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片思い片手間ヒーロー  作者: Joker
片思いのヒーロー
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 秘密と言うものは誰でも持っている。

 人生の内、誰しも一回は秘密を持つ。

 周りの人には言えず、人は秘密を隠すのに必死だ。

 人は秘密を隠すのに必死だ。

 そんな秘密を持つ少年がここにも一人居る。


「おい、純!」


「ん? どうしたよ」


「どうしたよじゃねーよ! 昨日は急に帰りやがって」


 学校の屋上、昼休みで少しばかり騒がしい校内から離れ、この少年、飯嶋純(いいじま じゅん)は昼寝をしていた。

 しかし、そんな静かな屋上に友人の奧里竜也(おくざとたつや)が勢いよくやってきた。

 竜也は寝っ転がる純を見下ろし、純はそんな竜也を下から見ていた。


「しょうがねーだろ? 急に用事ができたんだよ」


「お前最近いっつもそんな事言って帰るじゃねーかよ。置いていかれる俺の身にもなれってんだ!」


「あぁ、悪い悪い。それよりも次の授業って何だっけ?」


「もう少し申し訳なさそうにしろよ……それと次は古文だ」


 やれやれといった様子で、竜也は純の隣に座りため息を吐く。


「それよりも、昨日帰ったお詫びに、今日はゲーセン付き合えよ」


「またかよ……また格ゲーのランキング上げに行くのか?」


「当たり前だろ? 今日こそ俺がランキング一位に!」


「へいへい、まぁ暇だから良いけどよ」


 放課後の寄り道の算段をする二人。

 もうすぐお昼休みも終わると言う事で、純と竜也は屋上を後にし教室へと戻って行く。


「あ……姫島さん…」


 教室に戻る途中、純は一人の女生徒の事を目で追ってしまった。

 ウェーブがかった長い髪に、瞳はクリッと大きく、スタイルもほっそりしている。

 一言で言うなら、ゆるふわ系の天然少女と言った風貌の少女だ。


「おやおや~、純君何を見つめて居るんだ~い?」


 そんな純の姿を見て、竜也がニヤニヤしながら純にからかうように声を掛ける。


「今日も可愛いなぁ……」


「ダメだ、からかわれてる事に気がついてねぇ……」


 竜也の言葉など、全く耳にすら届いて居ない様子の純。

 そんな純の頭を叩き、竜也は純を現実に引き戻す。


「さっさと行くぞ!」


「イッテ! 叩かなくても良いだろう!」


「そうでもしないと、お前は気がつかないだろ? ほら、授業に遅れちまうぞ」


 そう言われて、純は竜也と共に教室へと急ぐ。

 見ての通り、純は先ほどの女子生徒、姫島弥生(ひめじまやよい)に恋をしている。

 もちろん一方的な片思いであり、純と弥生の関係は友人ですら無い、ただの同じ学校の同級生という関係だ。

 クラスも別で、接点なんて何もない。

 それ故に、純は未だに話しをしたこともなく、純の恋は片思いで止まっている。


「お前さ、ぶっちゃけ姫島の事好きだろ?」


「あぁ、正直愛してる」


「正直なのは良いが、気持ち悪いぞ?」


 授業も終わり、放課後になり、純と竜也は帰りの身支度をしながらそんな話しをしていた。 三月のはじめと言うこともあり、夕方でも暖かい。

 純と竜也は夕焼けに照らされた教室の中、家に帰宅しようと立ち上がる。


「なんで、アピールとかしに行かない訳? 多分だけど、お前の片思いって中学からだろ?」


「なんで知ってるんだ、お前まさかエスパーか!」


「はいはい、わかったわかった。見てればわかるっての、中学の…2年の頃からだったか? 姫島の方を良く見てたじゃねーか」


「まさか! バレて居たのか……」


「バレバレだよ。知らないのは、姫島さん位のもんだよ」


「な、なんて言うことだ……この世界のほとんどの人間がエスパーだったなんて……」


「どういう解釈をしたらそうなるんだよ……」


 アホな考えをする純に竜也は若干呆れながら、隣を歩く。


「大体、好きならなんでお近づきになろうとしないんだ? まずはそこからだろ?」


「竜也、簡単に言うけどそれって結構難易度高いぞ? 全くと言って良いほど知らない相手から、友達になってください! って、お前が言われたらどうする?」


「怖いから断る」


「それと一緒だ! 俺は友人になる口実を探しているんだよ」


 力説する純に竜也は再びため息を吐き、純に言う。


「それって、勇気がないだけだろ?」


「それの何が悪い、好きな子に話しかけるってだけでも心臓止まりそうな勢いなのに、そのうえお近づきになんて……俺の心臓は消滅するぞ?」


「大げさだっつの……」


 そんな話しをしている間に、二人はゲームセンターに到着した。

 竜也はいつものように、格闘ゲームの筐体の前に座り、純はその様子を後ろの席で見ている。


「あっ! クソ! この!!」


 純の事をすっかり忘れ、竜也はゲームに熱中する。

 純は終わるまでの間、時間つぶしにとスマホを弄り始める。

 スマホを弄りはじめて数分、目が少しつかれたので、スマホから目をそらす。

 すると、視線の脇にとある女子生徒を見つけた。


「あ……」


 そこに居たのは、純の思い人である弥生だった。

 なんでこんなところに? なんて思う純だったが、友達と一緒に来ているらしく、数人の女子生徒と笑いながらクレーンゲームをしていた。


「よっしゃぁ!! 5連勝!! 純、見たか? 俺の華麗な……ってどうした? そんな気持ちの悪い顔で」


「うるせぇ……ちょっと天使が居たんでな……」


「は? ……あぁ、姫島か…あいつらもゲーセンとか来るんだな」


 竜也も弥生の存在に気がつき、弥生の方に視線を向ける。

 

「放課後に会えるなんて……今日は良い日だ」


「お前の良い日の基準低くね? しかし、珍しいな……」


「あぁ、こんなところで会えるなんて」


「声でも掛けて来たらどうだ? チャンスじゃないか」


「アホか、一人きりならまだ行けたかもしれないが、あっちには他にも女子が居る。そんなところに話し掛けになんて行けるか! はっ倒すぞ!」


「なんで俺は怒られたんだ……でも、丁度一人になったみたいだぞ?」


「え?」


 竜也に言われ、純が改めて弥生の方を見てみると、先ほどまでいた弥生の友人が消え、弥生一人になっていた。

 おそらくトイレにでも行ったのであろう、弥生は近くの椅子に座って、スマホを操作していた。


「チャンスじゃね?」


「そ、そうかもしれないが……」


「あぁ! もう、いい加減に進展させて来いよ! お前が動かなきゃ、何も変わらないぞ?」


 竜也に言われ、純は踏み出す勇気を固める。

 純は無言でうなずき、弥生の方に向かって行く。

 そんな純の姿を竜也は暖かい目で見守る。

 しかし、後数歩で声を掛けられる位置に到着すると瞬間、大きな警報音が店内中に鳴り響く。


「な、なんだ?」


「おい純! 避難警報だ! 行くぞ!!」


 避難警報とは、自然災害などの際になる警報で、大きな人的被害が及ぶ場合にのみなる警報だ。

 しかし、あまり自然災害でこの警報は鳴らない。

 そして、この警報が鳴った場合は、街の各所に設置された地下シェルターに避難しなければならない。


「先に行っててくれ!」


「あ! おい純!!」


 純は竜也に先に行くように言い、その場を離れて弥生の元に走った。

 それはもちろん、混乱する店内から一緒にシェルターに向かう為だ。

 しかし、人が多く先ほどまで弥生が居た場所には、もう弥生は居ない。


「避難したのか……」


「そうなんじゃない?」


「うわ! いきなり出てくるな!」


「大丈夫だよ、誰も居ないことは確認したし、それに早いとこ君に行ってもらわないと困るし」


 純だけとなった店内で、純の隣には半透明の若い男が純に話し掛けた居た。

 その若い男を純は知っていた。

 正直あまり顔を合わせたくない相手であり、純自信毛嫌いしていた。


「警報なったから、なんとなく感じてたけどよ……毎回毎回飽きずによく来るよな?」


「それは彼らに聞いてよ、僕はこの世界担当の神ってだけで、敵の意図だってわからないんだからさ」


「神様なら、相手の心を読むとかの凄い能力の一つや二つ見せろよ」


「そんなこと出来たら、プライバシーの侵害だろ? 全く君は常識を知らないな~」


「神様に常識とか言われたくねーんだよ!」


 神を自称する男と純が出会ったのは半年ほど前の事である。

 しかし、その経緯については順を追って話しをしなければ、説明が出来ないのでその都度説明しよう。


「兎に角、敵はどこだ?」


「この店の……わぁお、直ぐ近くだ! 移動が楽だね!」


「アホか! そんなの最悪じゃねーか!! さっさとうわっ!!」


 突然の爆風によって、純は吹き飛ばされてしまった。

 爆発の影響で、店内のガラスはすべて割れ、ゲーム機の筐体も倒れ、店内はボロボロになってしまった。


「……見つけたぞ……貴様が……」


「あいてて……爆発させるなら、事前に報告しろよ…死ぬとこだったぜ」


 爆発が起きた場所には大きな大穴が開いており、その穴からは全身真っ黒な人の形をした怪人が立っていた。

 頭には一本の角があり、背中からは片翼だけの真っ黒なコウモリの羽のような物が生えていた。

 右手には槍を持ち、顔には目が一つあるだけ。


「あらら~見つかっちゃったね~、IDさんの中でもこの個体は有能そうだ」


「関心してる場合か! お前は良いよな! 実体無いから攻撃も受けなくて!」


 IDとは、人を襲う怪人の総称だ。

 正式な名前はInvader。

 先ほどの警報はこの怪人が現れた事を指していたのだ。

 IDは突然現れては町を破壊し、人々を襲う。

 しかし、IDの目的は未だわかっておらず、政府は自衛隊や警察の特殊部隊を派遣し、日夜このIDと戦っている。


「オーブのありか……教えてもらうぞ!!」


「うわ! 来た!!」


「さっさと装展(そうてん)してよ。このままじゃやられちゃうよ?」


「わかってるっての! 全くよぉ! いっつもいっつも! 人の日常を壊しやがって!」


 純はそう叫ぶと、学生服の内ポケットから赤い色の宝石を取り出し上に投げる。

 すると、宝石は目映い光を放ち、純はその光に飲み込まれる。

 そして、光が収まると純の姿はすっかり変わっていた。


「普通さ~、こういうときって、変身! とか叫ぶ物じゃないの? 子供向けのテレビ番組では皆やってたよ?」


「神様が何を見てんだよ……んな恥ずかしいこと言えねーっての」


 純の姿は、全身をアンダースーツで覆い、各部に鎧を纏うような形の姿に変化していた。

 肩、胸、腕、足にはそれぞれ、赤い宝石のついた鎧がプロテクターの用に各部に装着され、顔には仮面が付けられていた。


「やはり貴様か……我らの邪魔をする人間というのは……ここで始末する!」


 怪人は構え直し、純に槍を向けてやってくる。


「フン!」


 純は怪人が向けて来た槍を掴み、そのままへし折る。


「何!」


「こんな棒きっれ、前に来た奴も使ってたな」


 怪人は槍を捨て、純から距離を置き離れる。

 しかし、純はその間合いを直ぐに詰めて反撃する。


「おらよ!」


「ぐっ……き、貴様ぁぁ……」


 純が怪人の腹めがけて放った拳は重たく、怪人ごと店の壁を壊して店の外の大通りに怪人を出した。


「せっかく……せっかく……姫嶋さんと話しが出来そうだったのに!」


「君、まだ諦めて無かったの? 未だに声も掛けられないようなら、やめた方が良いと思うけど?」


「うるせぇ! 仕方ねーだろ、好きなんだから! さっさとこいつを片付けて、俺は……」


「あのさ、話しの途中で悪いんだけど……あれ、やばくない?」


「え?」


 空中に横になりながら付いてくる神様に言われ、純が怪人の方を見ると、怪人は人質を取っていた。

 自らの腕を刃物に換え、人質に刃物を突きつけていた。

 そして、純は人質を見た瞬間に目を疑った。


「こいつがどうなっても良いのか?」


「ひ、姫島……さん」


 人質に取られて居たのは、弥生だった。

 弥生は恐怖で目から涙を零していた。

 おそらく逃げ遅れたのだろう、近くには地下のシェルターへの入り口があった。


「大人しくしろ……そうすれば、ぐはっ!!」


 怪人が何かを言い終える前に、怪人は吹き飛ばされた。

 となりの弥生に怪我は無く、何が起こったかわからない様子でただ怪人と純の様子を見ていた。


「あ~あ、IDさ~んそれは彼にとっては逆効果ですよ~」


 神が呆れた様子でそう言う。

 そう、怪人を吹き飛ばしたのは純だった。

 弥生が人質にされて居ることに、純はキレてしまい咄嗟に体が動き怪人を吹き飛ばしたのだ。


「な、なんだ……こ、こいつ、ぐはっ!」


「おい……」


 純は怪人に近づいていき、首を持って怪人を持ち上げる。


「姫島さんを泣かせたな……」


「き、貴様……なんでそこまでの……力を……」


「そんなの決まってるだろ……」


 良いながら純はもう片方の開いた右手で拳を作る。

 純の右手は目映い光を放ちその光と共に、純は怪人の腹めがけて拳を突きつける。


「ぐわぁぁぁぁ!!」


 怪人は光になって消えていった。

 そして、純は消えた怪人にむかって一言、言葉を掛ける。


「恋の為だ」


「そこは世界の為って言ってほしかったなぁ~」


「どわ! 急に現れるな!」


「何だよ恋の為って……ただの片思いじゃん」


「お前は本当に人をイライラさせる性格してんな……」


「お、ありがとう~」


「褒めてねーよ! それより姫嶋さんは?」


「大丈夫、彼女は無事に避難したから、そんな事よりもさ、早く逃げないと人が来るよ?」


「え? うわマジだ! 逃げないと!」


 神様の言うとおり、道路の向こう側から車の走ってくる音が聞こえる。


「別に正体明かしても良いんだよ? 無理して正体隠し続けなくても良いのに」


「馬鹿! こんな馬鹿げた力を一介の高校生が持ってたらおかしいだろ? 説明しようにも感じのお前は俺にしか見えないし……それにだ、俺達が壊した色々な物の修繕費とかの請求書が全部俺に来たらどうするんだよ!」


「要するにヒーローやるのも大変って事だね」


「わかってるなら聞くなよ」


 神様と言い争いながら、純は元の姿に戻り出来るだけ遠くへ逃げて行く。

 これがこの世界でヒーローをやっている高校生、飯嶋純の日常だ。

 日夜怪人と戦い、彼は人々を守っている。

 しかし、それは決して世界を守りたいとか、人々を守りたいと言った理由ではない。

 彼がこうして戦う事になったのにはとある理由があった。


「おい神、あの約束忘れてねーよな?」


「もちろん、でもそれまではしっかり働いてもらうよ?」


「ま、仕方ねーか……だけど約束通り、俺は片手間でしか怪人と戦わないからな」


「わかってるって、だからこれからもよろしくね」


「へいへい」


 純と神様は、そんな会話をしながら町の中に消えて行く。

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