第十話再会から無双
「でスラッシュアックスがどうしたよ」
「ブラックファングだって言ってんだろーが!!!」
うるせーなー。スラッシュアックスもブラックファングも似たよーなもんじゃねーか。そんなに切れんじゃねーよ。スラッシュアックスだけに。
って言うかこんな夜中に街中で大声を出しやがって、近所迷惑なんだよ。
「あっそ。で、何の用なの?」
「俺達に楯突いた事を後悔させてやろうと思ってな!!!」
今日の朝絡んできた時に、俺に痛い目に遭わされた事覚えてねーのかよ。蛾にも劣ってるって言うのは本当だったのか。
「まだ懲りてねーのかよー」
「ふっふっふ。昼間の俺達とは違ってなぁ、今はアッシュさんを連れてんだよ!!!」
「…誰?」
「はぁあああああ?!!!アッシュさんはブラックファングのボスであるケース様の右腕的存在だぞ!!」
いや、そんなこと言われても、まずブラックファング自体知らなかったんだから知ってる訳ねーだろ。
いやほんとにマジで誰?
「てかボスじゃないんだ」
「なっ!!てめーアッシュさん舐めてんじゃねーぞ!!!」
「もういい。下がってろ」
おっと。雑魚を押しのけて出てきたのがアッシュって野郎か。声は結構高めだな。さて、どんな奴か……。
…身長が俺の半分しかねーように見えるんだが。幻覚なの?何?幻覚魔法の使い手なの?
「俺がアッシュだ。坊主、年下なのに舐めた真似してくれんじゃねーか」
「…え?お前がアッシュ?」
「そうだ。小さい用心棒とは俺の事よ」
小さい用心棒にしては小さ過ぎない?七~八歳にしか見えねーんだけど。しかも、その見た目で俺より年上なの?え?
「えっと。何の用なの?」
「ブラックファングに舐めた態度を取ったようだからよ。俺様が矯正してやろうと思ったのさ!!」
え?いや、え?マジでこいつがアッシュって野郎なの?同姓同名の迷子とかではなく?
「アッシュさんを見た目で判断したらいけねーよ。この人はドワーフ。力だってお前の倍はあるんだぜ?どうだ?ビビったか?」
いや、ある意味ビビってはいるけど。ドワーフかーなるほどー…とはなんないから。え?何?俺は今からこのガキにしか見えねーような奴と喧嘩すんの?
通りがかった人から見たら、俺マジで大人げなくない?変な噂が立ちそうで困るんだけど。
「何か言ってみろゴラァ!!」
「おっと」
「避けてんじゃねーよ!!!オラアアア!!!」
…こんなガキみたいな見た目してる割には、戦闘能力は高いな。
「おっす、おらアッシュ」って自己紹介してきそうな感じだ。髪型は尖がってないけどな。
…しっかしどうすっかねー。朝のようにするって訳にもいかねーしなー。ここからどうやってお帰りいただくかね。
「オラオラオラオラァ!!どーした?!!!さっきから防いでばっかじゃねーか!!!」
いや、こんな小さい子に手を上げるって俺は人でなしか?何?お前らの目には俺が人でなしに見えてんの?俺って鱗生えてる?
そんな事してるってあいつに知られたら「見た目だけじゃなく心も人ではなくなったのね」って言われるわ。
「おいおいおい、どーしたんだよ!!!昼間の威勢はよぉ!!!」
「アッシュさん相手に手も足も出てねーじゃねーか!!!」
手も足も出す訳にいかねーんだよ。むしろ引いてるまであるね。
はぁ。早く行かないと、あいつがなんて言うか分かんねーしな。…罵倒してくるって事だけは分かるが。
…ったくしょうがないな。ちょっと後始末に困るけど、やるしかないか。
俺を恨むんじゃねーぞ?恨むんだったら俺に喧嘩を売ってきたこいつらを恨むんだな。俺は売られた喧嘩を買っただけだ。
「オッラァアアア!!!!」
ドッゴオオオオン!!!!!
殴った場所を中心に半径五メートル位のクレーターができる。ふぅ。久々に思いっきり殴ったわ。
…え?いや別にアッシュは殴ってないよ。どんなに腹が立つ事をされたとしても、俺は子供、老人、女性は殴らないって決めてるんだよね。…まぁこいつが子供かどうかはさておいて、だから代わりに地面を殴った。
今、丁度人通りがなくてよかったー。俺がやってるってバレたら賠償金を求められるかもしれないからな。まぁ、恨むんだったら俺に喧嘩を売ってきたこいつらを恨んでくれよ。
…これで引いてくれなかったら本格的にどうしようかなー?
「なっ。あの女と同じでこいつも化け物かよ!!!」
「逃げろ!!逃げろー!!!」
良かったー。心配の必要はなかったみたいだなー。これでようやく宿に着替えを取りに行けるわー。
あいつと同じって所と化け物認定はちょっと撤回してほしいけど。
「…マジかよ」
「ん?」
あれ、まだ残ってたのかよ。
…しかも一番めんどい&小さい奴じゃん。なんだよー。他の奴が残ってたら、遠慮なくボコボコにできるのにー。
「…何、まだやんの?」
どーしよーかなー。手を上げる訳にはいかねーからなー。うーん。
…飴ちゃんやったら帰ったりしてくんねーかな。
「…すっげぇ」
「は?」
「すっげぇよ、あんた!!!」
え?何?ちょっと近づいて来ないでくれますか?あんまグイグイ迫って来る人、好きじゃないんで。いや、ほんとに。
「俺よりも力が強い奴なんて、この世に存在しないと思ってたぜ!!!」
それはちょっと世界を舐め過ぎじゃない?
いや、確かに今まで戦ったやつの中では(あいつを抜いたら)一番強かったよ?でもね、それでもお前より強い奴なんて結構いると思うよー。例えばガルフさんとかね。
「今のパンチ!!!ほんとに痺れたぜ!!!!」
やめて?この大惨事を作り出したのが俺だって言うのやめてね?いや、損害賠償とか払えないから。マジで。
後、近所迷惑だからね?やめてね?ほんと。変な噂とか立っちゃうかもしれないからね?
「決めた!!」
「…何を?」
「俺、兄貴の弟子になります!!!!!」
…はぁ?
◇
…あのまま行かせて良かったのかしら?何か重要な勘違いをさせたままな気がするのだけれど。
でも、「あんたなんか勘違いしてない?」ってわざわざ言うのも、ちょっと女神としてはどうかしらって思うのよね。
…うーん。あの場合は行かせて正解だった、と言うか行かせる他に選択肢がなかったと言う事にしておきましょう。
「うーん」
でもどうしようかしら、路銀問題。ゴブリン討伐で解決できたと思ったら、まさかまた別の問題が浮上してくるなんて思ってもみなかったわ。
「下僕に頼るのわねぇ」
女神としては下僕にお金をせびるのは別に構わないのだけれど、…お金の切れ目は縁の切れ目ってよく言うじゃない。別にそれを信じてるわけじゃないけど、でもお金の貸し借りはできるだけしたくないのよね。
それに、普通は女神がお金に困ってる下僕に手を差し伸べるものじゃない。なんで私が手を差し伸べられないといけないのよ。
「…やっぱり学校散策を明後日に延期しようかしら」
下僕に冒険者をやらせて、私は学校散策でもいいかなと思ったのだけれど、…アドリアとか言う年増ババアがあいつに絡んでくるかもしれないもの。
「うん。そうしようかしら」
やっぱり、あいつ一人に任せられないわね。女神である私がいないと、どうしようもない男なんだから。
…あいつもいい加減私の女神さに気付いてもいい頃なんだけど。こんな美少女の下僕って大金を積んででもやりたいと思うのが普通だと思うのだけれど。
「おい!」
「何かしら?」
あら、昨日の夜から今日の昼頃と、バカみたいに声をかけてきた。
「タップダンスだったかしら?」
「ブラックファングだ!!!」
タップダンスもブラックファングも別に変わらないでしょうに。どうせ私の掌の上で踊る事になるんだら。
…と言うか、ブラックファングって、少しダサくないかしら。黒い牙って、お歯黒じゃないの。
「で、そのギャグラップが何の用かしら」
「だからブラックファングだって言ってんだろ!!!」
「ブラックファングもギャグラップも、系統としては一緒みたいな物でしょう?」
どっちもギャグ枠じゃないの。と言うかもう何時だと思ってるのよ?時間を考えてからかかって来なさい。時計を買うお金もないのかしら?
「そんなもんと一緒にすんじゃねーよ!!!!」
「で何の用なのかしら?」
「おいおい、そんな強気なっていいのかよ」
むしろなんでそっちがそんなに強気なのかが分からないわね。昨日の夜、私に凍らされたのにも関わらず懲りずにかかってきて、…何か秘策でもあるのかしら?
「こっちにはなぁ、ケース様がいるんだよ!!!」
…誰かしら?聞いても分からないし、欠片たりとも興味もないわ。
「ふっふっふ、驚き過ぎて声も出ないようだなぁ!!!」
「…誰かしら?」
「なっ!!!ケース様も知らねーのか?!!!ケース様はなぁ、ブラックファングのボスなんだよ!!元A級冒険者なんだぞ!!」
なんだ。たかがA級風情が調子に乗ってるだけだったのね。期待して損したわ。
「S級じゃないのね」
「んだと!!!」
「やめとけ、女相手にみっともない」
…随分とまぁ偉そうに出てきたけど、こいつがケースって奴かしら?
「嬢ちゃん、悪い事は言わねぇ。今すぐ謝った方がいいぜ」
「ごめんなさい。私、用事があるのよね。それを済ませてからでいいなら、いくらでも相手になるわ」
今日は結構疲れたから、さっさと風呂に入りたいのよね。
「おい、あの地味男がどうなってもいいのか?」
「…どう言う意味かしら?」
「今、嬢ちゃんの相方は俺の右腕と会話してるだろう」
「脅しかしら?」
「そうだ。嬢ちゃんが俺の女になるってんなら、嬢ちゃんの相方を解放しよう」
…何、的外れな事言ってるのかしら。
それ、本気で言ってるんだとしら、本当に滑稽ね。
「言っておくけど」
「なんだ?」
「あいつは私よりも強いわ」
「…フハハハハハ!!!!!いいコンビ愛だな!!!俺はなぁ、そう言うのを見るとぶち壊してやりたくなるんだよ!!!」
自分の事を自分で屑って自己紹介するなんて、頭おかしいのかしら。
それに、あいつが私よりも強いって言うのは、嘘じゃないわよ。私ではあいつの敵になりえないからね。…まぁそれは人類全員含めてそうなんだけど。
「とりあえず、邪魔だからどきなさい」
「おいおい。この人数相手に、どうする気だい?お嬢ちゃん」
この人数って、たかが三十人じゃないの。
「凍りなさい」
ったく。私を脅したいなら、この千倍は用意しなさい?
じゃないと、今みたいに全部凍っておしまいよ。…一応、ボスっぽい奴だけ残しておいたけれど。
「なっ!!!俺の部下が一瞬で?!!!!」
「後はあんただけね」
「お、俺に手を出したら、お前のパートナーが大変な目に遭うぞ!!!!」
「無理よ。あんたみたいな雑魚が何人集まっても、あいつに傷一つ付ける事はできないわ」
あいつを傷付けたかったら、邪神でも用意する事ね。
「…糞があああああ!!!!!」
「凍りなさい」
ふぅ。こいつがボスって言ってたし、これでもう二度とこいつらに絡まれる事はないわね。
…あれ、そう言えば。
「…こいつらの名前って何だったかしら?」




