自転車盗の危機的火急
この自転車は、この私に盗まれるべくして盗まれた自転車なのです。
つまり必然的に起こった出来事なのです。
先程から再三申し上げていますが、要約して今一度お話ししましょう。
まず私が極めて危機的状況に陥りました。そして火急の状況でもありました。
ここで「どのような危機的状況か」ということは必要な情報ではありません。
そんな情報は、この話を混乱させるだけです。
むしろ純粋に「危機的状況」というだけであって、理由などは存在しません。
そうです、「私が危機的状況になった」という事実だけが存在しました。
その上、火急の状況なのです。
ここで私は早急に行動、つまり移動する必要がありました。
「どこかに行く」ということや、「ここから去る」という問題ではありません。
「移動する」ことが目的なのです。
「危機的かつ火急の状況」が存在し「移動する」ことが私に課せられたのです。
その時、私は思い出しました。昨夜の夢を。
この現実は、昨夜の夢の中ですでに体験していることでした。
そして自転車がある場所も、鍵がかかっていないことも知っていました。
そして私が、その自転車を盗まねばならないことも知っていました。
当然、私は昨夜の夢の通りに行動しました。
その後のことは夢にはありません。それで終わりなのです。
そして私は一つ確信していることがあります。
「危機的かつ火急の状況」「早急に移動せねばならないこと」と同様、
「盗まれなければならない自転車」もまた、そこにある理由などないのです。
その証拠に、この自転車には持ち主は存在しないでしょう。
「持ち主」など必要はないからです。
所詮、この世のことは「状況」「目的」「手段」が純粋に存在しているに過ぎないのです。
今回の私の事のように。




