桜が咲くころには・・・・・・
DragKnight書いてなくて本当にごめんなさい。
部誌用の短編です。
「桜が咲くころまであと少しね・・・・・。」
少女は痩せこけたほほを青年に向けてそう言った。
「そうだな。だからそれまでにも早く体を治して外出許可を得よう?」
青年は少女にそう言った。
これはある病室での一幕。しかし、少女の望みは叶うことは奇跡でも起きない限り絶対に無い。
なぜなら・・・・・・
「ん・・・・。」
彼、安住雄二は自分の部屋で目を覚ました。
「またあの日の夢か・・・・。」
青年の部屋に飾られている写真の中には、青年の横ではにかみながらカメラの方を向いてピースしている少女の姿が写っている。
「なぁ、俺の選択は間違っていたのかな。・・・・裕香。」
青年は写真に写っている少女の姿をなぞりながらそうつぶやいた。
……写真を撫でるその姿をうっすらとした輪郭の少女が部屋の隅で見つめているとも知らずに。
写真をあらかたなぞった後、青年は紅い日が差し込む窓の外を見る。窓の外には宙に浮かぶ車や電車、そして宙を舞う人の姿があった。
「あの日の俺の選択を正しに行こう。」
青年は部屋の隅の方にある機械を起動させ、そしてその部屋、いやその世界から姿を消した。そのあと、彼を心配するように見つめていたうっすらとした輪郭の少女もその場から彼を追うように消えた。
少女が消えた直後、その世界は己の質量に耐え切れずに過去に日本と呼ばれた地域を中心に内側に向けて崩壊しすべて闇へと消えた。紅く染まった大きな桜の花弁のみを残して。
少年はその日、選択を間違えた。
自分が恋する彼女のために悪魔に己の魂をささげて季節外れの桜を咲かせようとするべきではなかった。
少年に提示された選択肢は二つ。
一つ、彼女のために季節外れの桜を咲かせる。
二つ、彼女を桜の季節まで生きながらえさせる。
少年は迷うことなく一つ目の選択肢を願った。
そして悪魔は願いを叶えた代わりに少年の死後、その魂を手に入れる
…………はずだった。
しかし、その願いは悪魔が少年の魂を手に入れる前にエクソシストに狩られてしまったことで歪んでしまう。
少年が願った季節外れの桜は人の血を吸いその花の色をうっすらとピンク色に染めるものへと悪魔が死に際で呪ったことで変わってしまった。
まずその桜は少年の親族を殺しその花をピンク色に染めた。
次にその近所に住む人を、そして日本という国に住むほぼすべての命を、その果てには世界中のありとあらゆる人種の人たちの命を奪いその血で花弁をうっすらとしたピンク色に変えていった。
その桜は本来桜が生息できないはずの地域まで現れ、そしてすべての命を奪っていった。
それに対して人間もあきらめてはなかった。その桜を世界的に≪SAKURA≫と命名し、その出現に関するデータを命がけで集め続けた。
その結果、かなりの数の尊い命を犠牲にして得たデータによりこれだけのことが分かった。
・SAKURAはそれ以外の木に侵食してその身を増やす。
・SAKURAに襲われたもので生き残れるものはいない。
・SAKURAの対処法は未だに存在しないが、唯一火を恐れるようなそぶりを見せることはある
これだけである。多数の死者と引き換えに得たデータはたったそれだけだったのである。
全世界の内の生き残った人々は残っている森林を全て破壊し、そして大気汚染を自ら深刻化させることになった。
悪魔に願った少年はそのデータが世界的に発表される頃にはすでに青年となっていた。
青年がすぐにSAKURAの正体に気付くことは無かったが、いつも自分の周りをうろうろしていた悪魔が居なくなったころにSAKURAの初目撃証言がでたことと、最初の被害者が自分の親類だったことに少なくとも違和感を覚えてはいた。
そして、ある日SAKURAの真実を知った。
その日、青年が何も考えずにニュースを見ていると、そこにはSAKURAの被害が一番ひどい地域からの中継が流れていた。そしてそこには科学者たちから通称コアと呼ばれているヒトガタを映している映像が流れていた。
そのコアの姿は青年が悪魔と契約した理由の根幹であり、そして彼がそれまで生きてきた人生で唯一恋した少女の姿をしていた。
そして青年は後悔の果てに科学の力で手に入れた過去への片道切符を持って過去へ飛ぶ。
それもその世界の運命にもともと織り込まれているものと知らずに・・・・・。
良ければ他の作者作品を読んで行ってください。