五年後
『過激派テロ組織である解放軍が昨夜、またしてもHu電池の製造工場を襲撃しました。これで解放軍による施設破壊は5件目であり、Hu電池の製造元であるエレクトロ社の代表取締役である志熊唯氏は政府に対し早急な対策が求めました。次は気になる週末のお天気です。ーーーーー』とある交番のテレビから今日のニュースが淡々とした口調でキャスターから伝えられる。テレビの前の制服を着た女性の警察官がテロのニュースに顔をしかめる。
「おーい滝崎、飯買って来たぞ」
遠くから今年でめでたく五十になる先輩警官に呼ばれ、先輩警官からコンビニの袋を感謝を述べてからもらう。
「またテロか?今度はここの近くだな。」
先輩警官が滝崎に鮭おにぎりを渡しながらしゃべりかけた。
「そうですね、この町には製造本社がありますし見廻りを強化しないとですね!西村先輩」
滝崎はやる気に満ちた声で答えた。
「見廻り強化してもなーこいつらどういうやつらなのか全然情報入ってこないし、第一調査も警察のテロ対策の人間しかしないから、首謀者4人の顔しか分からないんだよなー何で情報を隠すんだかもしかして何か後ろ暗いことがーーーー」
西村の話をさえぎって、滝崎が声を上げる。
「そんなものありません!義堂さんが捜査してくれてるんですから!」
西村は最初は驚いていたが、次第にニヤニヤした表情に変わった。
「そうだな、テロ対策には愛しの義堂さんがいるもんな~」
その言葉を聞いた滝崎は顔を真っ赤に染めて反論する。
「い・愛しのだなんて!違います!憧れではありますが決してそういうわけではなくてですね!」
アワアワと焦る滝崎の様子を見た西村は満足そうに時計を見ると午後一時を回っていた。
「そろそろ見回りに行くか」
そう言いながら腰を上げ食べ終わったものを交番のゴミ箱に放り込む。
「は・ハイ!」
元気な返事を言い西村の後に続く、エレクトロ社の代表取締役の志熊唯が記者会見を開いている様子を最後にテレビは消された。
自転車で見廻りいつも休憩に使う公園にたどり着くと、西村は「トイレ行ってくる」と言って公園に備え付けられているトイレに向かう。滝崎は公園のベンチに腰掛け夏真っ盛りな暑さで浮かんだ汗を手でぬぐいながら、様々な遊具で遊ぶ子供たちを見る。夏休みで昼間から元気遊ぶ子供たちの姿を見るのはとても微笑ましく、平和だと思えて好きだった。ふと気づくと公園の入り口近くにある木に子供たちが集まっているのが見えた。何があったのかと近寄り子供の一人に話しかける。
「どうしたの?」
「ボールが引っかかっちゃったから取ってもらってるの」
話しかけられた子供は最初は警戒したような顔だったが、滝崎が来ている制服を見て警察官だと分かると素直に答えた。子供の答えを聞き視線を上に向けるとそこには灰色のポロシャツと黒の短パンを着ていて帽子を目深にかぶる青年が木に登りボールに手を伸ばしていた。青年が手でボールをはじきボールを落とす。その時手を振った反動で帽子も一緒に落ちてきた。青年は「やべっ」という小さく呟いた。帽子から出てきた頭は天然パーマがかかっていた。ボールが落ちたことを確認した青年は木から飛び降りると帽子をかぶり直し子供たちのもとに向かった。子供たちが口々にお礼を言う。
「もう木に引っかけんなよ」
軽口を言いながら顔を上げた時、青年と滝崎の視線がぶつかった。滝崎は青年の顔を見た時、体が電撃が走ったかのように硬直した。その顔は義堂に見せてもらった手配書の顔とそっくりだった。青年は滝崎の着ている物が警察官の制服だと気づいた瞬間すぐに会釈をしてこの場を離れようとした。遠ざかろうとした青年の手をつかみ問いただす。
「あなた、解放軍ですね?署まで来て得もらえますか?」
抑揚のない低い声だった。青年は滝崎の手を乱暴に振りほどき逃げた。
「待て!」
滝崎と青年の追いかけっこが始まった。