明は消えなくなる。ちょっと消してみてくれ」
「…水球」
「おお!水の中でも燃えてるっす!!」
『…これがお前のスキルなのか』
「そ。【不変】って言って。対象を不変にするスキルだ」
「でもこれじゃ、疑問が疑問のままっすよ!」
「んで、こっからが本題。っと、つめてーな」
水球の中って、思ったよりつめてーのな。夏にいい能力だなー。
「この松明の不変をとく。そしてもう一度【不変】をかける」
『…火が消えたぞ』
「スキル失敗ね」
「ほえー。兄貴でも失敗するんすね」
「いや、これでスキル成功だ」
『「「は?」」』
いや、「何言ってんだこいつ」みたいな顔でこっちを見てくんじゃねーよ。
ほんとに成功したんだって。別に失敗したのが恥ずかしくてそれを隠すために言った訳じゃねーよ。むしろ予定通りだ。
「俺が狙ってた通りだ。お前が言ってんのもこう言う事だろ?」
「そうっすけど。どうやったんすか?」
『そうだな。火が点いた松明に、【不変】をかけたら消えたと言うのは』
「…理解に苦しむわね」
「まぁ、今から説明するから。ちょっと待っとけ」
あれ。これって結局口で説明する事になってね?…まぁいいか。
「さっきの【不変】は、火の点いた松明にかけた物だ」
「それは言われるまでもなく分かってるわよ」
「俺達が知りたいのは、なんで火が消えたのかって事っす」
「んじゃ、言葉を直すと、一回目は火が点いた状態の松明に【不変】をかけた物だ」
『…つまり二回目は火の点いていない松明に対してかけた物だ。と?』
「そう言う事だな」
なんとか分かってくれたか。
「…なるほど。どの状態を【不変】の対象するかで変わってくるのね」
「ああ」
「えーと。じゃあ、兄貴の【不変】は、事後でも使えるって事っすか?」
「ん?ああ。そう言う事になるなー」
流石に死人を生き返らせる事はできねーけどな。
「すっげー!!じゃあマジで無敵じゃないっすか!!!」
「そうでもねーよ」
『…これは我でも倒せんかも知れんな』
「人間界にはとんでもない化け物がいるのね」
って、そうじゃねーんだ。俺達がこの森に来た理由を危うく忘れる所だったぜ。
「んじゃ、依頼達成って事で帰りたいんだが」
『まぁ待て。こっちにこい』
「ん?なんだ?」
しっかし、器用に羽を使う鳥だな。こいって言う時も羽の先だけクイッて曲げてたしな。
『お前に我の加護をやろう』
「…さっきのお詫びと言うかなんと言うか。んっんん、私も加護をあげるわ」
「あ、マジで?」
神獣からの加護ってなんか凄そうだな。…あ、別に精霊王からの加護が凄くなさそうって思ってる訳じゃないぞ。
『お前、名は何と言う?』
「ロウだ」
「ロウ。あなたに精霊王ベルニカから加護をあげましょう。これであなたは精霊に好かれやすくなったわ」
『神獣フェトルからも、ロウに加護を与えよう。これでお前は樹魔法を使えるようになったぞ』
おお!ありがたいけどなんて言うか、こう、過剰戦力じゃない?
今よりも強くなったら、結構不味いと思うんだけど。
『これで、加護を与え終わった。ベルニカ、この二人を森に返してあげなさい』
「かしこまりました神獣様。それでは」
『うむ。またな』
「んじゃ、また」
「それじゃっす」
いやー。まさか王都に来て三日目で神獣に会うとはなー。
まぁそんな事よりも……今って、何時だ?




