第十五話感知から謎の場所
「やっと着いたな」
「そっすねー。えーっと、ここから東にだいぶ歩いた所に三匹ゴブリンがいるっすね」
「んじゃ、行くか」
「あ、ちょっと待って下さい」
ん?なんだ?やっぱ何かしらの負担があるのか?
「何?どした?」
「俺の感知に何か変な反応があるんすよ」
「変な反応?それって説明できるか?」
「説明っすか?…分かったっす。あのー、なんて言うんすかね?こう、何かいる感覚があるんすよね。あー、なんて言うんすかね?」
「うん?それは普通の事じゃないのか?」
「ちょっと黙っててくれないっすか?」
「ごめんなさい」
待って。その対応の仕方ってうざい上司とかにやる奴だよね?俺そう言うの結構傷付くよ?
…って言うかお前って自分の事「舎弟舎弟」言う割には俺に対して全然リスペクトがないよね?
「うーん。なんて表現したらいいんすかね?」
「いや、俺は分からんよ。そのスキルを持っている奴にしか分からない特有の感覚なんじゃないの?」
「そうなんすかね?こうなんて言うか、…隠されてる感じがするんすよね」
「隠されてる?」
「そうっす」
隠されてるって事は、そこに何かがあるって事。さらにはそれを隠したい奴がいるって事になるな。
「あー。お前の感知ってさ」
「なんすか?」
「どんな感じで伝わってくるの?」
「…どう言う事っすか?」
「あー、だから、頭の中に地図みたいな物が浮かび上がるのか、波紋みたいなものが広がってくのかって事」
「あーなるほどっす。…どっちかって言うと、自分は地図みたいな感じっすね。でその地図の中に点があってどこに何があるって言うのが書き込まれてるって感じっす」
あー、なるほど。…それは結構便利なスキルだな。
「ゴブリンはどう言う感じ?」
「赤い点っすね。基本的に敵は赤い点で表されてて、通行人とかは青色、知り合いが緑色っす」
「俺は?」
「金色っすね」
それはどう言う状態なの?お前は俺になんの感情を抱いてんの?
「で?お前が違和感を抱いてる奴はどうなの?」
「ポイントが透明なんすよね」
「透明?」
「そうっす。だから多分何かあるんすけど、隠されてるんすよ」
はーん?なるほど。
「ま、行ってみない事には分からんわな」
「そーっすね。んじゃ行きますか」
「そーな。んじゃ案内してくれや」
「あ!それ、兄貴っぽいっすね」
「いや、知らんがな」
別に俺一度たりとも兄貴感を意識して何かを言った事はないんだがな。
「でも意外だったなー」
「何がっすか?」
「王都の近くに森があるって事が」
「そうっすか?」
「王都の近くって開発されつくしてるかなって思ってたから、こんなに深い森があるなんて思ってなかったんだよ」
「あー。そう言えばっすけど兄貴って村から出たばっかりだったっすね」
「ん?そうだけど?」
王都の近くに森がある理由って、王都に住んでる奴なら誰でも知ってるみたいな事なのか?
って事は俺田舎者オーラ剥き出しじゃん。
ちょっとー。先言っといてよそう言うのはさー。準備足りてないんじゃないのー?
「実はこの森には神獣様が住んでるらしいんすよ。だから開発しようとしたら神獣様の怒りを買うって事でそのまま森があるんすよ」
「はーん」
「あ、兄貴。信じてないっすね?」
「いや、信じてない訳じゃねーよ。森の奥の方から結構不味い気配がしてるからな」
「…え?それってどう言う事っすか」
なんだろうな?昨日俺がテレポートされた辺りからずっと何か感じてはいるんだよなー。別に危害を加える感じではないから放っておいたんだが。
あいつは特に何も感じてなかったっぽいんだけど、でも俺の勘違いって感じじゃないんだよなー。
…うーん。なんで俺なんだろうなー?どっちかって言うとあいつの方が余程危険人物なんだけどなー?
だってあいつすぐ人燃やそうとするし、人の事下僕扱いするし、…そう考えると、あいつどっかの王女か何かかって位自分勝手なんだけど。
「ずっと何かに監視されてるみたいな感じがすんだよなー」
「…え?え?それって何時からっすか?」
「森に入った瞬間から」
「なんで言ってくれないんすか?!!今すぐ逃げるっすよ!!!」
「まぁまぁ。そう焦んじゃねーよ」
「逆になんでそんなに落ち着いてられるんすか?!!!」
「大丈夫だって、多分危害は加えてこねーよ」
「多分ってなんなんすか?!!」
「あー、絶対な。絶対危害加えてこねーよ」
「なんでそう言い切れるんすか?!!」
いや、言い切らせたのはお前なんだけどな?
「実は昨日もこの森に入ってんだよ」
「…はいはい」
「で、その時から監視されてる感じはしてたんだよね」
「はいはい」
「俺に危害を加えたいんだったら、その時に加えてると思うんだよなー。でもまぁこれも全部俺の推測でしかないけどな」
「…なるほど。じゃあ俺は安心してもいいんすか?」
「まぁなー。いざと言う時は俺が守ってやるよ」
「…兄貴、…兄貴!!」
なんだよ、いきなりくっついてくんなよ暑苦しいなー。
「で、なんでこの森の中に神獣がいんだよ?」
「あ、元々ここは神獣の住処で、初代国王がその神獣にここに国を建てたいって言ったらしいんすよ」
おいおい、随分とアクティブな国王だな。…まぁその時はまだ国王じゃなかったんだけどな。
「そしたらっすね。神獣が交換条件として、この森の魔物を定期的に駆除してほしいってお願いしたらしいんすよ」
「なるほど」
王様は神獣の近くに国作れてラッキー、神獣は住処から魔物がいなくなってラッキーって感じなのか。
「でも、近頃神獣を討伐しようって言う動きがあるんすよ」
「ん?なんで?」
「神獣の毛皮を使って最高級の服を作りたいって噂っす」
え?バカなの?何なの?食糧不足とか資源不足とかじゃなくて、「豪華な服作りたいからちょっと神獣狩るわー」って、マジで何なの?
初代国王涙目だよ?「俺が一生懸命交渉してこの地に国作る許可得たのに、ちょっと、え?子孫何してくれちゃってんの?」みたいになってるよ?多分。
「それで、近年高ランクの冒険者を集めてるって噂っすね。自分もその口っす」
「あっそーなん?」
「はい。だからこの森も来た事ないんすよねー。今までは向こうの都市の時のお金でやり繰りしてたんで」
って事はお前の方が王都にいる期間がちょっと長い位じゃん。
「んで、討伐隊はいつ位に結成されんの?」
「王子様の十五歳の誕生日の一週間前っすね。で、誕生日当日にその服を着て、パレードするらしいっす」
「で具体的にいつ?」
「今から丁度二週間後っす」
めんどくせー。いや、マジでめんどくせー。もう滅んじまえよそんな国。
あ、でも滅んだら王都に来た目的がなくなっちまうのか。うわ、増々めんどくせーじゃん。
あいつにこの事伝えたら絶対「そう。じゃあ王様殺しましょうか」って言うぜ。これ絶対。だってあいつめっちゃ貴族に恨みあるからな。
「…もうそのバカ王の話はいいよ。んで、結構歩いたけど、その謎の気配はどこにあんの?」
「あ、もうそこっす」
「そこってどこだよ」
「目の前にありますよ」
「目の前?」
何もない開けた空間があるだけなんだが。
…待てよ。でもこんな深い森の中に開けた空間がポツンとあるっておかしくねーか?
「おかしいっすね?俺のスキルが不調なんすかね?」
「…いや、多分なんかあるぞ」
「え?でも何もないっすよ?」
うーん。何もないって事はないと思うんだけどなー。
「よっと」
ん?なんかブニュってする感覚があったんだが。
「人間だ~。久しぶりの人間だ~」
「精霊王様の所に行かなくちゃ!!」
「うわー!!でっかいー!!」
「…想像以上」
…なんだこの小さい奴ら。まさか精霊って奴か?
すげーな。あいつのスキル。精霊の隠れ家まで探る事ができんのか。
「ちょっと!兄貴!どこ行ったんすか?!!…ここどこっすか?ってかこいつら誰っすか?」
「あ、新しい奴だ~」
「さっきより小さいー!!」
「…ちょっと大きめの精霊?」
「誰がミニマムサイズだコラー!!」
早速背の小ささいじられてんじゃねーか。
「ふむ、懐かしいな。この地に人が来るとは。何百年ぶりだろうか」
「「「(…)精霊王様(~)(ー!!)」」」
「…誰だお前?」
「精霊王だ」
「精霊王?」
「精霊王っすか?!!」
なんとなく響きで精霊の王様って事は分かるけど。ってか精霊に王様とかいるんだ。基本的にフリーダムみたいなもんと思ってたわ。
…ってか「お前誰だ?」って言ってんのに「精霊王だ」ってなんだよ。…いやまぁいいけどよ。
「え?!!兄貴、精霊王知らないんすか?!!」
「何が?え?知ってるけど?精霊王でしょ?」
「それは知らない奴の反応っすよね?」
「まぁ、それは置いといて」
「いや、…えー?」
これ以上掘り下げられると、俺の知識不足がどんどん露見していく事になるから、とりあえずここらで話を逸らしとくか。
…絶対逸らせてないと思うけど、まぁ大丈夫だ。
「…それで、そなた等は何用でここに来た?」
「え?特に用はないけど?」
「…は?」
だってさー、「何かあんぞー」って事でここに来ただけだから、特に何するとかはないなー。
そもそもここに来る予定もなかったからな。
「え?え?特に用もなくこんな所に来たの?」
「うん?そうだけど?」
「え?力を授けて欲しいとかそう言う事もなく?」
「なく」
「精霊の契約を結びたいとかそう言う事もなく?」
「なく」
「魔王の出現も?」
「なく。ってかしつこいなお前」
「…えー?何それー?精霊王困っちゃうんですけどー?」
おお。急にキャラが変わったな?それが本来の性格なのか?
後、一人称精霊王って何?どんな一人称なの?それ。
「えー?だってこんな見つけにくい所をわざわざ探したって事はそう言う事じゃーん」
「知らねーよ。ここに来たのだって偶然だからなー」
「そうっすね。別に深い意図はないっすね」
「…えー?いや、えー?そりゃないってー。え?ほんとに何もないの?」
「ねーもんはねーよ」
「…えー?そりゃないってー。え?だって精霊王ここに来るまで結構準備したよ?「久しぶりの人間だから、威厳のある感じにしよう!!」って意気込んでたよ?「でもあんまり威厳ある感じにすると絡み辛くなったりしないかな?」って悩んだりしたよ?」
いや、お前の内情は知らんよ。ってか内心駄々洩れだな?
そのセリフを口走ってしまってる時点で、もはや威厳もクソもなくなってるんだけど。
「精霊王様ー、どうしたの~?」
「…おかしくなっちゃった?」
「精霊王がおかしくなっちゃった!!」
「おかしくなっちゃったー!!!」
「「「「(…せーのっ)おかしくなっちゃった(~)(ー(!!))」」」」
「ちょっと黙ってて!!」
「「「「(…)わー、怒った(~)(ー(!!))」」」」
「待ちなさい!!」
…これ、俺達はどうしてたらいいんだ?




