プロローグ
初めまして、もしくは、お久しぶりです。
最後までお付き合いくださると幸いです。m(_ _)m
エレンの母は珍しい「癒し」の力を持った術師だった。
『エレン。この力は正しく使われるべきなの』
人々を癒していく母に憧れて、エレンもその道を志した。エレンと同じ、雪のような髪をした母の背中を追いかけるために。…そして、守るために。
癒しの力を持つ術師は、とても希少だ。
しかし、その希少性ゆえに母は利用された。その挙句「口封じのため」と言わんばかりに…殺された。
まだ幼かったエレンの目の前で。
『…心配、しないで。エレン。お父様は必ず、必ず、……助けてくださるから』
地面に打ち付けられ、
倒れた母にエレンは必死で習いたての力を使った。しかし、どうしても上手くいかない。癒しの力は心の乱れをそのままに表すのよ、という母の言葉が思い出される。それが悔しくて、情けなくてたまらないエレンは唇を噛みしめた。
それに、『お父様』だなんて。エレンには『お父様』という存在はいないのに。
『…だめよ、そんな無為に力を使っては。エレンに負荷がかかるわ』
まだ上手く力を制御できないエレンに、母の手が重なる。その手は母の純粋な体温ではない、赤いぬくもりに包まれていた。
『…母さんっ!だめ!!私が助けるから!!私が、私が…!!』
どうしてできないのだろう。
母と同じことをしているのに。
…こんなに、歯がゆいのに!!
『…エレン、ずっと言えなかったことがあるの』
弱々しい呼吸の下でエレンを安心させるようにその力を母は使う。やめて、お願い、と口に出してもだめだ。
『あなたの、お父様は、……よ』
『え…?』
『そして、私たちは森の巫女…白の一族の末裔』
もりのみこ、しろのいちぞく、とそのまま繰り返したエレンに母は微笑んだ。
『そう…。エレン、私のブレスレットを取って』
言われるがままにそれを取って身につけると、母はほっとしたように息をつく。銀のブレスレットはとても精緻な装飾がほどこされ、いつも母の左手首を飾っていたものだ。よく見ると、不思議な紋様が刻まれている。
『…それを持って、クラヴィス伯爵を訪ねて。きっと、彼ならわかってくれる』
『どうして??それに、彼って誰のことなの??伯爵様なんて私…』
ゴホっ、と妙な咳とともに血を吐いた母を慌てて支える。その命はもう幾許も残されていない事実に、エレンは目の前が真っ暗になった。
『いや、いや!!母さん…!!私、まだずっと一緒にいたい!!』
母は泣き笑いのような顔でエレンの頬を撫でた。そして、ツンとした血の香りがエレンを包む。
『……ごめんね。だいすきよ、エレン。あの人に伝えて、ね…ずっと、あいしてる…っ、て』
くたり、と力を失った腕が地面に落ちる。
どんよりと曇った空からはポツリポツリと冷たい雨粒が降ってきた。雨はどんどん激しさを増し、頬についた母の血も、その雨で流れたようだ。
エレンは────────。
泣き叫ぶことすらできずに、母の冷たくなった体をずっと抱きしめていた。まるで、ぬくもりを取り戻すかのように。
そして、エレン自身に起こった大きな変化を知ることはなかった。
12時にもう1話更新します。




