第十一話舎弟誕生から本来の目的
「兄貴ぃ!!!!どこ行くんすか?!!!」
…うっぜぇ。さっきの喧嘩の後、俺の後に勝手に付いてきやがって。兄貴兄貴兄貴兄貴うるせーんだよ。
「…宿だ」
「兄貴の宿っすか!!!」
なんでこいつこんなテンション高いんだよ。言葉の終わりに必ず!が付いてるんだけど。何なの?一端落ち着けよ。
と言うかさ。
「なんで俺に付いて来るんだよ?」
「俺は兄貴の弟子っすから!!!!兄貴の後を追うのは当たり前っすよ!!!」
どこの世界の常識だよ。この世界にはそれは当たり前じゃない、と言うか軽いストーカーだからな?
「兄貴!!!!宿に何しにいくんすか?!!!!」
「着替えを取りに行くんだよ」
「え?!!!でも返り血も何も浴びてないじゃないですか?!!!」
知ってる?人は別に返り血を隠すためだけに着替えないよ?
後、君には俺がどう見えてるのかな?
てか何?何なの?スキル【大声】でも持ってんの?なんでそんなでかい声で喋んの?病気?病気なの?
「うるせーよ」
「あ、すっすみません!!!」
謝ってるけど、なんで怒られてるか分かってねーじゃねーか。うるせーって言ったのになんで返答に!が付いてんだよ。
「ふぅ、今日は疲れる日だなぁ」
「疲れてるんすか?!!肩でも揉みましょうか?!!」
…王都に来てから疲れてしかいない気がするが、俺の気のせいか?
って言うかお前もその原因の一人なんだからね?ちゃんとそこ理解してる?
「いやー、しっかし兄貴がこんなに強いなんて!!見た目からは想像もできませんよ!!」
「まぁ、俺の見た目は地味だからなー」
「でも地味な見た目に油断してると、兄貴の最強パンチが飛んでくる訳ですね?!!!」
いや、そんなもんそうそう飛んでこないからね?そんな喧嘩っ早い訳じゃないから。
ほんと、王都に来てから何かあるごとに喧嘩しかしてない気がするけど、村にいた頃はそんな事なかったから。
善良な一市民で通ってたから。これはほんと。ただあいつのせいで俺まで恐れられて節はあるけど、でも俺が原因じゃねーから。それはノーカンだから。
っと、宿屋に着いたか。
「ここが兄貴が泊まってる宿屋っすか!!俺も実はここに泊まってるんすよ!!!」
…知りたくなかった情報だ。って事はこいつがこれから先、俺達が宿屋を変えるか家に住むまで、ずっとこいつが付き纏ってくるって事じゃねーか。
「ふぅ。…でさっき聞いたけど、ブラックファングのボスがレイの所に向かったんだって?」
「そうですね!!でも、兄貴の相方も兄貴と同じぐらい強いんですよね?!!!」
同じぐらいって言うか、あいつは俺よりも強いけどな。対集団戦に冠しては他の追随を許さない程の強さを誇ってるし、まぁ喧嘩売ってきた奴全員燃やすか凍らすかして終わりだろ。
今回はあいつの近くに俺がいないから、元に戻してやる事もできないしなー。壊滅エンドはもう免れないなー。
「どうなっちゃいますかね?!!ボス達!!!」
「そーな。良くて強制コールドスリープ。悪くて焼却処分だなー」
「…焼却処分っすか」
あいつは敵だと思った奴には容赦ないからなー。それでも殺すまではいかないと思うけど。
っと俺の部屋に着いたんだが、…こいつを部屋に入れんのかよ。まぁしょうがないか。
「ここが兄貴の部屋っすか?!!一見普通っすね!!!」
「一見も何も、普通の部屋だからな」
「で、どこに死体を隠してるんすか?」
…お前の目には俺がどう言う風に映ってんの?
え?俺そんな凶悪犯みたいな顔してんの?
「死体なんか隠してねーよ」
「ほんとだ。隠してないっすね」
…ん?探す素振りどころか突っ立ってただけだったが、どうやって分かったんだ?
「ほんとだ」って言ったって事は死体がないって言う確信があるって事だが。
「お前って何かスキルとか持ってる?」
「持ってますよ?ただ、戦闘用じゃないんすよねー」
「どんなスキルか言えるか。いや別に言えなかったらいいんだが」
「兄貴だったら大丈夫っすよ?」
逆に怖えよ。その際限のない俺への信頼。
別に俺はそんなに凄い奴でもなんでもないからね?
「俺のスキルは【感知】って言うもので、俺から半径十メートルの範囲の物の情報を感知するスキルです」
なるほどなー。それで俺の部屋に死体が無い事が分かったのか。
って言うかストーカー向きのスキルだな。なんか怖くなってきたわ。
「そんじゃ、教えてくれたお礼に俺のスキルを教えるよ」
「え?!!いや、いいっすよ!!!」
「俺はな。何か貰ったら、そのお返しをしないと気が済まないんだよ」
「…そうっすか。じゃあどうぞ」
どっちにするかな。まぁ俺が多用する方でいいか。もう一つの方はちょっと使いづらいと言うか、使う場面が限られてると言うか。
「俺のスキルは【不変】。対象を不変の存在にする能力だ」
「対象を不変の存在に…っすか?」
「そーだ」
首を傾げてるけど、これ以上は説明のしようがないからなー。
まぁ、これは見てみないと分からないと思うから、ちょっと実演してみるか。
「そうだなー。…ちょっと俺を全力で殴ってみろ」
「え?…まさか兄貴にそんな趣味があるなんて」
「ちげーよ。【不変】スキルは実際に見てみないと分からねーだろーから、実演のためだよ」
「あ、そう言う事だったんすね。俺はてっきり兄貴が真正のドMなのかなって思ったんすけど」
ちげーよ。むしろ俺はSだ。…あいつに使役されてるから勘違いされやすいけどな。
「ちなみに俺はMっす」
「知らねーよ」
なんだその要らねー情報、王都に出てきて一番興味ない情報だったな。
「そんな事、どーでもいいから」
「んじゃ、遠慮なくいくっすよ」
「おう、来い」
「ウラアアアアアアア!!!!」
おっ、なかなかいいパンチだな。ドワーフってのは力が強い種族なのか?
と言うか俺がやらせたんだけど、うるせーな。
「よしどうだ?」
「どうだって言われても、ちょっとよく分かんないっす」
「そっかー」
うーん。まぁ確かに傍から見てると俺の皮膚が堅いのかスキルの影響なのか分からないからな。
「んー。どうするかな」
「別にいいんじゃないっすか?俺は兄貴のスキルがよく分かんなくても気にしないっすよ?」
「じゃあいっか」
んじゃ、さっさと銭湯に行く準備をするかー。
「ふぅ、これで準備完了だ」
「レインコートは持っていかなくても大丈夫なんすか?」
「なんでだ?」
今別に外雨降ってないだろ?
「返り血を浴びた時に、服がダメになっちゃうっすよ?」
「なんで俺が人を殺す前提なの?」
「逆に殺さないんすか?」
「どう言う意味?」
「そのまんまの意味ですけど?」
…客観的に見て、俺ってそんなサイコパス野郎なの?
「人は殺さねーよ」
「ほんとっすか?」
「俺の顔を見ろ。こんな地味な奴に人が殺せると思うか?」
「はい。むしろ地味な分人殺しだってバレづらいっすよね」
即答されると、俺でも普通に傷付くんですけど?
後、なんで「分かる分かる」みたいに頷いてんの?俺は一個も分かんないんだけど?
「とりあえず行くぞ」
「はい!!」
できるだけ早くこいつを何とかしないと。要らぬ誤解を周囲に与えてしまう可能性があるからな。
「で、どこに行くんすか?着替えを取りに行くって言ってましたけど」
「銭湯だ」
「戦闘っすか!!流石っすね!!兄貴!!」
銭湯のどこに流石要素があるんだ?身体を洗うだけだぞ?
「お前も来るのか?」
「え?!!いいんすか?!!兄貴の戦闘を見させてもらって?!!」
一緒に銭湯に行ってんのになんで見てるだけなんだよ。
「お前は俺の洗ってる所を見とけ」って、俺は鬼畜か?
「見るだけじゃなくて、お前も(風呂に)入れよ」
「俺も(兄貴の戦闘に)入ってもいいんすか?!!!」
「ダメ」って言う訳ないだろ。なんのために銭湯に行ってんだよ。
「当り前だろ?じゃなきゃ銭湯に行く意味ないだろ」
「…確かにそうっすね!!分かりました!!俺、付いて行きます!!!」
「ただ着替えを持って来いよ」
「わ、分かりました!!!…こりゃ相当派手にやるつもりだぜ……!」
ん?銭湯ってそんなテンション上がるもんなのか?まぁいいや。
「んじゃ、行くぞー」
「分かりました!!」
と言うかなんでこいつこんな緊張してんだ?ただ銭湯に行くだけだぞ?




