インストール
とえりあえず、ソフトをインストールしてみる。子どもの頃の遠足の前の日に似た感情を抱きながら流れていく画面を眺めている。
大学時代は、教師になりたくて勉強ばかりしていた。だからネットゲームはもちろん、「スレイヤーオンライン」というゲームがどんなものかまったく未知の領域だ。
教員時代に同じ職場の彼女がいたこともあったが、結局、友人とのどんな遊びにもなじめず、彼女とも「面白くない」と言われ別れた。そう、自分は面白くない人間なのだ。
ぼんやりと、今までの人生を回想してみると、仕事以外に取り立てて熱中したこともなく、なんとなく人生はこのまま終わるのだと思っていた。それのどこが悪いと楽しそうに言い聞かせていたのかもしれない。
そんな自分が唐突にゲームをしてみよう、しかも対人的な関わりもあるだろうオンラインゲームをチョイスしたことを意外に思う。人間関係が嫌で仕事を辞めたのに、人とのつながりを求めるような行為を選択したからだ。
今考えると、色々な遊びをおぼえておけば息抜きもできてこんな風にはならなかったのかな。そんなことを今更考えても後の祭りなのだが。
ディスプレイの画面がそれまでとは変わり、ゲームをどうやら始められるらしい。ネットで下調べをしてからプレイしようかとも思ったが、せっかく新しい事を始めようとしているのに無粋かなと思ってやめた。
ゲームを購入したお店の店員さんにもチュートリアルという操作説明があると聞いていたので、極力余計な知識は入れないようにした。
画面を進めていくと、まず自分の分身となるキャラクターを設定する必要があるらしい。複数の種族が並ぶが、初心者だし一番、平均的な能力を持ついわゆる「人間」を選ぶ。他にもエルフやドワーフなど並んでいたが、キャラクターの絵に違和感がなかったのも選んだ理由の一つだ。
年齢は少年、青年、成人の三種類から教師をしていた好奇心も働いたのか青年を選び、性別は男性にした。
次に職業。基本的に、現実での友達もあまりいないし、このゲームをやっている知り合いがいるわけでもない。だから、一人でプレイする時間が長いのかなと思ったので回復魔法を使えて攻撃力もある程度ある「聖戦士」を選択した。
聖戦士の特徴としては、闇属性の的に対して耐性を持ち、戦うときに相性がよいらしい。オーソドックスに剣や鎧、盾を装備できるらしい。
ここまで来るとゲームまであと一息、という感じもしてくるが、仕事をしないでゲームを始める日が自分に来ると思っていなかったのだが、そのあたりの感覚がぼんやりしている事に気がつく。
昼間から飲みに行くような開放感に近いのかなと思いながら、さっそくゲームのチュートリアルを始める。チュートリアルでは、主に戦い方やマップやダンジョンの探索の方法、これは必要ないかなと思いながらチャットの仕方まで、懇切丁寧に説明がされた。
子どもの頃にやったロールプレイングゲームに近いものを感じながらも、アイテムを複数集めて新しい装備やアイテムを作成するシステムは新鮮だった。お店でぱぱっと買えた方が便利だし、素材をお店へ持って行ってお金を払わされるらしいので、なんだかめんどくさい。
そんなこんなしているうちに、「スレイヤーオンライン」では始まりの街にあたるコニアの広場に自分のキャラクターがいた。ついに何かが始まるのだという高揚感と、今更ゲームなんかしてどうするのだろうという後悔が生まれる。
でも、なにか他にするわけでもないし、当分は就職活動もしたくない、というか病気を治してからかなと思ったので気にしないことにする。
店員さんいわく、「スレイヤーオンライン」は2年ほど前に発売されたソフトで、やりこんでいるプレイヤーもいれば、自分のように新しく始めるプレイヤーもいるらしい。
さてどうするか、と思っていると一人の男性キャラクターが話しかけてきた。